ヒューフレディ・ジャパン合同会社主催 Infection Control Symposium 2018 第2部

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Infection Control Symposium 2018 (ICS) イベントレポート 第2部
第1部では、海外から招聘されたジョン・モリナーリ先生とイブ・クーニー先生の講演内容を紹介した。彼らの講演内容に加え、最低限のスタンダードプリコーションの実施方法や、手指衛生の効果についても記載されているので、まだ目を通されていない方は、本記事とあわせてご覧いただきたい。
第2部では、柏井伸子先生の「感染管理からみる歯科診療報酬改定―まず取り組むべきこと―」と金子明寛先生の「歯科衛生士のための医薬品および医療機器安全責任者講習会~院内感染対策・医薬品の安全使用および医療機器の安全使用~」の講演内容を紹介する。
柏井伸子先生講演「感染管理からみる歯科診療報酬改定―まず取り組むべきこと―」
▲柏井伸子先生の講演
柏井伸子先生(口腔科学修士、歯科衛生士、有限会社ハグクリエイション代表)は、平成30年10月1日から初診料と再診料の診療報酬が改定されたことを踏まえ、感染管理に関わるコスト削減方法や、診療報酬改定後の収益の違いなどを述べた。
9月31日までの初診料は234点であったが、10月1日以降の初診料は、院内感染の施設基準を満たし届け出を行っていれば237点、届け出をしていなければ227点を算定することになる。45点であった再診料に関しては、改定により、届け出ありで48点、届け出なしで41点に改定された。柏井先生は具体例を示しながら、感染対策の施設基準を満たしているか否かで、診療報酬に大きな差が生じることを分かり易く説明した。以降では、その内容を紹介する。
1日の平均患者数が40人で、その内、初診は2人であり、1カ月の診療日数が20日間であると想定した場合、初診料と再診料の1カ月のトータル収入は、以下の通りである。

・(診療報酬改定前)初診料が234点、再診料が45点の場合
1日:234 X 2 + 45 X 38 = 2,178 (点)
1カ月:2178 X 20 = 43,560(点)

・院内感染の施設基準を満たす歯科医院で、初診料が237点、再診料が48点の場合
1日:237 X 2 + 48 X 38 = 2,298(点)
1カ月:2298 X 20 = 45,960(点)

・施設基準を満たさない歯科医院で、初診料が226点、再診料が41点の場合
1日:226 X 2 + 41 X 38 = 2,010(点)
1カ月:1558 X 20 = 40,200(点)

施設基準を満たしていれば、上記来院で、1カ月2,400点の増収となる。一方で、基準を満たしていなければ、1カ月3,500点の減収となる。基準を満たす医院と満たさない医院では、1カ月で6,000点近くの開きが生じることになる。1年間に換算すると約72,000点もの差異になるので、院内感染の施設基準を満たさなければ、年間で70万円以上の損失を被ることになる。歯科医院経営において、大きな痛手になることは間違いない。
医療保険制度の長い歴史の中で初診料と再診料はこれまで一律であった。10月1日からは医療機関が感染管理をしっかりと行っているか否かによって、患者が支払う医療費に違いが生じることになるが、これは日本の医療保険制度の歴史の中で、非常に大きなパラダイムシフトに位置づけられるのではなかろうか。
しかしながら、使用済み器材を適切に洗浄・滅菌して、使用するための費用も従来の初診料・再診料の中に元々組み込まれている。これまでに施設基準を満たしていないクリニックは、今回の診療報酬改定を機に検討すべきである。これまでは施設基準を満たしていないクリニックであっても、今回の診療報酬改定を機に検討すべきである。患者が安心して歯科治療を受けられるように、今後は全ての医療機関が院内感染の施設基準を満たすことを、心より望んでいる。
金子明寛先生講演「歯科衛生士のための医薬品および医療機器安全責任者講習会
~院内感染対策・医薬品の安全使用および医療機器の安全使用~
▲金子明寛先生の講演
金子明寛先生(東海大学医学部外科系口腔外科教授)は、時折ユーモアのある表現を交えながら、院内・訪問診療時の感染対策・医薬品・医療機器安全使用に関する内容を中心に講演を行った。無理無駄のない歯科医療感染対策の4つのポイントや、東北大学の江草宏教授の研究グループが2016-2017年に実施した、歯科医師700人の感染管理に関するアンケートに対しての金子先生の見解、2段階の医療関連感染対策の重要性などを述べていた。聴講者にとって、訪問衛生歯科衛生指導時を含めた日常業務をもう一度見直す機会となる講演内容であった。
感染管理に関する歯科医師へのアンケート調査に関しては、厚生労働科学研究成果データベースにアクセスし、「歯科、院内感染」で検索すれば、元資料が出てくる。本記事では、アンケートの一部を紹介する。

