【いまさら聞けない】矯正治療に関する略語・専門用語とその解説<後編>

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矯正治療を始めるにあたって、まず咬合関係や歯の形態などの診査・診断を行います。今回はその咬合関係や歯の形態などに関する専門用語・略語を解説します。

矯正治療に関する略語・専門用語
<不正咬合に関するもの>

まずは患者の口腔内の状態を正確に理解することが大切です。

不正咬合に関するもの

不正咬合にはさまざまな種類があり、見た目の違いはもちろん原因も異なります。不正咬合に関する専門用語は以下の通りです。

● アングルの分類
 ○ アングルⅠ級
 ○ アングルⅡ級(1類・2類)
 ○ アングルⅢ級
● 上顎前突・下顎後退
● 下顎前突・反対咬合
● 過蓋咬合
● 切端咬合
● 交叉咬合
● 叢生
● 開咬
● 空隙歯列
● 正中離開

それぞれを解説していきます。

㉓アングルの分類

アングルの分類とは上下歯列弓の近遠心的関係を把握するためのもので、主に上下顎第一大臼歯を基準にします。診査に特殊な器具などを必要としないため、臨床で応用されることが多いです。結果は以下のように分けられます。

● アングルⅠ級
● アングルⅡ級(1類・2類)
● アングルⅢ級

アングルⅠ級

上下顎第一大臼歯の近遠心関係が、正常な状態であることを指します。具体的には、上顎第一大臼歯の近心頬側咬頭が、下顎第一大臼歯の頬面溝に接触している状態です。

アングルⅡ級

下顎第一大臼歯が、上顎第一大臼歯に対して遠心に位置している状態を言います。さらにアングルⅡ級は、上顎前歯部の状態によって以下のように分けられます。

● アングルⅡ級1類:上顎前歯が唇側に傾斜あるいは転位しているもの
● アングルⅡ級2類:上顎前歯が舌側に傾斜あるいは転位しているもの

アングルⅢ級

下顎第一大臼歯が、上顎第一大臼歯に対して近心に位置している状態を言います。

㉔上顎前突・下顎後退

上顎あるいは上顎前歯が下顎より前方に出ている状態です。「下顎後退」は下顎が後方に位置している状態で、上顎前突に見えることが多くあります。上顎前突は、特徴・原因によって以下のように分類されます。

特徴 原因
歯性上顎前突 顎骨の大きさや位置には問題はないが、上顎前歯が前方に傾斜もしくは出ている状態 主に指しゃぶり・舌で前歯を押すなどの悪習癖
骨格性上顎前突 上顎が著しく大きい・下顎が著しく小さいなど上下顎のバランスが悪い状態 主に遺伝

上顎前突の症状は「オーバージェット」の数値で表します。オーバージェットとは、前歯の水平方向の距離のことです。上下顎中切歯の切端間における水平的な距離を計測し、上顎が前方に位置する場合はプラス(+)と表記します。正常な咬合関係ではオーバージェットは+2~3㎜と言われており、+6㎜以上は上顎前突と診断されることが多いです。

㉕下顎前突・反対咬合

下顎あるいは下顎前歯が上顎より前方に出ている状態です。正常な咬合関係とは逆になることから「反対咬合」とも呼ばれています。上顎前突と同様、歯性下顎前突と骨格性下顎前突に分けられます。原因も歯性下顎前突では悪習癖、骨格性下顎前突では遺伝によるものが多いと考えられています。下顎前突・反対咬合は、オーバージェットの数値をマイナス(-)で表記します。

㉖過蓋咬合

咬合が深く、上顎前歯が下顎前歯を覆ってしまっている状態です。過蓋咬合の症状は「オーバーバイト」の数値で表します。オーバーバイトとは、上下顎中切歯の切端間における垂直的な距離のことで、正常値は1~2㎜程度とされています。なお過蓋咬合自体のことをオーバーバイトと呼ぶこともあります。

㉗切端咬合

上顎前歯が下顎前歯に軽く被さるのが正しい咬合状態ですが、上下顎前歯が重ならず、切端同士が当たっている状態を切端咬合と呼びます。切端咬合はオーバーバイト・オーバージェットが共に0㎜です。

㉘交叉咬合

「クロスバイト」とも呼ばれ、上下歯列弓が水平的に交叉している状態を指します。正常な咬合関係と逆で、上顎の歯が下顎の歯の舌側で咬合します。交叉する部位が一ヶ所のこともあれば、数ヶ所であることもあります。臼歯部が交叉咬合になっていると、正中線がずれやすくなることが考えられます。

