【これだけは押さえておきたい】インプラント周囲炎とは

この記事は
無料会員限定です。

歯科衛生士コラム

 インプラントを入れた患者さんに対応する上で、押さえておくべきなのは「インプラント周囲炎」に関する知識です。前回に引き続き、今回も新人の方やインプラントに馴染みの無い歯科衛生士の方に向けて、インプラント周囲炎を簡単に解説します。

インプラント周囲炎とは
インプラント周囲炎とは、簡単に言うと歯周病のインプラント版です。歯周病は天然歯周囲に起こるものを言いますが、インプラント周囲炎はインプラント周囲に起こるものを言います。

インプラント周囲炎と歯周病の違い

インプラント周囲炎と歯周病は、起こる部位以外にも違いが多くあります。

  インプラント周囲炎 歯周病
痛み 出ない 出やすい
歯肉の腫脹・出血 起こりにくい 起こりやすい
歯やインプラントの動揺 起こりにくい 起こりやすい
進行 速い ゆっくり

 歯周病はう蝕に比べて痛みが出にくいと言われるものの、軽度の炎症で歯肉が赤く腫れたり歯磨き時に出血したりすることで自覚しやすいです。進行すれば歯が動揺してくるため、噛みにくくなったことで歯科医院へかかる方も多いでしょう。

 それに対してインプラント周囲炎では、炎症や出血といった自覚症状が出にくいです。痛みも出ず、歯周病のように歯が動揺してくることもそう多くありません。そのため「かなり進行していても問題無く食事ができる」ということもあり、発見に時間がかかってしまいます。

 なおインプラント周囲炎はなかなか症状が出ないにも関わらず、その進行はとても速いです。歯周病は1年で0.1〜0.2mmずつ骨吸収が起こると言われているのに対し、インプラント周囲炎では1年で1〜2mmもの速さで骨吸収が起こるとされています。つまり進行速度は歯周病のおよそ10倍。かつ自覚症状が出にくいため、気付いたときには手遅れだった・・・ということも少なくありません。

インプラント周囲炎の原因
 インプラント周囲炎の原因はいくつかあります。
  • プラークコントロール不良
  • 喫煙
  • 全身疾患

プラークコントロール不良

 インプラント周囲炎は、歯周病と同様歯垢などに含まれる細菌によって起こります。そのため患者さんご自身によるセルフケアが欠かせませんが、インプラントを入れた部分は天然歯と違ってセルフケアが難しいことも多いです。患者さんには定期検診や専門的なクリーニングの大切さを理解してもらう必要があります。

喫煙

 歯周組織の修復に必要な酸素や栄養は、血液に乗って歯周組織に届けられています。しかしタバコに含まれるニコチンや一酸化炭素には、血管を収縮させたり血流を悪くしたりする作用があります。そのため喫煙をすると歯周組織に血液が行きにくくなり、それと同時に歯周組織へ酸素や栄養が届きにくくなります。

 私たちの体も食事から栄養を摂っていないと元気が出なかったり、免疫力が下がったりしてしまいますよね。それと同じで、血流が悪く酸素や栄養が届かないことで歯周組織は栄養不足となり、抵抗力が弱まります。これにより歯垢などに含まれる細菌に打ち勝つことができず、歯肉が炎症を起こしたりインプラントが抜けたりしてしまいます。

 その他喫煙は白血球の機能や細胞の増殖をも抑制する働きがあります。また唾液量の減少により細菌が繁殖しやすくなり、インプラント周囲炎の進行に拍車をかけます。

全身疾患

 インプラント周囲炎は、全身疾患によってもリスクの高まることがあります。特に糖尿病の患者さんは、白血球の機能が抑制されたり骨代謝が悪くなったりすることで、インプラントと骨が上手く結合できない可能性があります。また糖尿病が進行することで歯周組織の抵抗力が低下し、歯垢などに含まれる細菌に打ち勝つことができず、インプラント周囲炎のリスクが高まります。

