第48回:ミニマルインターベンションに基づく修復

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2002年、FDI(国際歯科連盟)は、う蝕治療におけるミニマル・インターベンション(Minimal Intervention、MIと略記)(最小限の侵襲)の原則を総会で採択した。その基本的考え方は、健全歯質を最大限残すよう配慮して治療し、歯の寿命を延ばすことにあり、それには、う蝕病巣のみを除去しての修復物の充填と修復物の補修という二面があり、後者は再充填の代替処置という意味も持っている。MIのコンセプトは確かにすばらしいと思われるのだが、臨床での理解と実践あるいは効果はどのようであろうか、と思っていた。その疑問に答えるような論文が昨年12月に相次いで発表された。 日本歯科保存学雑誌2009年12月号483-492頁に“ミニマルインターベンションに基づく修復法の臨床応用に関する実態調査”の報告がある。これは、九州大学病院歯科部門に所属する歯科医師133名に対する調査である。まず、“MIというう蝕治療コンセプトを知っているか”について質問し、次にMIを知っている回答者に対して“日常の臨床において生活歯・失活歯にMI修復法を適用するか”について質問。その後すべての回答者に2枚の症例写真(症例1:生活歯で遠心隣接面に限局したう蝕を有する下顎第二小臼歯; 症例2:MODの実質欠損を有する根管充填直後の下顎第一大臼歯)を示し(本論文にこれらの写真も載っている)、それに対して選択する修復法およびその選択理由について調査した。症例1では図に記入してもらった窩洞外形をBlackの窩洞が基本あるいはう蝕部分のみを含むかにより、症例2では全部被覆冠あるいはそれ以外の部分被覆冠・インレー・レジン充填などでの修復を選択したかにより、それぞれ従来型あるいはMI型かに分類した。 結果は、MIを知っているという回答は87%であり、そのうちMI修復法を選択するとしたのは、生活歯で69%、失活歯で27%であった。症例写真に対する回答では、MI修復法の選択は症例1で59%、症例2では23%であった。MI修復法を選択しないおもな理由は、生活歯の場合には従来法への慣れ、二次う蝕の予防、保持力の確保、失活歯の場合には歯・歯根の破折防止、保持力の確保であった。MI修復法の有効性を認めているにもかかわらず、実際の症例ではMI修復法を選択しなかった回答者が生活歯で3割、失活歯で約5割であった。こうした結果から、1)MI修復法の普及が失活歯において遅れている、2)生活歯の場合、MIを知っているほど実際にMI修復法を適用するが、失活歯ではMIを知っていてもMI修復を行う傾向は非常に小さいことがわかったとしている。 もう一つは、2009年米国歯科医師会雑誌JADA140巻12月号1476-1484頁に“再充填によらない、コンポジットレジン修復物の処置法の長期評価:7年の成績”という報告が載っている。通常であれば再充填処置されるであろう、問題のあるコンポジットレジン(CR)修復物をMI的に処置し、無処置や再充填症例と比較し7年間にわたり調べた結果である。患者37名(27〜78歳、平均57歳)の88症例(臼歯II、V級修復物が7、前歯III、IV、V級修復物が81例)を次の5群に分けて7年間追跡調査した。補修(リペア)25、シーラント適用12、再研磨19、再充填16、無処置16。これらの処置はすべて歯学部3、4年生が行い、その内容は次のようになっている。補修は、問題部分を削り、リン酸エッチング、3Mのボンディング材とCRで修復。シーラントでは、問題箇所をリン酸エッチング、Dentsplyのシーラントを適用、光硬化。再研磨は、表面着色、余剰レジンある場合、着色が表面でない時は補修。再充填は、修復物をすべて除去、窩洞形成、補修と同じ材料で修復。無処置は記録のみ。 処置前および0.5、1、2、7年後に辺縁変色、辺縁適合性(探針による診査)、解剖学的形態(カントゥアの状態)、表面の粗れ、二次う蝕、光沢など10項目を臨床的に診査し、その成績をA(良好)、B(概良)、C(不良)に分類した。失敗の判定は、10項目の一つでもCがある、修復物の脱落、クラウンがある場合とした。また、経年的に見た悪化の判定は、4回の診査で成績のランク(A、B、C)が1回でも下がった場合とした。処置前にA以外と判定されたのは、辺縁変色が60%で最も多く、次いでは辺縁適合性と隣接歯との色整合性の約20%であった。再充填群を含め多くの処置群とも辺縁適合性、辺縁変色、色整合性、光沢が悪化したが、とくに再研磨群では色整合性、光沢が有意に悪化した。7年後での失敗症例数は、補修とシーラント適用では0、再研磨2(18%)、再充填3(21%)、無処置3(23%)であった。失敗のなかった補修とシーラントの場合を除いて平均生存年数を計算すると、再研磨7年、再充填6.8年、無処置6.4年となった。以上のような結果から、問題のある修復物がある場合、修復物全体の再充填を行う前に、MI的処置を試みるべきであるとしている。 以上はCR修復物7年の成績であるが、JADA2009年4月号425-432頁にも、CRあるいはアマルガムのI、II級修復物を上記論文と同様なMI的処置をして、無処置や再充填症例と比較した、3年間の結果が載っている。患者66名、271症例についての成績であるが、シーラント適用、補修、再研磨のようなMI的処置は修復物の寿命を延ばすのに役立つとしている。 この4月号の論文に対する批判の投書がJADA9月号に載っている。再充填以外の処置は仮の処置といえるものであり、そうしたツギハギ処置は長持ちせず、短期的には患者にとって良いことがあるかもしれないとしても、長期的には患者のためにならず、保険会社を利することになるだけだという。この投書や九大病院の調査結果から察するに、MIの普及はまだ道遠しの感は否めない。保存学会誌の著者らは、MI修復が生活歯の小さなう蝕への対応と狭義に考えられている可能性、失活歯では全部被覆冠が第一選択という教育の影響、接着材料への信頼性が不十分、近年の接着材料・技法の進歩についての理解不足などを調査結果に対する考察として記している。教育といえば、修復物のMI的補修の学部教育は、スカンジナビア4国100%、英国90%以上、北米70%、ドイツ50%で行われていたという2000〜2001年の調査結果がある。 臨床にかかわったことのない筆者には、MI的なう蝕治療や修復物の補修が我が国の教育および健康保険においてどのように扱われているのか全く不案内であるが、患者の立場としては、やはりMI的処置を先ず望みたいと思う。 (2010年01月28日)
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