ガラスハイブリッド対コンポジット:多施設共同臨床試験における有効性と費用対効果

ガラスハイブリッド対コンポジット:多施設共同臨床試験における有効性と費用対効果

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2013年に締結された「水銀に関する水俣条約」により、EU諸国は2030年までに歯科用アマルガムなどの水銀を含む工業製品を供給・廃棄サイクルから完全または大部分を排除することを約束しました。2020年には専門家の意見により、歯科用アマルガムの計画的な段階的削減だけでなく、完全な段階的削減も可能であるという結論に達しました。したがって、歯科用アマルガムは過去の材料となりつつあります。

しかし、ドイツをはじめとする多くの国では、水俣協定が締結されなくてもこのような進展は以前から明らかでした。コンポジットやグラスアイオノマーのような最新の歯牙色の修復材料は、金属を使用せずに歯牙構造の欠損を修復することができ、審美性に優れ、準備中の物質損失も少ないのです。

複合材料は、高い曲げ強度などの有利な物理的特性を持つ一方で、その使用は技術的に困難です。近年歯科業界では、コンポジット充填物を装着するために必要な治療ステップの複雑さを大幅に軽減することができましたが、最新のワンステップ接着システムとバルク充填コンポジットの組み合わせであっても、虫歯の寸法や材料に応じて、少なくとも2回に分けて塗布しなければならないことが多いため、段階的な塗布と十分な乾燥が必要です。さらに、コンポジットはアマルガムと比較して、特に歯肉頚部辺縁での二次カリエスのリスクが高く、前述の時間短縮のための材料はこの点で特に問題があると思われます。

しかし、グラスアイオノマーは一時的な材料であり、後方領域での使用には限界があると考えられていました。これは、曲げ強度が低く、耐摩耗性に乏しいという物性に起因するものです。これらの欠点を解消するために、高粘度のグラスアイオノマーに光重合性樹脂をコーティングしたものが登場しました。

2015年には、ガラスハイブリッドという新しいクラスの修復材料が発売されました。これらの材料は、フルオロアルミノシリケートガラスをより小さく反応性の高い第2のシリケート粒子と分子量の大きいアクリル酸分子で強化したもので、マトリックスの架橋度を高めその結果、材料の機械的特性を向上させることができます。ナノ充填レジンコートは、修復物を覆うために使用され、機械的な力に対する材料の抵抗力を高め、より高い表面安定性と審美性を可能にするとされています。またレジンコートは、咀嚼負荷領域で一定の摩耗が生じても再度塗布することができるため、何よりも耐摩耗性の問題を大きく解消することができます。

また、ガラスハイブリッドは複合材に比べていくつかの利点があります。

1.自己調整型、自己接着型であるため、接着剤を使用する必要がありません。
2.これらの製品はすべての層で信頼性の高い重合が行われ、軽い重合ステップとは無関係に1つのインクリメントで、つまりキャビティの大きさに関係なく真のバルクで適用されます。
3.湿気にも適度に耐性があります。

最近発表された研究では、最新のガラスハイブリッド材料が、臼歯部の咬合面-近心面の2面修復、つまり荷重負荷領域の修復において、確立されたコンポジット材料に対して初めてテストされました。この試験では、修復を必要とする2本の臼歯を持つ患者を対象に、一方の臼歯にグラスハイブリッド材、もう一方の臼歯にコンポジット材を使用するよう無作為に割り付け、同じ患者で両材料を比較した無作為化比較臨床試験です。さらに、この研究はクロアチア、セルビア、イタリア、トルコの4つの国で行われました。4カ国とも、患者は大学病院で治療を受けていました。患者は18歳以上、バイタルテストで歯が過敏になっていることが条件でした。対象となったのは180名の患者で、それぞれが修復すべき一対の大臼歯を持っていました(つまり360本)。

表1:患者の特徴、費用、平均(標準偏差)生存期間(ページ下)

まず歯を洗浄し、局所麻酔を施した後、コンポジット(Tetric EvoCeram,Ivoclar Vivadent)で修復する大臼歯をデンタルダムで隔離し、グラスハイブリッド(EQUIA Forte,GC)で修復する大臼歯をコットンロールで隔離した後、窩洞形成を行いました。セグメントマトリクス(パロデントプラス、デンツプライシロナ社)を用いて近心コンタクトを形成しました。コンポジット群には2段階のセルフエッチング接着システム(AdheSE,Ivoclar Vivadent)をメーカーの指示に従って塗布しました。グラスハイブリッド群の窩洞には、修復物を装着する前に20%のポリアクリル酸でコンディショニングを行いました(CAVITY CONDITIONER,GC)。その後、両材料をメーカーの指示に従って塗布し、グラスハイブリッドにはナノフィラーレジンコート(EQUIA Coat、GC)を塗布しました。

