知的障害のある患者の具体的な歯科治療の方法と接し方とは
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歯科治療を行う中で知的障害のある患者に接することもあります。そこで今回は、障害のある患者に対する治療法と歯科衛生士としての関わり方についてみていきましょう。
知的障害のある患者に対して、安全で確実な治療を行うために「行動調整法」が用いられます。行動調整法にはさまざまな種類があり、知的障害のレベルや治療内容に合わせて選択され、併用されることもあります。行動調整法の種類と内容について解説します。
特別な機材・器具を使用せずに行うもので、いくつか種類がありますがどのような場面でも活用することができます。なお行動変容法を適用させるには、患者に一定の学習能力が必要です。
これから行うことを言葉で説明し(Tell)、使用する器具や機械を見せ(Show)、説明したことを行う(Do)方法です。非常に有効な方法で、例えばデンタルミラーを見せ痛くないことや口腔内を見るものだということを説明し、不安を取り除いたうえで視診します。
簡単なことから始め、徐々に目的達成を目指す方法です。診療室に入室する、診療チェアに座ることから始め、最終的には治療や定期検診のような目的達成を目指します。
治療や処置の終わる見通しがつくよう、あらかじめ決めた時間を数えながら治療やトレーニングを行う方法です。10秒数えている間は口を開けてもらったり、10秒の間だけブラッシングをするなどして用います。
知的障害を伴う自閉症の患者に多く使われる方法で、これから行うことを絵カードや写真を見せて説明し、その通りのことを行います。
賞賛あるいは罰を与えることで、自発的に行動を起こすよう導く方法です。例えば目的を達成したら褒めるなどして用います。
歯科治療に対して拒否や恐怖心から体動がある場合や、著しい不随運動がある場合に身体抑制法を用います。レストレーナーやネット、バスタオルなどを使用し体動をコントロールして治療中の事故を防ぎます。身体抑制法は家族などに必要性を説明し承諾を得た上で行い、治療は常に患者の様子を観察しながら短時間で行います。
精神鎮静法には笑気ガスを鼻から吸引してもらう笑気吸入鎮静法や、点滴で静脈から鎮静薬を注入して行う静脈内鎮静法などがあります。これにより安全を確保しながら本人のストレスを軽減させて治療します。
上記の方法では歯科治療が行えない場合は、全身麻酔を使用します。事前の検査や入院が必要になる場合が多いですが、多数歯の治療を同時かつ安全に行えます。
知的障害のある患者は、口腔ケアに対して理解が乏しくブラッシングが困難な場合が多いです。また毛髪や土、紙など食べ物ではない物を口にしてしまう「異食症」を併発している場合は、口腔内に異物が残っていることがあります。う蝕や歯周病の罹患率が高くなることも多いため、歯科衛生士によるブラッシング指導や動機づけが重要になります。
患者本人への指導が可能な場合は、障害の特性を理解しそれぞれに合った方法でトレーニングやブラッシング指導を行います。歯ブラシを口腔内に入れることを嫌がる場合は行動変容法を応用しトレーニングを行い、感覚過敏がある場合は唾液腺のマッサージをしながら口を開けてもらうなどしましょう。これにより徐々にできることを増やしていけば、本人のみならず家族や施設の方にも効果を実感してもらえます。
本人とのコミュニケーションが難しい場合は、家族や施設の方などへの説明や指導が必要になります。全周が毛の球状ブラシやスポンジブラシ、バイトブロックなどの器具を使用したり、姿勢を工夫したりするなどといった方法も効果的です。必ず無理のない範囲で行なってもらい、長期的にサポートしていきましょう。その上で歯科衛生士としては、う蝕や歯周病の早期発見・早期治療、定期検診へと繋げていけると良いですね。

北海道の歯科衛生士専門学校を卒業後、一般歯科で勤務。現在は歯科衛生士の経験をもとにした記事を執筆するライター活動を行っている。
【校正】浜崎 実穂(歯科衛生士ライター)
プロフィール:
東京医科歯科大学卒業後、都内歯科大学病院に勤務。退職後は「歯科衛生士ライター」として活動しながら、ライターの指導や教育、ディレクションも行う。
自身で制作・運営を行なっていた歯科メディアは販売を達成。
大学の卒業研究では日本歯科衛生学会の学生研究賞(ライオン歯科衛生研究所賞)を受賞。2児の母。
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