 ただ糖尿病の既往があるからといってインプラント治療を行えないわけではありません。血糖値やHbA1cなど、値のコントロールができていればインプラント治療を行うことができます。

インプラント周囲炎の治療法
 インプラント周囲炎の症状が見られたら、以下のような処置を行います。
  • スケーリング
  • PMTC
  • TBI
  • ポケット洗浄
  • 咬合調整
  • 薬物療法
  • 外科治療


  •  軽度の炎症であれば、クリーニングやセルフケア方法の見直しで改善を試みます。しかし炎症が進行し骨欠損が見られる場合には、薬物療法や外科治療を行います。なおインプラント表面に付着した細菌を完全に取り切るのは簡単なことではありません。そのため状態によってはインプラントごと抜去になることもあります。

    インプラントを入れている方へのTBI方法

     インプラントを入れていない方でも、セルフケアにおいてフロスや歯間ブラシを併用するのは重要なこと。インプラントを入れている方においてはなおさらです。加えてブリッジ型のインプラントを入れている方やAll-on-4による治療を受けた方には、ポンティック下部や支台であるインプラント周囲に対してスーパーフロスの使用も勧めます。スポンジが付いていることで、フロスよりも効率良く確実にプラーク除去ができます。ただフロスよりも高価であるため、可能であれば歯間ブラシでの代用を検討しても良いでしょう。

    フッ素含有歯磨剤はインプラントに使用しても良い?

    フッ素の含まれる歯磨剤を使用すると、チタン系インプラントが腐食するため避けるべきという考えが過去にありました。しかし最近では、フッ素入りの歯磨剤をインプラントに使用しても問題無いという考え方も出てきています。なぜならフッ素濃度が1000ppm程度の歯磨剤を使用しても、フッ素が唾液により薄められるとされているからです。また日本国内で流通している歯磨剤のフッ素濃度は1500ppm未満と定められていますが、チタン系インプラントが腐食すると報告されたときのフッ素濃度は9000ppm。フッ素含有歯磨剤を使用することによるメリットの方が多いと考えて良いかもしれません。患者さんに対してどのような清掃用具を勧めるかは、歯科医院の方針によっても変わってきます。悩んだ場合は職場の先輩歯科衛生士に相談してみましょう。

    他の歯科衛生士コラムを読む
    セラミック
    【これだけは押さえておきたい】セラミックのきほんのき
    【これだけは押さえておきたい】保険適用になるセラミック

    インプラント
    【これだけは押さえておきたい】インプラントのきほんのき
    【これだけは押さえておきたい】インプラント周囲炎とは

    ライフスタイル
    歯科衛生士が仕事中にメイク崩れを起こさないための方法
    日本歯科衛生士会の「認定資格」とは?分野A・B・Cの審査資格を解説

    転職
    まずは何をすべき?転職を考えたらやるべきことと転職先の決め方
    【歯科衛生士の転職事情】転職理由や転職先の探し方を解説!

    ホワイトニング
    これだけは押さえておきたいホワイトニングのきほんの「き」

    マウスピース
    マウスピース矯正の種類・メーカーと違い一覧。矯正患者へのTBI方法
    【これだけは押さえておきたい】マウスピース矯正のきほんのき

    歯科衛生士ができること(仕事内容)
    歯科衛生士 できること できないこと
    歯科衛生士になるには?
    浜崎 実穂

    東京医科歯科大学卒業後、大学病院に歯科衛生士として勤務。大学の卒業研究では、日本歯科衛生学会の学生研究賞(ライオン歯科研究所賞)を受賞。2019年4月からフリーライターに転向し、自身で立ち上げた歯科メディアは売約を達成。現在は「歯科衛生士ライター」として活動し、歯科企業や歯科医院でライティング業務を行う。

    記事提供

    © Dentwave.com

    この記事を見ている人がよく見ている記事

    新着ピックアップ