㉙叢生

歯が重なり合って生えている状態です。顎骨や歯列弓が小さい・歯が大きいなどの理由で、歯が並びきらなかったことが原因と考えられます。一般的に「八重歯」と呼ばれる上顎犬歯の低位唇側転位も、叢生の一種です。

㉚開咬

「オープンバイト」とも呼ばれ、臼歯部で咬合したときに前歯部に隙間が生じ噛み合わない状態を指します。原因は指しゃぶり・舌を突き出すといった悪習癖とされ、前歯で物を噛み切れない・正しい発音がしにくいなどの問題の生じることがあります。

㉛空隙歯列

歯間部に隙間が空いている状態です。原因としては顎骨や歯列弓が大きいこと、歯が小さいこと、歯の生えている本数が少ないことなどが考えられます。

㉜正中離開

上顎中切歯の間に隙間が空いている状態です。原因としては上唇小帯の付着異常や、側切歯が欠如していること・小さいことなどが挙げられます。

<歯の形態に関するもの>

歯の形態に関する専門用語は以下の通りです。

● 癒着歯
● 癒合歯
● 矮小歯
● 巨大歯
● 捻転歯

それぞれを解説していきます。

㉝癒着歯

近接した2本もしくは複数の歯が、セメント質同士で結合している状態です。セメント質でのみ結合しているため、歯髄は分離しているのが特徴です。乳歯が癒着歯であった場合、40~50%の確率で後続永久歯のうち1歯もしくは数本が先天欠如すると言われています。

㉞癒合歯

2本の歯が象牙質・歯髄まで結合している状態です。乳歯が癒合歯であったときの後続永久歯は、正常な2本の歯が萌出する場合と2本ともあるいはうち1本が先天欠如する場合が考えられます。なお後続永久歯も癒合歯の場合があるため、レントゲン撮影を行い永久歯の数や有無を確認します。

㉟矮小歯

通常の歯よりも小さい歯のことです。歯の形はそのままで大きさのみ小さいこともあれば、歯冠が円錐状・栓状など形態も異なることがあります。歯が小さいため、空隙歯列や正中離開の原因になることがあります。

㊱巨大歯

通常の歯よりも大きい歯のことです。歯が大きくて歯列弓に並びきらず、叢生の原因になることがあります。

㊲捻転歯

ねじれて生えている歯のことです。具体的には歯の長軸を中心に、時計回り・反時計回りに回転した状態です。

その他矯正治療に関するもの

その他矯正治療で使われる専門用語は以下の通りです。

● 後戻り
● 歯根吸収
● ブラックトライアングル
● Eライン
● ガミースマイル

それぞれを解説していきます。

㊳後戻り

矯正治療によって改善した歯並びが、元に戻ってしまう現象のことです。「リラップス」とも呼ばれます。矯正装置を外した直後は、歯槽骨や歯周組織が不安定で元に戻りやすい状態です。ゆえに後戻りを防ぐため、歯並びが安定するまでの一定期間「リテーナー」と呼ばれる保定装置を装着します。

㊴歯根吸収

歯根が吸収して短くなることで、矯正治療が原因になることもあります。矯正治療における歯根吸収の原因には、治療期間の長さ・歯にかける力の強さなどがあります。

㊵ブラックトライアングル

歯肉の退縮などによりできた、隣接面の三角形の隙間のことです。ブラックトライアングルは矯正治療後に起こることもあります。叢生などで歯が重なり合っている部分の歯周組織は、喪失もしくは薄くなっていることが多いです。この場合、歯列がきれいに並んだ後に、歯周組織の喪失している部分が隙間となって現れることがあります。

㊶Eライン

顔を横から見たときに、鼻先と下顎の先を結んだ線のことです。横顔の美しさの基準として用いられることがあります。Eライン上もしくはEラインの少し内側に唇が位置する横顔が美しいとされています。

㊷ガミースマイル

笑ったときに、上顎前歯部の歯肉が目立って見える状態です。歯肉が3mm以上見えていると、ガミースマイルとされることが多いです。

歯科衛生士ライター okahata

北海道の歯科衛生士専門学校を卒業後、一般歯科で勤務。現在は歯科衛生士の経験をもとにした記事を執筆するライター活動を行っている。

【校正】浜崎 実穂(歯科衛生士ライター)

プロフィール:
東京医科歯科大学卒業後、都内歯科大学病院に勤務。退職後は「歯科衛生士ライター」として活動しながら、ライターの指導や教育、ディレクションも行う。
自身で制作・運営を行なっていた歯科メディアは販売を達成。
大学の卒業研究では日本歯科衛生学会の学生研究賞(ライオン歯科衛生研究所賞)を受賞。2児の母。

記事提供

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