歯科医師向け 開業支援・経営支援コラム Vol.30【人材・教育】労働基準法の遵守と就業規則の必要性について

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前回のコラムでは、自動車・バイク・自転車通勤に関する注意事項について掘り下げて解説させていただきました。今回は労働基準法の遵守と就業規則の必要性についてお話させていただきます。

歯科医院を開業する際、多くの場合従業員(スタッフ)を雇用してスタートする場合が多いのではないでしょうか?従業員を雇用するということは、経営者(使用者)と労働者という労使関係が生じるので、労働基準法の遵守と就業規則の整備が極めて重要となります。経営者と労働者では仕事に対する考え方や想い・情熱が根本的に異なるため、日々診療をしていると認識のすれ違いや様々な労務問題が発生します。法令を遵守し、医院で仕事する上でのルール(就業規則)を準備しておくことで、医院の運営を円滑にし、様々なトラブルを回避し速やかに解決させることが可能となります。これから、労働基準法や就業規則について詳しく解説させていただきます。

労働基準法

労働基準法は、労働者の権利を守り、適正な労働条件を保証するための法律です。歯科医院も例外ではなく、この法律の対象となります。従業員を雇用する際にしっかりと抑えておきたい具体的なポイントは次の通りです。

①労働時間と休憩

医院で働く従業員の健康を守るために労働時間の上限が設定されています。また労働時間に応じた休憩時間も法律で定められています。

②休日と年次有給休暇

経営者は従業員に対しきちんと休日を与えなければなりません。従業員には週1日以上の休日と法律で定められた年次有給休暇の取得が保障されています。

③賃金

従業員を雇用する際の賃金には、都道府県毎に最低ライン(最低賃金)が設けられています。最低賃金法に基づき、労働に対する適切な報酬が支払われなければなりません。

④安全と健康

医院の職場環境が安全かつ衛生的であることが求められます。また、医院で働く従業員が心身ともに健康で仕事ができるよう、健康診断を受けさせる等の義務が生じます。

わざわざ言うまでもありませんが、令和の時代はコンプライアンス(法令遵守)が重視されます。法令を遵守できない医院は、スタッフからの告発や訴訟などのトラブルに巻き込まれやすくなるだけでなく、人材を採用し定着させることも難しくなります。

就業規則の作成と役割

就業規則とは、医院と従業員との間の労働条件や職場内の規律などについて定めた規則集です。就業規則が整備されていることで、労働問題が発生した際の対応が迅速かつ公正におこなえます。例えば、従業員の不正行為が発覚した場合、就業規則に基づいた適切な処分をおこなうことができるため、すべての従業員にとって公平性と透明性が保たれます。また、従業員から労働条件に関する問い合わせを受けた際も、就業規則をしっかり整備していれば、それに則った回答をばらつきなく伝えることができます。さらに、従業員が自らの権利と義務を理解しやすくなるため、規律が守られた安定感のある労働環境を実現させることができます。

以下は就業規則を作成する際に最低限盛り込んでおきたい内容の一例です。

①勤務時間・休憩時間・休日

具体的な勤務時間や休憩、休日の取り扱いを規定します。

②賃金の計算と支払い

給与の計算方法、支払日、賞与の有無とその条件などを明記します。

③退職に関する規定

退職の申し出時期、退職の手続き、退職金の支払い条件、退職後の秘密保持などを定めます。

④懲戒規定

違反行為の種類とそれに対する懲戒処分について定めます。

⑤仕事をする上での約束事

頭髪やアクセサリー等の身だしなみ、患者情報の取り扱いなどを定めます。

就業規則ですが、事業所に労働者が10人以上在籍している場合、規則の作成と労働局への届出が義務付けられています。10人未満の職場に関しては、作成・提出は義務付けられていませんが、規律ある職場環境を整備することで、労務トラブルが起こった際に適切な対応ができるので、整備しておいた方がよいでしょう。

なお、就業規則を作成する際にインターネット上にある雛形(テンプレート)の名前だけ変えて作ってしまう医院がたまにありますが、絶対にやめましょう。形だけの就業規則になってしまうのでいざという時に役立ちませんし、本来の趣旨とはかけ離れてしまいます。就業規則作成には多少のお金がかかりますが、医院と先生自身を守るためにも労務の専門家である社労士(社会保険労務士)に相談し、医院の実情に合ったものを作るようにしましょう。

今回も最後までコラムをお読みいただきありがとうございました。

1on1スタッフマネジメント型 経営コンサルタント(事務長代行)
ライトアーム代表 
五十嵐 伸好

歯科器材メーカーにて開業担当として200件以上の開業に携わり、大手ディベロッパーや商業施設との交渉により物件獲得、事業計画書の作成、開業資金の融資確保、医院内装のアドバイスなど、機械メーカーの枠を超えて開業までのすべてをとりまとめ、先生の評価をいただく。
その後、医療法人事務長となり多岐にわたる事務長業務(採用、人事、広報、渉外、経営、税務、労務など)を行い法人運営し、就任時から売上400%以上アップを達成する。現在は多忙な院長に代わってスタッフマネジメントを行い、院長が歯科医師として治療に専念できる環境、仕組み、働きやすい職場を構築することで離職率の低下と売上UPを実現。経営コンサルタントとして複数の院長の相談役、経営的右腕として活動している。

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