【ボツリヌス治療特集】歯科における咬筋ボツリヌス治療(第1回/全3回)

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ボツリヌス治療とは
ボツリヌス治療とは、ボツリヌストキシン(ボツリヌス毒素)から抽出されるタンパク質を、筋肉内に注入することで筋肉の過活動や緊張の改善を図る治療である。

ボツリヌス治療は1977年にアメリカで始められた治療法で、現在、医科の領域において片頭痛、ジストニア、斜頸など様々な治療に応用されている。また、美容医療においても、ボツリヌスによるしわ取りの治療や小顔治療が一般化しており、70カ国以上で美容を目的として用いられている。

世界各国において幅広い領域で行われているボツリヌス治療だが、日本の歯科領域では2011年頃から導入され、咬筋や上唇鼻翼挙筋、上唇挙筋、オトガイ筋に注入することで歯ぎしり、食いしばり、顎関節症、ガミースマイル、オトガイ部の梅干しシワ治療等で導入されている。 中でも圧倒的に多いのは咬筋に施術を行う症例だ。歯ぎしりや食いしばり等により、咀嚼筋の一つである咬筋が必要以上に強くなること、つまり咬筋肥大が引き起こされる。咬筋肥大は、歯牙・歯根破折、磨耗・咬耗、知覚過敏、歯周病の悪化、マウスピースの破損等、患者へ悪影響を及ぼし、さらには頭痛、肩凝り、首凝りなどの症状につながることも多い。

歯科におけるボツリヌス治療
AADSM(米国睡眠歯科学会)-2018で発表された論文からの引用をご紹介させていただく。

引用元

Clinical benefit of botulinum toxin therapy for adverse events after the usage of mandibular advancing oral appliance as treatment for obstructive respiratory apnea syndrome

Furuhata A1 , Furuhata M1,2, Matusda M3 , Mitsubayashi H2
1 Furuhata Sleep-Disordered Breathing Research Institute, Japan;
2 The Nippon Dental University, Department of Internal Medicine, Japan;
3 Toranomon Hospital, Gastrointestinal Surgery, Japan

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下のグラフは、終夜ポリグラフ検査で閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS:Obstructive Sleep Apnea Syndrome)と診断され、下顎を前方移動させたマウスピース:口腔内装置(OA:Oral Appliance)による治療開始前後に顎関節症やブラキシズム、それらに付随する症状が確認された92名(男性53例、女性39例、平均年齢60.5歳)の初診時における各既往症、有害事象の件数を男女別に示したものである。


さらに、上記の母集団の初診時の咬筋活動量を見ると、「やや強い」以上の患者で占められていることが次のグラフから分かる。


ボツリヌス投与前と投与二ヶ月後の咬筋電位の変化を示した有意差の得られた下のデータを見ると、ボツリヌス投与後、男女とも咬筋電位が1mV前後まで減少していることが分かる。


以上より、ボツリヌス治療の有効性が示唆された以下のデータをご覧いただきたい。既往症、有害事象ともに、症状の改善と咬筋の活動量の減少に相関性があることが確認できる。


<症例写真>

歯ぎしり、食いしばりの自覚症状があり、咬筋にボツリヌス治療を行った。
咬筋の緊張が緩和され、症状が緩和。肩こり、頭痛の改善も見られた。




患者目線でのボツリヌス療法
ダウンタイムがなく、治療直後から日常生活にもどることができ、持続効果も6カ月前後維持できる点がメリットである。また、副作用も治療後、数日間、重たい感覚が残る程度である。
治療時間は15分程度で、保険適用外ではあるもののリピートを望む患者が多いことから、患者が効果に満足している様子がうかがえる。
気になる治療の安全性であるが、日本では1996年に眼瞼痙攣、2000年に片側顔面痙攣、2011年に痙性斜頸への治療が承認を受けている。また既述の通り、2011年頃から日本の歯科領域においても実際に使用されており、ボツリヌス治療の有効性は、歯科学会でも研究発表を通して示されている。
ただし、患者に神経筋伝達機構の障害を伴った疾患、重篤な心疾患または肝・腎疾患等がある場合や、妊婦や授乳中、妊娠予定の人やその配偶者へのボツリヌス治療は避けた方が良いとされている。

また、クリニックサイドにおいても保険適用外ではあるが、短時間で施術可能であるため、チェアタイムの効率化を図れるほか、リピートを望む患者が多い等、経営的なメリットも想定される治療である。

ボツリヌス治療の今後
ボツリヌス治療は歯科治療で被せ物の破折、歯牙・紫根破折、広範囲の知覚過敏、顎関節症、インプラントの安定、義歯の痛み等、多岐に及ぶ症例に対する有効性が期待される。今後は適応症が更に広がると考えられるため、様々な側面からのアプローチと検証を急ぐ必要があるだろう。


監修

古畑 梓 先生

日本歯科大学卒業
医療法人社団梓会 古畑歯科医院、古畑いびき睡眠呼吸障害研究所
日本歯科大学附属病院 内科臨床講師
日本睡眠学会、日本睡眠歯科学会、アメリカ睡眠歯科学会(AADSM)、日本ボツリヌス治療学会
(社)歯科国際先端医療普及協会 ボツリヌス療法セミナー講師
(社)日本顎顔面美容医療協会 ボツリヌス療法セミナー講師

お問い合わせ ボツリヌス治療・製剤・セミナーなど
① (社)歯科国際先端医療普及協会/PRSS.JAPAN(株) http://www.prssjp.com/
問い合わせ先 dental@prss.jp
*年末年始休暇 2020年12月29日~2021年1月6日まで

② (社)日本顎顔面美容医療協会 http://jmfas.org/
問い合わせ先 info@jmfas.org
*年末年始休暇 2020年12月30日~2021年1月4日まで

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