・ハンドピースの交換頻度は?
1.患者毎に交換している(52%)
2.血液付着の確認や感染症患者であることが判明した場合、交換している(33%)
3.消毒液で拭く(13%)
4.特に何もしない(0.1%)

・リーマー・ファイルの使用後の感染管理は?
1.洗浄と滅菌を行う(65%)
2.滅菌のみ(3%)
3.洗浄のみ(14%)
4.薬液のみ(17%)

他にも、患者毎に手袋を交換する歯科医師は全体の約半数であったなどのアンケート結果があるが、感染管理をしっかりと行っているクリニックはそこまで多くない印象である。金子先生は、感染管理を怠ると、患者のクリニックに抱く心象を必ず悪くし、更に歯科衛生士の雇用にも影響を及ぼすことを言及した。まさに、その通りである。
第一部で手指衛生の効果について説明したが、金子先生は講演の中で、手洗いおよびアルコール消毒後の「保湿」を勧めた。診療では手洗いおよびアルコール消毒をする回数が多い。手洗い後の手指は乾燥し易く、皮膚が剥がれ落ちたり、ひび割れたりするなど、進行性指掌角皮症 (手荒れ) が起き易い。手荒れが原因でできた傷口から感染することも十分考えられるため、手洗いおよびアルコール消毒後は保湿剤を使用して傷口を作らないことが肝要である。多忙な日常臨床の中で手の保湿を行うまでの時間がないと思われる方もいるかもしれないが、適切な感染管理のためにしっかりと行ってほしい。
次回の記事では、深柄和彦先生と岸本裕充先生の講演内容を掲載予定
▲ヒューフレディ・ジャパン合同会社主催 Infection Control Symposium 2018 第2部の様子
第2部では、これまでの感染管理に対する歯科医師の意識や、10月1日からの初診料・再診料の診療報酬改定に伴う歯科医院経営に及ぼす経済的影響について紹介した。2回の連載を通じて、感染管理に対する意識がより一層強まったのではないだろうか。適切な感染管理を効率的に行うことが、今後の歯科医院経営において重要であることは、言うまでもない。
次回のICS記事(第3部)では、シンポジウム2日目で講演された深柄和彦先生の「感染対策のために知っておくべき栄養と中材の話」と岸本裕充先生の「歯科におけるインフェクションコントロール~今後に向けて~」の内容を一部紹介する予定である。既に掲載されている第1部の記事同様に、見所が満載である。次回の記事もお楽しみに。
古川 雄亮(ふるかわ ゆうすけ)
  • 日本矯正歯科学会 所属

東北大学歯学部卒業後、九州大学大学院歯学府博士課程歯科矯正学分野および博士課程リーディングプログラム九州大学決断科学大学院プログラム修了。歯科医師(歯学博士)。バングラデシュやカンボジアにおいて国際歯科研究に従事。2018年より、ボリビアのコチャバンバで外来・訪問歯科診療に携わり、7月から株式会社メディカルネットに所属。主に、DentWaveやDentalTribuneなどのポータルサイトにおける記事製作に携わり、現在に至る。

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