歯科医師向け 開業支援・経営支援コラム Vol.9【設計・施工】設計する際に詰めておくポイント 機能性編

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 前回のコラムでは、院長がメインでおこないたい治療や、ターゲットとしている患者層に合った設計になっているかという点にフォーカスしてお話させていただきました。今回は実際開業後に仕事がしやすい診療所かどうかという「機能性」にフォーカスしたデザイン設計についてお話したいと思います。

①患者さんにストレスを感じさせない設計になっているか?

歯科医院という場所は、残念ながら多くの患者さんにとって好き好んでいく場所ではないようです。お口の健康維持のため前向きに予防をする場所というよりは、これから受ける治療に対する不安や恐怖の方が勝っていて、ストレスを感じている場合が多いからです。だからこそ、待合室や診療室など患者さんが滞在するスペースは、緊張を和らげたり、なるべくストレスを感じさせない工夫や配慮が必要です。

【視覚で感じるストレス】

例えば壁紙の色などは配慮すべきポイントのひとつです。赤やオレンジなどは、人の感情を無意識に興奮させたり、血液を連想させる色なので、患者さんの緊張を高めてしまったり恐怖を増幅させてしまう可能性があります。ですので、なるべく人間の感情を穏やかにし、 医療機関らしく明るく清潔感のある色味を選択することをおすすめします。

【音で感じるストレス】

歯を削ったりスケーリングする際の「キーン」という甲高い音やバキュームの音、治療が怖くて泣き叫んでいるお子さんの声などが、診療室から待合室に筒抜けになっていると、患者さんの恐怖心が煽られ、強いストレスを感じる要因にもなります。また歯科医師・歯科衛生士と患者さんとの会話が丸聞こえという状態も、プライバシー面において好ましい状況ではありません。日々の診療で診療室から出ている音についても、設計時に考慮に入れておくとよろしいかと思います。

【スペースで感じるストレス】

待合室から診療室に移動する際やレントゲン室に移動する際に通路が異常に狭い。ユニット同士の距離が近すぎて隣の患者さんの声や気配が気になる。待合室が狭く密になりやすいなど、患者さん同士、もしくは患者さんとスタッフとの距離が近すぎると、ストレスの原因となります。特に今の時代は新型コロナウイルス感染拡大の影響もあり、一定の距離(ソーシャルディスタンス)を保てるような余裕を持った動線設計が必要となります。

②スタッフがストレスを感じない設計になっているか?

院長やスタッフは毎日この場所で仕事をすることになるので、快適かつ効率的に業務ができ、安心・安全な環境でなければなりません。

【スペースや同線の不備で感じるストレス】

診療所内でスタッフ同士、もしくはスタッフと患者さんがすれ違う可能性がある場所が極端に狭くよくぶつかる。治療の流れが考慮されておらずスタッフの動きに無駄が生じてしまう動線設計。医院全体の様子が把握しにくい設計などがあげられます。いざ開業し診療がスタートして問題が発覚したとしても、これらの問題は後から直すのがむずかしいケースがほとんどです。そうなると、常に不便さを感じながら診療をしなければならないので毎日ストレスをかかえながら仕事をすることになってしまいます。

【収納の不備で感じるストレス】

収納スペースが十分に確保されているかどうかチェックしてみてください。また、診療をおこなう際に出し入れがしやすい適切な場所に設置されているかどうかご確認ください。

歯科医院は他の診療科目と比べて、使用する医療機器や歯科材料、模型、備品などが多いため、ストックしなければならないものが多くなりがちです。 ただでさえ物が多いのに収納場所が十分確保されていないと、患者さんの目につく場所、もしくは少し離れた場所にストックせざるを得ないため、院内が雑然と見えたり仕事の効率が悪くなってしまいます。また整理整頓してストックできるようにしておかないと、備品の在庫管理にミスが生じたり、物が無くなるなど診療にも大きな影響を及ぼします。

また患者さんのカルテも、年数が経てば経つほど保管場所に困る要素のひとつです。開業後数年はよかったとしても、10年20年と診療を続けているうちに数がどんどん増え、次第に保管場所がなくなってしまったというケースをよく聞きます。こちらも余裕を持って保管できるスペースを確保しておくことをおすすめします。なお、カルテはできるだけ患者さんの目に触れない場所で保管できるのがベストです。患者さんによっては個人情報の塊であるカルテが、他の患者さんからも見える場所に保管されていることに対し過剰に心配される方もいるからです。

