ダウン症患者の正しい対応方法とは?注意すべき点や口腔内の特徴

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ダウン症は染色体の異常によって引き起こされる疾患です。心臓や呼吸器に合併症を持つことが多く、口腔内にもさまざまな特徴が現れるため、歯科治療の際は配慮が必要になります。この記事ではダウン症患者への対応について、注意すべき点や口腔内の特徴についてまとめています。自信をもって正しい対応ができる歯科衛生士を目指しましょう。

ダウン症とは?

ダウン症は、染色体が本来より多く存在することによって起こる染色体異常症です。通常21番染色体は2本ですが、ダウン症患者にはこれが3本存在するため、「21トリソミー」とも呼ばれています。かつてダウン症は短命で20歳を超えられないと言われていましたが、現在は医療技術の進歩により平均寿命が60歳前後と大幅に延びました。

ゆっくりと発達する

ダウン症は全体的に筋肉量が少なく、身体面での発達がゆっくりしている傾向があります。その他にも知能や言葉、社会性などもゆるやかに成長していきます。

さまざまな合併症を抱えている

ダウン症では知的障害とさまざまな身体的障害が見られます。合併症として最も多いのは心疾患で、全体の30~40%に認められます。他にも消化器系、眼科系、耳鼻科系、整形外科系、血液内科系など、多くの科にまたがった合併症の生じる可能性があります。

歯科治療で注意すべきこと

日本国内のダウン症患者数は約80000人と推測されており、歯科診療の場で接する機会も少なくありません。ダウン症患者の歯科治療で注意すべきことは以下のとおりです。

首に負担をかけない

ダウン症患者は頸椎の形成不全により、体動コントロールなどで頸椎を亜脱臼してしまう可能性があります。特に首を前に曲げるような動きは第一頸椎が前方に亜脱臼しやすいです。首の下にバスタオルを敷いた上で、頭部が上がりすぎないようヘッドレストの角度を調整するなど、頸部に負担がかからないようにしましょう。

チアノーゼに注意

合併症で心疾患がある場合、チアノーゼを起こしやすいです。低年齢で号泣してしまう場合は特に注意してください。SpO2を測定しつつ、口唇や舌の色の変化を観察しながら診療を行いましょう。治療中に酸素投与が必要な場合もあります。

呼吸のタイミングへの配慮

アデノイド増殖症などの耳鼻科系の疾患を合併していると、口呼吸をしている患者が多いです。治療は呼吸のタイミングに配慮しながら進めましょう。ラバーダム防湿を行う場合はエアーウェイを設けるなど、呼吸をしやすくする配慮が必要です。

観血処置での感染症に注意

心疾患を有するダウン症患者へ、抜歯や歯周治療など観血処置を行う際は、感染性心内膜炎に注意しなければいけません。場合によっては抗生剤の投与が必要になるため、事前に担当医師に確認しておくことが大切です。

乾燥による口唇の亀裂に注意

全身的な皮膚の角化亢進を認めることが多く、処置中に口唇亀裂を起こしやすいです。口唇に乾燥を認める場合は、治療前にワセリンを塗るなどの対策をして亀裂を作らないようにしましょう。

口腔内の特徴

ダウン症患者は口腔内にもさまざまな特徴が現れます。治療や歯科保健指導を行う上で大切なポイントとなるため、確認しておきましょう。

乳歯の生え変わりが遅い

後続永久歯が異所萌出することで、乳歯の抜けないことが多いです。萌出の順序や時期も不規則になる場合があります。

歯列不正

中顔面の劣成長により、狭口蓋や下顎前突が多くみられます。その他交叉咬合や空隙歯列、叢生などの歯列不正も多いです。なおダウン症による歯列不正に対する矯正治療では、保険が適応されます。

舌が大きい

筋緊張の低下や上顎の歯列弓が小さいことで舌が大きいです。食事の際に舌を出しながら食べ物を丸のみしてしまう場合もあり、舌を口腔内に留めて嚥下ができるように指導が必要なこともあります。/p>

歯周病・う蝕のリスクが高い

ダウン症患者のおよそ90%が歯周疾患に罹患すると言われ、10代で罹患し20~30代で重症化する傾向にあります。原因としては歯根が短いこと、歯列不正、免疫力が低下しやすいことなどが挙げられます。また仕上げ磨きを嫌がるなどプラークコントロールが難しいことで、う蝕のリスクも高いです。

歯科保健指導のポイント

ダウン症の患者はセルフケアが十分に行えず、仕上げ磨きも嫌がりしっかり磨かせてくれない場合が多いです。少し指導が難しいところですが、どういった対応が効果的なのでしょうか。

楽しい雰囲気でわかりやすく伝える

少しでも自分でケアができるようアドバイスをしましょう。「ここを磨こうね」など言語で具体的に指示していきます。「上手に磨けているよ」といった声かけをすることで、楽しい雰囲気でブラッシングを行うことができます。また保護者などが磨き方のお手本を示すモデリングも効果的です。家庭ではブラッシング中に気が散らないよう環境を整えることも大切です。

仕上げ磨きを嫌がる場合の対応

セルフケアだけで不十分なところは、保護者や介護者に仕上げ磨きをしてもらいましょう。仕上げ磨きを嫌がる場合は、何が原因なのかを見極めることが大切です。

  • 痛みがある:う蝕や口内炎、口角炎等がないか観察し、痛みの原因を治す必要があります。
  • 感覚過敏:感覚のアンバランスが生じ、触れられると痛みを感じたり、強烈に不快感を感じたりする場合があります。ブラッシングの前に触れられることに慣れるよう、脱感作を行いましょう。
  • 途中で嫌になる:ここまで磨けば終わりという見通しを立てることで、ある程度我慢できるようになることが多いです。口腔内をいくつかのブロックで区切り、10秒ずつ数えながら磨いていきます。いつも同じ順序で磨くようにすると、ゴールが分かりやすいです。
定期的な歯科受診が大切

前述したとおりダウン症患者は歯周病やう蝕のリスクが高く、罹患した後の進行も早いです。定期検診で口腔内や歯肉の状態をチェックしたり、プロフェッショナルケアを行うことでリスクをコントロールすることができます。

またダウン症患者は新しいことや環境が苦手なことが多く、いざ歯科治療が必要になったときにすぐに受け入れてもらうことが難しい可能性があります。普段から同じ歯科医院に通い環境に慣れておくことで、よりスムーズに治療を始められます。定期的な歯科受診の重要性を、本人やご家族に伝えましょう。

最後に

ダウン症患者は合併症を抱えている方も多く、安全に歯科治療を受けてもらえるよう配慮が必要です。患者さんが健康で過ごせるように歯科衛生士としてサポートしていきましょう。


執筆者 三島ゆか

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