患者は合計3年間フォローアップされました。計画された全体のフォローアップ期間は5年間です。各患者は盲検化され、独立して校正された2人の調査員によって、FDI世界歯科連盟の基準を用いて検査されました。統計的手法を用いて、両群の合併症発生までの平均時間を求めました。さらに、研究期間内に行われた初期治療とその後の治療(例えば、修復、歯内療法、外科的合併症など)にかかった費用を決定しました。この目的のために、各国の歯科医師の料金表に記載されている料金項目を使用しました。但しこれらの料金表は4カ国で非常に異なって適用されており、分析のコストは個人開業の場合ではなく、大学設定の観点から決定されていることに留意する必要があります。4カ国間での比較を可能にするため、費用は2018年の購買力平価を用いて調和させ、歯1本あたりの米ドルで表しました。コストと有効性の差、すなわち無合併症期間(月単位)の増減1回あたりの米ドルでの差を最終的に算出し、主解析に加えて各国で層別解析を行いました。

180名の患者のうち、クロアチアとトルコで治療を受けた患者はイタリアとセルビアよりも有意に多い事が分かりました。イタリアでは、他の3カ国に比べて患者の年齢が高かったです。3年間の研究期間中に追跡調査ができなかった患者は32名で、21名(大臼歯27本)が合併症のためにフォローアップ治療を必要としました。2つの材料では、合併症のない期間の差は限られていました。国別に見ると、クロアチアとイタリアではグラスハイブリッドの生存期間がコンポジットよりも長く、セルビアとトルコでは短い傾向にあった事が分かります。しかし、全体としてはその差はわずかであり、統計的にも有意ではありませんでした。

コスト面では全く異なる結果となりました(表1)。クロアチア、セルビア、トルコでは、複合材の方がガラスハイブリッドよりも当初はかなり高価でした。これらの3カ国では研究期間全体で見ると、ガラスハイブリッドの使用によっても費用が節約できた事が分かります。費用対効果の差を見てみると、コンポジットの有効性の優位性はわずかですが、費用の差は比較的大きいことが明らかとなりました。全体として、ガラスハイブリッド群に比べてコンポジット群では、合併症のない月が増えるごとに270米ドルの費用がかかりました。しかし、この値はセンターによって若干の違いがあるものの、このパターンは4つの異なる国でも確認されました。

この研究の結果は、様々なレベルで関連性があります。この研究は、4つの異なる国で実施された大規模な無作為化対照臨床試験です。方法論的な質が高く、無作為化されたデザインであることから、内部的な妥当性が高く、研究結果は強固であると考えられます。また、非常に異なる患者を対象に4つの施設で同様の結果が得られたことから、外部妥当性、すなわち試験結果の一般化可能性も高いと考えられます。さらに、高い方法論的基準が実施されました。調査員は盲検化され(可能な限り)、試験前にグラスハイブリッド修復物とコンポジットが調査員に識別できるようになっており、確立された試験基準が適用されました。また合併症のない時間や費用対効果など、複数のエンドポイントを考慮することも強調されるべきです。

この研究は、既存の2つのアマルガムの代替物であるコンポジットとグラスハイブリッドを、このようなデザインで且つ重要な適応症である荷重のかかる後方領域の修復について比較した最初の研究の1つです。この結果は、とりわけこの難しい適応症であっても、グラスハイブリッドが全体的にコンポジットと同等の性能を示したことに関連しています(国による違いはわずかである)。また、初期および長期的なコストに関しては、ほぼすべてのセンターでガラスハイブリッドが複合材よりも有意に有利であったことも重要であります。長期的な費用対効果は、フォローアップ期間中の合併症に大きく影響される可能性があるため、特に後者を強調すべきです。歯科分野の多くの研究では、初期に安価な治療を行っても長期的には必ずしも費用対効果が高いとは限らないことが示されています。

この1つの研究に基づいて、結果を完全に一般化することはまだ可能ではないことを付け加えなければいけません。より大きな荷重のかかる後部空洞に使用するガラスハイブリッドに関するデータは、今のところ限られた量しかないからです。in vitroの研究と今回の無作為化比較試験は有望ですが、この適応症でガラスハイブリッドとコンポジットの最終的な比較を行う前に、さらなる強固な臨床データ、理想的には実践に基づいた多施設共同研究からのデータを収集する必要があります。とはいえ、ガラスハイブリッドがアマルガムのような用途を示すことは、もう一度強調しておく必要があります。さらに、この研究では複合材料と同等の臨床性能と高い費用対効果が確認されました。

編集部注:参考文献のリストは、出版社から入手できます。この研究は、「多国間無作為化試験におけるガラスハイブリッド対コンポジットの費用対効果」というタイトルでJournal of Dentistry誌の4月号に掲載されました。

ガラスハイブリッド対コンポジット:多施設共同臨床試験における有効性と費用対効果

記事提供

© Dental Tribune

ライター

Prof. Falk Schwendicke

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