第110回:破折歯の診断と処置

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過日、知人から歯の治療で大学病院の口腔外科に行っているという話をきいた。歯に違和感があり、かかりつけの歯科医院で診てもらったところ紹介されたのだという。結局、歯にヒビが入っているという診断で経過観察中ということであった。この話をきいて破折歯の診断、処置というのは一般の歯科医院ではかなり難しいのかなと思っていたが、日歯保存誌58巻1号(2015)の「歯の破折症例の現状ならびに課題」という論文を見て一応状況が理解できた。それは、2011年6月中の22日間に東京医科歯科大学歯学部附属病院の歯内療法専門外来を受診した初診患者の破折歯に関する分析報告である。

初診患者462人。その受診経緯は、1. 他歯科医院を受診せず直接来院29.0%、2. 他歯科医院の依頼状持参24.0%、3. 他歯科医院の治療に不満で依願状なしで来院16.5%、4. セカンドオピニオン希望で来院11.9%、5. 他診療科歯科医師からの依頼状持参18.6%。初診患者のうち主訴が歯の破折であったのは118人(25.5%)。そのうち、破折線が確定診断された症例は44人(37.3%)、破折線は確認されなかったがほかの所見から歯の破折が疑われた症例は74人(62.7%)であった。ここでの歯の破折症例は、米国歯内療法学会のガイドラインに基づき、1. エナメル質破折、2. 露髄を伴わない歯冠破折、3. 露髄を伴う歯冠破折、4. 歯冠-歯根破折、5. 歯根破折(水平性あるいは垂直性の歯根破折を含む)の5分類のすべてとした。

破折確定44症例のうち,すでに他歯科医院で破折の可能性を指摘されていた症例は8人(18.2%)。エンドの初診係が破折を確認した症例28人(63.6%)、エンドの担当歯科医師が確認した症例8人(18.2%)であり、破折症例の約2/3は初診時での視診や歯科X線写真の読影により短時間で破折線が確認された。実体顕微鏡や歯科用コーンビームCTなどを用いた担当歯科医師による精査で確定できた症例はかなり少なかった。このようなことから、破折の可能性を念頭においていれば、比較的容易に破折の診断可能な症例が多いと示唆している。他歯科医院からの依頼状を持参した受診者111人のうち、破折確定7人、破折疑い18人であった。これらの患者は、依頼状を作成した歯科医師が対応に苦慮した症例(歯科医師がみずからの処置の結果に対し困惑、処置直前に困難さを予想した症例)とみている。

この論文を読んで大変残念に思ったことがある。破折の確定診断がなされた44症例について、破折分類1. ~5. の内訳とそれらに対してのどのような処置をしたかも報告してほしかったと思う。さらに、破折疑い症例については、破折線や実質欠損は認められないことから分類は無理であるとしても、経過観察などを含めどのような処置をとったのかである。考察には、垂直性歯根破折は、診断が難しいこと、通常は抜歯の適応となりやすいことが記されているが、今回の症例の中にも垂直性歯根破折も含まれていたのだろうか。もしあったとすれば、どのような処置をとったのだろうか。垂直歯根破折歯は通常抜歯というのは、筆者のような保存重視の患者にとって非常に気がかりなことであるが、まだ一般的ではないとしても、MMA-TBBレジン(スーパーボンドC&B)で破折歯を接着して保存することは可能であり、かなり以前から一部の臨床家は実施している。このことについては第69回の「垂直歯根破折の処置」を参照していただくと好都合である。

MMA-TBBレジンを用いた垂直歯根破折歯の接着保存治療に関する学術雑誌での報告は、69回で2011年まで紹介した。それ以後では、トルコの大学からの2015年のInt Endod Jに上顎の切歯、犬歯、小臼歯の21歯を意図的抜歯再植術(口腔外接着法)による治療後、平均19.4月(12~36月)追跡した報告がある。抜歯となった失敗は2例、生存率は90.5%であり、本法が垂直歯根破折歯の治療に有効であることを認めている。今のところ、MMA-TBBレジンを用いた垂直歯根破折歯の接着治療は、我が国以外ではトルコのみのように思われる。そのおもな理由は、海外ではそのレジンはほとんど知られておらず、入手も難しいためである。世界的には垂直歯根破折歯は基本的に抜歯ということが当分の間続くことであろう。MMA-TBBレジン以外のレジンでの接着治療では、良好な治療成績は期待できないからである。

