加熱式たばこは喫煙者の口腔衛生の改善に寄与できるか

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加熱式たばこは喫煙者の口腔衛生の改善に寄与できるか


近年、紙巻たばこの代替品として注目され、実際に喫煙者の中で急速に切替えが進んでいる加熱式たばこ。その普及の背景には、「紙巻たばこより健康リスクの少ない代替製品を喫煙者に対し提供する」というたばこ会社の真摯な想いと熱意があります。
今回は、加熱式たばこに関する様々な非臨床試験、臨床試験の中から、口腔衛生に関する試験に着目してご紹介します。

加熱式たばこの科学的検証は多領域に広がる
加熱式たばこは、たばこ葉を燃焼させずに加熱することで、煙ではなく蒸気を発生させるたばこ製品です。紙巻たばこは「燃焼」によって多くの有害性成分が発生するのに対し、加熱式たばこでは発生する有害性成分の量が大幅に低減されています1)燃やす・燃やさないで何が違うか)。近年、紙巻たばこの代替製品としての認知が広まり、使用者は増加しています2)
ここで前提として理解しておきたいのは、加熱式たばこは非喫煙者に向けた製品ではなく、20歳以上の喫煙者に向けた製品であるということです。加熱式たばこが普及し始めたといえども、喫煙の害をなくす最善の方法が「禁煙」であることに変わりはありません。あくまで喫煙を続ける喫煙者の健康リスク低減を目的として紙巻たばこの代替として開発された製品、それが「加熱式たばこ」なのです。(加熱式たばこ開発の背景:ハームリダクション

加熱式たばこは「たばこ製品」であるがゆえ、医療従事者のみなさまの中ではさまざまなご意見や疑問もあることでしょう。フィリップ モリス インターナショナル(以下、PMI)では、常にみなさまの声に耳を傾け、客観的な視点に立ち、科学的エビデンスの構築を通じて真摯に答えを提供していくべきだと考えています。実際にPMIでは、900人以上が研究開発に従事し、研究開発費の9割以上を加熱式たばこに関する研究に充てるなど、科学的視点からのアプローチに注力しています。
これまでに発表してきた加熱式たばこに関する科学的検証結果は、実に多岐にわたります。例えば、紙巻たばことの有害性成分の比較、加熱式たばこの蒸気内成分の全容解明、そして使用者の健康への影響、長期使用した場合の影響に至るまで、さまざまな観点から検証を行い、それらの情報や検証結果は全てオープンにしています。
これまでの科学的評価に関する情報はこちらからご覧いただけます

さて、今回の記事では、口腔衛生の観点から見た加熱式たばこの意義について考察していきたいと思います。

喫煙は口腔衛生を大きく低下させる
なぜPMIは歯科領域にまで科学的検証を広げているのでしょうか。それは、口腔衛生と全身状態は密接に関係しているということに加え、喫煙が口腔衛生に及ぼす影響は非常に大きいからです。
歯肉の炎症が身体に悪影響を及ぼすということは、昨今のさまざまな研究で明らかになってきています。口腔内の細菌が血管を通って体全体を巡ることで、各臓器に侵入・繁殖し、さまざまな病気の原因となるのです。例えば、歯周病になると、糖尿病、早産・低体重児出産、肥満、動脈硬化等、様々な病気を引き起こしたり悪化させたりすることがあります3)。口腔内を衛生に保つことは全身の健康維持にとって非常に大切だといえます。

口腔衛生を低下させる大きな要因となるのが、「喫煙」です。紙巻たばこの煙には、数千もの化学物質が含まれ、そのうちの約100種類は喫煙関連疾患の原因とされる有害性成分です。その煙の害は全身のみならず口腔内にも及びます。口腔内での実害として挙げられるのは、口臭や歯の変色だけではありません。煙から生じる有害性成分によって血液循環が悪化し口腔内に細菌が繁殖することで、歯肉及び口腔粘膜にも悪影響が出ます。そのため、喫煙者では、歯周病にかかりやすいだけでなく、炎症が悪化しやすかったり、治療に対する組織の反応が鈍くなったりします4)5)。喫煙者は非喫煙者に比べて 2-8 倍、歯周病に罹患しやすいとの報告もあり6)、喫煙は口腔衛生環境を低下させる最大のリスクファクターともいえるでしょう。

このように、口腔衛生の観点からみても、喫煙者にとって「禁煙」が望ましいことは明らかです。しかし禁煙をする意思のない喫煙者はたくさんいます。そのような喫煙者に対して私たちはどうアプローチしていくべきでしょうか。
ここで、喫煙者が紙巻たばこから加熱式たばこに切替えた場合に口腔内はどう変化するのか、そしてそこに加熱式たばこへの代替意義はあるのかを考えるために、加熱式たばこに関する口腔内試験の結果を見てみましょう。

