第30回:接着ブリッジ

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第25回コラムで、インプラント、根管治療、ブリッジの長期臨床成績についての系統的文献レビューを紹介したが、ブリッジの成績がやや低目となっている原因が気になっていた。その後調べたことをまず追加しておきたい。International Journal of Oral Maxillofacial Implants 22巻特別号71-95頁(2007) にインプラントとブリッジの成績を比較した系統的文献レビュー論文が掲載されている。一定の基準を満たす文献として、インプラント51、ブリッジ41論文を選び出し、成功率を比較している。5年後成功率は、インプラント95%、ブリッジ84%となっている。ところが、ブリッジについて従来型と接着ブリッジに分けて分析すると別の状況が明らかになっている。従来型ブリッジの5、10、15年後成功率はそれぞれ94%、87%、67%、接着ブリッジの5、10年後成功率は75%、74%であるという。(なお、インプラントの10、15年、接着ブリッジの15年のデータは出されていない)。こうしてみると従来型にくらべ接着ブリッジの分はかなり悪く、ブリッジ全体の成績がやや落ちていたのは接着ブリッジのせいであったらしい。 このレビューで取り上げられた論文はすべて、接着に関しては必ずしも長けていない外国での結果である。歯科接着先進国である我が国でのまとまった長期臨床データは、残念ながら極めて少ない。我が国で最も長期実績のある岡山大のデータでは、最初に装着した接着ブリッジが15年後に問題なく生存54%、補修あるいは再装着しての生存14%、脱離したが再製作・再装着しての生存17%であり、支台歯の抜歯あるいは脱離により失敗とみなされた例は15%であったという(日歯医学会誌27巻84頁、2008)。また、長崎大の例では、約14年間全く異常なく経過している症例44%、剥離・脱離に対する再装着、その他の処置も含めて生存率を計算すると88%であるという(日本接着歯学会緊急シンポジウム要旨集、2008)。この2例からすると、15年後成功率は大体85%ということになり、上記論文でのブリッジの成績にくらべてかなりの好成績となっているようである。 Journal of Prosthetic Dentistry 90巻 31-41(2003)にブリッジを含む補綴装置の合併症についての文献的レビューが載っている。この論文には従来型と接着ブリッジとでは合併症の起りかたが全く異なることが示されている。以下で示す合併症発生率はカッコ内に記した論文数全体での平均値である。従来型ブリッジでの合併症発生率は1〜4年で20%(6論文)、5〜14年で27%(9論文)、15〜20年で27%(4論文)となっている。一方、接着ブリッジでの合併症発生率は1〜4年で25%(37論文)、5年以上で28%(11論文)となっており、従来型にくらべ早期に合併症が起りやすい傾向にはあるが、発生率の点ではあまり大きな違いはない。 ところが、合併症の内容を見ると全く様相が異なってくる。従来型ブリッジでは、カリエス18%(15論文)、根管治療11%(11論文)、脱離7%(14論文)、審美的問題6%(7論文)、歯周疾患4%(13論文)、支台歯破折3%(14論文)、補綴物破折2%(8論文)などとなっており、支台歯に係わる生物学的合併症が36%にも達している。一方、接着ブリッジでは、脱離21%(48論文)、支台歯の変色18%(5論文)、カリエス7%(22論文)、ポーセレン破折3%(22論文)などとなっており、支台歯に係わる合併症は大幅に減少し、脱離が大きく増加している。脱離の様子をもう少し詳しく見ると、2年以内10%(11論文)、2〜5年20%(26論文)、5年以上24%(11論文)となっており、経年的に増加傾向にある。また、カリエス発生の様子では、22論文のうち9論文でカリエス発生は認めておらず、6論文では2%以下、7論文で2%以上となっている。以上のことから、歯の延命にとって致命的な生物学的合併症は従来型ブリッジに多く接着ブリッジでは少ないこと、接着ブリッジでは脱離という技術的問題が多いことがわかる。 接着ブリッジは、かって我が国で一時的にブームになったこともあるが、脱落しやすいという評価が広まり、その後は一部でしか臨床応用されてこなかったという経緯がある。ところが、適用が前歯のみという制限があるとはいえ、本年4月から健康保険に導入されることになったのである。この機会を捉え、日本接着歯学会は5月に「接着ブリッジによる欠損補綴」という緊急シンポジウムを開催した。そのシンポジウムの要旨集のなかで、安田登先生は「臨床的なエンドポイントを脱落しないことにおくのか、仮に脱落しても歯の寿命を延ばすことにおくのか」と書かれているが、接着ブリッジに期待されるのは、エナメル質をできるだけ残して歯の延命を図ることのできる、ミニマル・インターベンションの概念に沿った、後者の立場であろう。シンポジウムでは、臨床家の接着ブリッジに対する知識不足や技術の未熟さから過去と同じような失敗が繰り返され、接着ブリッジが我が国の臨床に定着しなくなるのではないか、という懸念が出されていた。以前の轍を踏まぬよう、歯科医、患者ともに接着ブリッジの特徴をよく理解することがまず必要であろう。 接着ブリッジを手がけるに当っては、日本補綴歯科学会が2007年にまとめた「接着ブリッジのガイドライン」をまずご覧になることをお勧めしたい。その内容は下記のURL(1)で見ることができる。このガイドラインには適応症のことはもちろん書いてあるが、禁忌症例の記載もあったほうがよかったのではないかと思っている。これについては、シンポジウムの概要が紹介されている下記URL(2)、(3)の中に見ることができる。 (1) http://www.hotetsu.com/j/koushin/file/guideline/bridge_guideline.pdf (2) http://typecast.typepad.jp/t/typecast/92091/300439/23555298 (3) http://typecast.typepad.jp/t/typecast/92091/300439/23532716 接着ブリッジが、適切な症例の選択と適切な技術(適切な接着材の選択を含む)により臨床で活用され、定着すること期待したい。 (2008年7月27日)
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