菅谷勉准教授(北大)の基礎的および臨床的研究、真坂信夫博士(真坂歯科医院)らによる臨床治療の実践により開拓されてきた接着法による垂直歯根破折歯治療は、その有効性を認めた歯科医師たちにより取り入れられ、インターネットでざっと見ただけでも北は北海道から南は九州までの少なくとも30か所以上の歯科医院でその治療が実施されている。インターネットに登場することはなくとも、ほかの歯科医院でもその治療が行われているものと推定されるが、第69回コラム執筆時の約4年前には、インターネット上でこの治療について言及していた歯科医院はわずかであり、その後かなり広がった様子がうかがえる。

このように一般歯科医院でかなり行われている接着法による破折歯治療であるが、全国29大学歯学部附属病院での実施状況はどのようなものか、各大学のホームページで歯内療法関係診療科の診療案内から調べてみたところ、4大学で次のような記載があった。北大「歯根破折歯の接着再植治療」、東北大「歯の破折に対して、保存が可能な場合は、口腔外で接着し、再び元の位置に戻す外科的治療(意図的再植術)を行っています」、阪大「歯が根を含んで破折した場合など、これまでは抜くしかなかった歯でも、可能なものについては、一旦歯を抜いて接着した後元に戻す手術(再植手術)や外科手術により保存することに取り組んでいます」、九大「対象疾患項目中に:歯牙破折、歯根破折;主な治療の“その他”項目中に再植法」。一方、昭和大は「歯の根にひびが入っている、もしくは割れていることが確認された場合、残念ながら抜歯の適応となります」と記している。29大学の中で診療内容に上記5大学のほかに、“歯が折れた”、“外傷による歯の破折”などの文言が入っているのは、新潟、鶴見、明海、九州歯科の4大学であるが、処置法には触れていない。東京医科歯科大を含む20大学では歯の破折にかかわる記載はなかった。

これまで大学の附属病院のホームページを見たことはなかった。見て改めて感じたのは、多くの病院のそれが患者にとってあまり親切ではないということである。例えば、上記前半の5大学についていえば、東北大、阪大、昭和大は比較的わかりやすく、次いで北大、九大は非常にわかりにくい(とび離れたところに記載されている歯根破折と再植法を一般人が関連付けるのはむずかしい)。東北大では2005年度の年間症例数も同時に記載している。それによれば、年間外来患者数14,999人で歯内外科手術実施数は、歯根端切除術20、ヘミセクション15、トライセクション10、歯根穿孔部閉鎖術15、破折歯根再植術10例となっている。その年度以降についての記載はないが、こうした情報はすべての病院(少なくとも、多くの経費が税金で賄われている国立大学附属病院)が公表すべきであると思う。

垂直歯根破折歯の接着保存治療は、おもに口腔外接着法で行われてきているが、できれば,非外科的に根管内から破折間隙を接着、封鎖する口腔内接着法の方が治療に伴うリスクが低いと考えられる。それが成功するためには、破折間隙内の感染を歯根表面に達するまで確実に除去して接着、封鎖することが必要とされるが、今のところ、それに十分応えられるような技術はない。今後の課題ではあるが、それに向けての試みも検討されている。その例が北海道歯誌35巻2号(2015)に載っている。in vitroの実験であるが、超音波エンドファイルでの破折間隙の切削と10%クエン酸/3%塩化鉄および次亜塩素酸ナトリウムを用いた化学的拡大の併用により、過剰な切削を防ぎ、封鎖性を向上できるとしている。このような方法が今後十分検証され、臨床的に実施されるようになると、垂直歯根破折歯の接着保存治療のさらなる普及に寄与するものと期待される。

冒頭の話に戻るのだが、歯の破折を正確に診断してもらうのはいいとしても、やはり最後は患者は納得できる治療をしてほしいのである。高度医療機関とされる大学附属病院に対して、垂直歯根破折歯はすべて即抜歯という処置は、患者はあまり想像していないはずである。一部の一般歯科医院でも行っている保存可能な破折歯については、接着法による保存治療という選択肢があることを患者に説明するのが望ましいと思う。

(2015年6月29日)


追記:垂直歯根破折とその治療については、日本補綴歯科学会誌6巻1号(2014)に掲載されている次の2論文が非常に参考になる。

・菅谷 勉:垂直歯根破折の実態と接着治療の理論的背景

https://www.jstage.jst.go.jp/article/ajps/6/1/6_14/_article/-char/ja/

・眞坂 信夫:垂直破折歯根の接着治療

https://www.jstage.jst.go.jp/article/ajps/6/1/6_20/_article/-char/ja/
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