2020パラオ共和国ベラウ国立病院における草の根医療ボランティア活動

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田島聖士氏(AOI国際病院 歯科口腔外科)、須田俊一氏(AOI国際病院 形成外科)、小澤幹夫氏(防衛省海上自衛隊歯科)、小川允知氏(福岡県福岡市開業)、岡本高太郎氏(福岡県福津市開業)は、2020年2月にパラオ共和国のベラウ国立病院にて医療ボランティア活動を行いました。
 今回は偶然ではありますが、2グループが1週ずつ活動し、計2週続けてのボランティア診療となったため、歯科診療の連携および継続治療を実施することができました。
田島氏らのこの活動は個人の有志レベルで実施されており、2017年3月、2018年1月、2019年3月に続く4回目の活動です。本記事では今回の活動報告と今後の展望についてご報告します。このボランティア診療の経緯等については、前々回の記事をご参照ください
https://www.dentwave.com/article/report_89755/)。
 また、小川氏と岡本氏は今回が初めてのボランティア診療のため、その経緯等は下記に記載しております。

1.活動期間

(1)2020年2月20日~2月25日:小川氏、岡本氏の活動
①経緯
小川氏は2年前に家族旅行を機にパラオという国の魅力にのめり込み、出会うパラオの人たちの歯牙欠損が多かったため、歯科医師として何かできないかと考えました。帰国後、歯科雑誌の記事でパラオのベラウ国立病院に邦人歯科医師である中野浩嗣氏が在籍していることを知り、連絡を取りパラオでの活動をスタートしました。今回一緒に活動した岡本氏と共に、去年の5月に視察のため病院を訪れ、その際にボランティア診療を提案して頂き、今回の活動に繋がりました。
②活動内容
小川氏、岡本氏は4日間、一般歯科診療(コンポジットレジン充填、根管治療、抜歯等)を行いました。現地の衛生士のサポートで、思ったよりもスムーズに治療環境に慣れるにことができました。治療が終わると、多くの患者さんが「センセー、アリガトウ!」と握手を求めてくれました。戦前、日本が委託統治をしていたこともあり、パラオ語には日本語由来の言葉が多く残っています。『先生』も『ありがとう』も、パラオでは日常で使われている言葉だそうです。この様なストレートな感謝の意を感じられることがとても嬉しく、初日から大きなやり甲斐を感じていました。
 SNSでの呼びかけに多くの方々が賛同してくれて、支援物資の寄贈も行うことができました。病院長からも熱烈な感謝の言葉を頂くことができました。

▲ボランティア診療、ドネーション寄贈の様子
(2)2020年2月26日~2月28日:田島氏、小澤氏、須田氏(歯科口腔外科、形成外科)の活動
①活動内容
Ⅰ.歯科口腔外科
 1日の患者数は約10名で、治療内容はコンポジットレジン修復、根管治療、単純抜歯、難抜歯、埋伏智歯抜歯でした。今回は偶然でしたが、前週の小川氏と岡本氏による活動後の継続診療(根管治療や炎症患者等)も行うことができました。
 現地歯科医師の治療や歯科スタッフ家族の診療予約が多く入っており、また現地の歯科医師と治療についてディスカッションも行い有意義な活動となりました。


▲ボランティア診療の様子(歯科口腔外科)
Ⅱ.形成外科
 1日の患者数は約8名で、治療内容は外来診察と外来手術・処置(軟性線維腫、皮膚線維腫、脂漏性角化症、色素性母斑、尋常性疣贅、顔面瘢痕)を行いました。


▲ボランティア診療の様子(形成外科)、色素性母斑の術前・術後の写真
Ⅲ.その他
 保健省の方から教育省の担当者をご紹介いただき、パラオの小学校等、計29校に絵本「えんとつ町のプペル」(西野亮廣著)を寄贈致しました。