【医療機器や設備に関するストレス】

購入予定の医療機器や設備など、正確にデザイナーに共有しておきましょう。歯科医院を開業する際、当然スペースには限りがあります。歯科治療をおこなうためには、レントゲンや CT、レーザーやエアフローなどの医療機器、診療用ユニット、動力を作るためのコンプレッサー、飛沫防止用の口腔外バキュームなど、さまざまな機械が必要となります。

開業時に揃える機器もしくは開業後に購入する可能性のある医療機器を事前にしっかり伝えておかないと、購入した機器の設置場所や保管場所がなく診療スペースが圧迫され、仕事がしづらくなります。またきちんと収納ができないと、雑然とした印象を与えてしまいます。そんなことにならないように、事前にデザイナーにはしっかりと情報を共有しておきましょう。

※動線分離とセミオープンタイプ

歯科診療室の設計に関してですが「動線分離」と「セミオープンタイプ」の2種類があります。(セミオープンタイプは、「セミクローズ型」「動線同一型」「動線非分離型」ともよばれています)
院内の動線で、患者さんと診療スタッフとの動線を分けることを「動線分離」とよび、患者さんとスタッフと動線を共有することを「セミオープンタイプ」とよびます。どちらにもメリットデメリットはありますが、自分の理想としている診療を実現させるためには、 どちらのタイプが合っているのか、よく考えた上でお決めいただけるとよろしいかと思います。動線分離とセミオープンタイプの詳細に関しては次回のコラムで詳しく解説させていただきます。

③医療機関らしい安全かつ清潔感を維持できる設計になっているか?

あえて言うまでもありませんが、医療機関には安全性や清潔感が求められており不可欠な要素となります。特に歯科医院は血液や唾液など患者さんの体液に触れるような処置があり、タービンを使った治療による飛沫が生じやすいため、より一層の感染症予防対策や衛生管理をおこなう必要があります。

例えば使用済みで唾液や血液の付着した治療器具、注射針、ガーゼ・綿球などの汚染物を処理する場所をしっかりゾーニングしたり、器具の滅菌フロー(回収⇒洗浄⇒消毒⇒滅菌⇒保管までの流れ)を一歩通行にして安全性を徹底させるなど、配慮を凝らした動線作りにすると安心です。

また、なるべく患者さんの目に触れる場所にものが出ていない状態をキープすることが大切です。余計なものが表に出ていなければ清掃もしやすく綺麗な状況を維持できますし、見た目もすっきりとして患者さんから好印象を持っていただくことができます。

さらに、しっかりと感染症対策をおこなっている医院は、採用やスタッフ定着にも良い影響を与えます。特に新卒の歯科医師や歯科衛生士は衛生管理に関する教育をしっかり学校で受けてきているので、衛生管理や滅菌がしっかりできているというポイントは就職先の医院選びにも大きな影響を与えます。

ご自身で開業した歯科医院は、今後院長が最も長く仕事する場所でもありますし、自分が理想とする医療を実現するためのこだわりや趣味嗜好を反映させたいお気持ちはよく理解できます。とはいえ歯科医院は患者さん、一緒に働いてくれるスタッフがいてこそはじめて医療サービスを提供することができます。ご自身のこだわりをもって設計をするのはもちろん素晴らしいことですが、来院される患者さんの目線、日々業務をおこなうスタッフの目線も考慮に入れた設計をされることをおすすめします。

事務長代行および事務長養成型 経営コンサルタント
ライトアーム代表 
五十嵐 伸好

歯科器材メーカーにて開業担当として200件以上の開業に携わり、大手ディベロッパーや商業施設との交渉により物件獲得、事業計画書の作成、開業資金の融資確保、医院内装のアドバイスなど、機械メーカーの枠を超えて開業までのすべてをとりまとめ、先生の評価をいただく。
その後、医療法人事務長となり多岐にわたる事務長業務(採用、人事、広報、渉外、経営、税務、労務など)を行い法人運営し、就任時から売上400%以上アップを達成する。現在は事務長代行もしくは事務長養成型の経営コンサルタントとして運営に困っている院長の右腕として活動している。

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