根管治療で大切な事

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根管治療で大切な事

器具・材料の発展の目覚ましい根管治療領域
 近年、日本の歯科医院では大型病院だけでなく個人開業のクリニックにも歯科用マイクロスコープや、歯科用CTが多く普及しています。これは、関連する診療項目が保険収載された事も大きいと言われています。特に、歯科用CTに関しては諸外国が驚くほどの普及率で、CTが普及するのに合わせて撮像機会が増えるため被爆大国など揶揄される事もあるそうです。また、歯内療法・根管治療領域で言うと、ニッケルチタンファイルや、MTAセメントに始まるバイオセラミックス材料も雨後の筍のように多くの製品が登場しており市場を賑わせています。今挙げたようなマイクロスコープ、コーンビームCT、ニッケルチタンファイル、バイオセラミックス材料はエンド近代ツールなどと呼ばれ、これらの登場により歯内療法・根管治療の臨床は大きく変わったと言われるようになり、精密な根管治療を行う上で手離せない器具・材料になっています。
根管治療の成功率の実際
 さて、そのようなエンド近代ツールの登場があってから根管治療の成功率は上がったのでしょうか?歯内療法の専門医によって行われた興味深い研究があります。エンド近代ツールを使用して根管治療を行った場合と、これらを使わない従来法(表01)で根管治療を行なった場合の成功率の比較の研究です。研究の結果は、従来法の成功率が98%、エンド近代ツールを使用した際の成功率が96%と、統計処理にて有意差がない状態だったとのことです。また、他の治療の成功率に関する論文報告を見てみると、1990年のエンド近代ツールが使用されるようになる前の報告では、病変を持つ歯の根管治療の成功率は62%と報告されています。2004年のエンド近代ツールが使用されるようになってからの報告では、病変を持つ歯の根管治療の成功率は根管形態が維持されているもので83.8%、根管形態が破壊されているもので40%と(表02)、時代の進みによる器具・材料の進化は決して根管治療の成功率を上げる物では無かったようです。
根管治療の目的とエンド近代ツールの位置づけ
 ここで一度、根管治療の目的について振り返ってみましょう。根管治療は「根尖性歯周炎の予防と治療」を目的とした治療です。そして根尖生歯周炎の原因はズバリ細菌感染によるものです。根管治療中にいかに細菌に暴露させず、既にある細菌感染を除去できるかが重要なのです。その為にはラバーダム防湿を行うことや、う蝕を確実に除去する、当たり前だと思われている事をどれだけ質高く行うことができるかが治療の基本になるのです。特定の器具や材料の使用が疾患を治癒へ導くものではありません。エンド近代ツールはあくまで「細菌感染の除去」という目的を補助するための道具であり、何を使うかではなくどう使うかが重要です。根尖にファイルやガッタパーチャを到達させる事が目的になっていませんか?自分の行なっている行為が「作業」でなく「医療」になるように、生物学的に何をしなくてはならないのかを今一度考え直してみると、自然としなくてはならないことがハッキリしてくるのではないでしょうか。前医で受けている根管治療の埒が明かないと、転院されてくる患者様の状況を診査すると、ラバーダムの不使用や、う蝕を残したまま根管内を漫然といじり続けているケースが非常に多いです。しかしそれらのケースは特別なことを行わずとも、「やらなくてはならない基本的なこと」をきちんと行うことで解決する事が殆どです。ご自身の臨床に手応えが感じられていない先生は、一度基本に戻ってみるのはいかがでしょうか。
「とりあえずコンチ」の前に
また、保険診療をベースとした一般診療における根管治療に際して、十分な術前診査や難易度評価が行われていない「とりあえずコンチ」が多く行われている現実があります。ゴールの見えない根管治療は、術者・患者とも疲弊させてしまいます。治療介入はある程度治療の見通しを立ててから行う物ですが、治療が難しいと思った場合は触らぬ神に祟り無しと考え現状維持にするのでしょうか?それとも疑わしきは罰せよと抜歯を考えてしまうのでしょうか。ここで、妥協的な判断や、不可逆的な介入を行う前に専門医を頼ってみるのはいかがでしょうか。難易度の高い智歯抜歯等はそれを得意とするドクターに診療依頼をする事が治療を提供する術者側も治療を受ける患者側も「そういうものだ」とのイメージが既にあると思います。それと同じように根管治療も歯内療法・根管治療を専門とするドクターに依頼をすることを積極的に考えるべき症例は非常に多いのです。専門医はその領域の非専門医が考えている以上に、通法の治療の精度を高く提供でき、さらに通法の治療で解決できない場合は次の一手を持っている物です。治療を次のステップに進められない患者様を抱えるドクターと、治療が長引き辟易している患者様の両方を救う事でWin―Win―Winの関係を目指す存在です。
まとめ
 平均寿命がどんどん伸びているこの時代に、歯の保存の価値は今以上に高まっていきます。歯科医師側が思っている以上に、患者様が思う1歯の保存に対する価値観も高まっている事を実感しています。諸外国や医科の様に積極的な医療連携を行い歯科医師それぞれが得意な治療に注力する事で、日々の診療を効率的に、ストレスなく行うことが可能になるのではないでしょうか。そして歯科医師側の満足度が高まることは、必然的に患者満足度の向上に寄与するはずです。情報社会の発達に伴い、患者様も質の高い情報を自身で収集できる時代になってきています。その時に患者様だけでなく、我々医療者側もお互いに損をしないよう時代に合わせて変化していく事が重要であると考えます。
高林デンタルオフィス東京
高林 正行
プロフィール
昭和大学歯科病院歯内治療科に10年勤めた後、2021年6月に東京都文京区に歯内療法・根管治療専門医院である「高林デンタルオフィス東京」を開院。医療連携に積極的に取り組んでおり、来院患者の多くは歯科医師からの紹介である。来院患者の為、診療依頼してくれる歯科医師の為、それぞれが満足するWin-Win-Winになれるように門戸を広く開けて日々診療を行なっている。
また、質の高い治療を提供するのはもちろん歯内療法・根管治療の価値を高めるため患者教育目的の情報発信や歯科医師向けセミナーおよび実習などに取り組んでいる。
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