歯科領域で進む加熱式たばこの科学的検証
▶︎ 口腔粘膜および歯肉組織への影響
紙巻たばこの煙に曝露させた場合と、PMIの加熱式たばこTHS(Tobacco Heating System:商品名IQOS)の蒸気に曝露させた場合における、口腔(頬)粘膜組織と歯肉培養組織、2つの異なるパターンでの影響を検証しました。その結果、口腔粘膜および歯肉細胞の両パターンにおいても、THSの蒸気は紙巻たばこの煙に比べて、細胞損傷が有意に少なく、組織への影響は最小限に抑えられることがわかりました(図1)(図2)。また、同程度のニコチン濃度という条件のもとで紙巻たばこの煙への曝露とTHSの蒸気への曝露とを比較した場合、THSでは炎症反応が低い(炎症メディエーターの放出が少ない)ことも確認されています7)8)




▶︎歯周病患者における加熱式たばこへの切替えによる口腔内変化
歯周病を有する喫煙者を初めて対象にして実施された、加熱式たばこの影響に関する日本の試験結果をご紹介します9)
この試験は、紙巻たばこ喫煙からTHSの使用に切り替えた場合、6カ月後の非外科的歯周病治療および口腔衛生状態にどのような変化が生じるかを検証するために実施したものです。その結果、喫煙継続群・THS切替え群・デュアルユーザー群(紙巻たばことTHSの併用)のどの群においても歯周ポケットの深さ(PD)は改善され、3グループ間で有意な差は見られませんでした(図3)。ただし、PDの深さが大きい部位においては、THS切替え群においてやや大きなPD改善傾向が見られました(図4)。
試験当初、研究者の間ではTHSへの切替えでPDに有意な変化があると仮説を立てていましたが、実際の結果では3群間に有意な差は生じず、少々想定外ではありました。しかし、見方を変えると、この結果は歯周病患者に対してSRP治療(スケーリング+ルートプレーニング)が非常に効果的であるということ、そして、日本の歯科治療の技術の高さが再確認できた結果ともとれるかもしれません。



コラム:喫煙者が加熱式たばこに切替えると歯肉の出血が増えるのはなぜ!?
喫煙者が紙巻たばこから加熱式たばこに切替えると、一時的に歯肉の出血や炎症が増えることがあります。前述の歯周病患者を対象とした試験においても、THSへの切替えでブローピング(歯周組織検査)時の炎症と出血がわずかに増加しています。
歯茎からの出血は、炎症という正常な生体防御反応のサインですが、喫煙者では歯周組織の血管反応に影響が出るため、歯茎の出血や炎症が現れにくいとされています。そのため、加熱式たばこへの切替えによって炎症が増えるというこの現象は、歯茎の治癒能力が回復している証(免疫システム回復の兆候)であり、禁煙後にみられる現象と同じであると考えられます。

歯科領域ではこのほかにも、歯の変色に着目した研究も行っています10)11)。その研究の結果、紙巻たばこの煙は歯の変色を引き起こすのに対して、THSの蒸気ではその変色を最小限に抑えられることがわかっています10)(図5)。


歯科領域で高まる加熱式たばこへの期待
フィリップ モリス ジャパン(以下、PMJ)では現在、歯科医師の方々に向けて、口腔内での検証データをはじめとする加熱式たばこの最新科学データの情報提供を行なっています。その中で、すでに歯科医師の約半数以上でたばこ・ハームリダクションが理解されていること、そして、加熱式たばこに対して「口腔衛生の改善」という視点での関心が高いことが分かりました。このような結果も踏まえつつ、今後も引き続き、歯科医師を含めた医療従事者の方々へ向けた科学的観点からの情報提供が望まれます。


いかがでしたでしょうか。
加熱式たばこに関しては、非臨床試験・臨床試験、さまざまな検証が進んでいますが、研究範囲が口腔衛生の分野にまで及んでいるということからも、科学的アプローチを重視しているPMIの企業姿勢を垣間見ることができたのではないでしょうか。
紙巻たばこから加熱式たばこへの切替えによる身体へ影響を明らかにするにはさらなる研究が必要ではありますが、継続的かつ多方面からの科学的アプローチにより、健康リスク低減の可能性について今後より明らかになっていくでしょう。


<参考文献>
1)Schaller J.P. et al. Regul Toxicol Pharmacol. 2016, 81, Suppl 2: S27-S47
2)令和元年「国民健康・栄養調査」(厚生労働省)(https://www.mhlw.go.jp/content/000710991.pdf)
3)日本歯周病学会 編「歯周病と全身の健康」2015
(https://www.perio.jp/publication/upload_file/guideline_perio_body.pdf)
4)National Center for Health Statistics (1999) .National Health and Nutrition Examination Survey (NHANES III & IV). Hyattsville, USA. 1999
5)Misaki O, et al.日歯周誌 53(1):40 - 49, 2011
6)日本歯周病学会「歯周治療の指針 2015」 P48.
(http://www.perio.jp/publication/upload_file/guideline_perio_plan2015.pdf)
7)F. Zanetti et al. Chem Res Toxicol. 2016 Aug 15;29(8):1252-69
8)F. Zanetti et al. Food and Chemical Toxicology Vol.101, March 2017, 15-35
9)S. Pouly et al. JMIR Res Protoc. 2021 Jan 18;10(1): e15350.doi:10.2196/15350.
10)F. Zanetti et al. Quintessence Int. 2019 Jan 25;50(2):156-166
11)X. Zhao et al. Am J Dent. 2017 Dec;30(6):316-322.


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