▲絵本寄贈時の様子

2.課題

(1)歯科口腔外科
①口腔健康
 パラオの歯科事情として慢性的な歯科医師不足が挙げられ、BNH以外に開業医が2件しかない状況で、若い先生の育成や継続的なボランティアスタッフの派遣が望まれます。
 歯科疾患に関してはう蝕・歯周病など様々な問題が山積しており、長期的には衛生士による口腔衛生指導の充実や、小児の段階でのう蝕予防や学校での歯科検診などの活動が必要です。
 また、パラオ国民の成人の多くは、ビートルナッツ*を噛む習慣があり、これにより口腔衛生状況(歯牙や粘膜の黒色変化、口腔がん、極度の磨耗)に悪影響を及ぼしております。パラオの医療スタッフも噛んでおり現地の文化として定着しているため、早急な変化は困難と思われますが、この習慣からの脱却が必要であり口腔がん予防も含めた更なる口腔衛生に関する啓蒙活動が必要です。
(*ビートルナッツ:ビンロウ、ビンロウジとも呼ばれ、太平洋・アジアおよび東アフリカの一部で見られるヤシ科の植物。ビートルナッツをキンマ(コショウ科の植物)の葉にくるみ、少量の石灰と一緒に噛む。場合によっては紙タバコを混ぜることもある。噛んでいると、アルカロイドを含む種子の成分、石灰、唾液の混ざった鮮やかな赤い液が口腔内に溜まる。この赤い唾液は吐き出すのが一般的であるが、ビートルナッツには依存性があり、国際がん研究機関(IARC)はヒトに対して発癌性を示すとしている。)

▲ビートルナッツとそれを日常的に噛んでいる患者の口腔内写真
②歯科技工
歯科技工に関しては院内で有床義歯は作製していますが、クラウン・ブリッジの作製は行っていません。しかし、希望患者で費用を支払える方にはパラオで印象を取って、フィリピンへ送り作製して、ベラウ国立病院でセットしています。歯科診療部門に対して十分な予算手当はなされておらず、これまで米国や日本を含めた諸外国からの支援により、歯科治療が維持されている状況です。
(2)形成外科
須田氏の外来診療においては、家庭医のDr. SantosとNs. Premの診療補助があり、スムーズに行うことができました。しかし、前回の課題である滅菌物品の準備と患者への周知に関しては事前にお願いしていましたが、いざ当日外来に到着すると形成外科医が来ることを知らないようでした。そのため、まず病院中から手術器具を探しつつ病院内のスタッフに何か困っていることはないかと声をかけて患者を探すことからスタートしました。診療中のエピソードを一つ紹介しますと、外来診察室での手術中にライトが無かったためNsが携帯電話のライトで照らしながら手術を行っていたのですが「充電が切れそう」と言われ、「急いでやりますね」という感じで日本では経験のない状況でした。ちなみに全身麻酔も可能な手術室もありますが、アメリカから医療支援で来ていた整形外科チームが使用しておりました。今回の診療内容は日本の形成外科であればどこでも治療可能な疾患ですが、パラオでは相談しても治療はできないと断られてしまうようです。大した手術でないのですが、術後に満面の笑みで喜んでくれ、その笑顔が嬉しくてこちらの方が元気を貰いました。

3.今後の展望

この活動に関して今年も多くの方々からご支援をいただきましたことを感謝致します。
 今回歯科では偶然ではありますが、2つのグループが1週ずつ活動し、計2週続けてのボランティア診療となったため、歯科診療の連携および継続治療を行うことができました。

▲今回ボランティア日本人歯科医師の引き継ぎで診療を行ったカルテ(右側頬粘膜の炎症)
 このような日本人同士の連携ができれば、パラオの歯科治療技術向上に貢献できると感じており、私たちは今後パラオでのこの活動を「医療ボランティアに思いのある日本の歯科医療従事者に広めていきたい」と考えております。
 パラオのボランティア診療では、多くの患者さんがいること、日本の医療従事者が現地の困っている患者に貢献できる事が多いにあること、日常臨床でつい忘れてしまっている医療の原点を感じることができると思っております。継続的なボランティア活動には多くの方のご協力が必要であり、今後定期的なボランティア活動を行える支援体制ができればと考えています。

4.まとめ

現地の歯科医療に携わった時間は大変充実しており、医療人として幸せな時間でした。「医療人としてどうありたいか?」、日常生活においてあまり考えることはないですが、パラオでの数日間は、人として、日本人として、歯科医師として大変貴重な時間となりました。
 我々は、今回のパラオボランティア活動により偶然に出会えたメンバーではありますが、今後はこれを機に協同してこの活動を継続するとともに、志を同じにするメンバーを増やしていきたいと考えております。
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