新型コロナウイルス感染症 第2波に備える感染管理 第2回

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新型コロナウイルス感染症 第2波に備える感染管理

有限会社ハグクリエイション社長
第2種滅菌技士 口腔科学修士 柏井伸子

1:環境整備
 2019年12月より世界的に深刻な影響を及ぼし続けている新型コロナウイルスには、遺伝情報が組み込まれたRNA(ribonucleic acidリボ核酸)を内包したカプシド(蛋白質の殻)があり、その外側をエンベロープ(脂質の膜)が取り囲み、最も外側にはスパイク(蛋白質の棘)がついています。ウイルスのエンベロープは脂質の膜ですが、細菌の外側の細胞壁は「ペプチドグリカン」というアミノ酸の一部に糖鎖が結合した糖タンパクでできています1)。このように微生物は主に蛋白質と脂質から構成されており、アルコール・界面活性剤・過酸化水素等で変性・失活することができます。
 感染対策には、「正しく恐れる」という姿勢が必要で、特に医療従事者は、信頼してくださる患者さんたちへ、一般家庭と異なる医療施設で医療行為を行うため、必ず科学的立証に基づいた対応が必要です。科学的とは再現性があるということを意味します。
 使用後のユニット周囲は、発生した飛沫により汚染されます。床・壁・ドアノブなどへの環境整備を「ハウスキーピング」と呼び、汚染物による病原性を下げる操作を行います。病原性微生物は唾液・血液・組織片等の汚染物の中に存在し、その汚染物を根こそぎ除去することができれば安全性が確立されるわけです2,3)
 では効率的かつ経済的に除染する方法は何かと考えると、再利用可能でゴミの量も削減できるものにマイクロファイバークロス(以下MFC)があります(写真1)。微細構造の空隙に汚染物を抱え込ませるように拭き取るためには、アルコールなどの消毒薬で湿潤させ、ゆっくりと一方向に操作します(写真1)。使用後は、タンパク質分解酵素入り中性洗剤で洗浄後、水道水で十分にすすいでから乾燥させ、オートクレーブで滅菌すれば、繰り返し使用することが可能です(写真2)。
 アフターコロナ期にも、常に感染症の発症リスクは存在します。安全な診療空間を整えることで「医療の質の向上」も実現されます。常に情報をとらえ、施設を挙げた取り組みが必要です。


写真1 使用後のユニット周囲への対応

写真2 MFCの再生処理

参考文献
1)口腔微生物学-感染と免疫-第6版 石原和幸他編著 2018年 株式会社学建書院
2)マイクロファイバークロスによるウイルス除去に関する検討 東條圭一他 Therapeutic Research vol. 35 no. 9 2014
3)単糸径2μm のマイクロファイバークロスによるウイルスに対する清拭性能に関する検討 東條圭一他 医機学 Vol.87,No.1,2017


2:個人防護具の適正使用
 「正しく恐れる」ことができれば、正しく行動することができます。感染を予防するために必要な身支度を個人防護具(Personal Protective Equipment PPE)と呼び1)、適正使用により医療従事者の感染リスクを低減させます。日常的に使用しているマスク・グローブ・ゴーグルもしくはフェイスシールドですが、それだけでは歯科処置の特徴である飛沫発生への対応としては不十分で、頭部を被覆するキャップや胸部・上腕を被覆するガウンも必要です2,3)
 個人防護具の選択では、サージカルマスクには、米国試験材料協会(American Society for Testing and Materials ASTM)による基準として細菌濾過効率(Bacterial Filtration Efficiency BFE)と微粒子濾過効率(Particle Filtration Efficiency PFE)があり、グローブには世界保健機関(World Health Organization WHO)や米国疾病予防管理センター(Center for Disease Control and Prevention CDCの基準を参考にします。
 処置前後での扱い方にも注意しましょう。マスクは左右の耳にイヤーループをかけたら、ワイヤーを両手で顔面にフィットさせます。片手では空隙が生じる危険性があります(写真3)。また、使用後のグローブは、汚染部分で肌に触れないよう、つまむ個所に注意します(写真4)。  感染拡大とともに医療資源としてのPPEの不足が生じる危険性があり、常に基礎在庫の管理を徹底して対処できるよう物的準備を行うとともに、スタッフ間での検討会や情報共有を心がけ未知の感染症にも備えていきましょう。

写真3 マスクのつけ方 NG(左)とOK(右)


写真4 使用済みグローブのはずし方 NG(左)とOK(右)


参考文献
1)Practical Infection Control In Dentistry John A. Molinari, Jennifer A. Harte 2010年 Lippincott Williams & Wilkins
2)歯科用インプラント埋入時の感染防止対策の検討-介助者の個人防護具と治療ドリルの洗浄- 柏井伸子・玉澤かほる・島内英俊著 医療機器学 No.84 Vol. 5 2014年
3)厚生労働省委託事業「歯科診療における院内感染対策に関する検証等事業」一般歯科診療時の院内感染対策に係る指針(第2版) 2019年 厚生労働省webサイト

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