▶新規会員登録

記事

2013/10/24

第76回:成人のう蝕予防

近年海外では、成人、高齢者のう蝕予防・管理の重要性が認識されつつあるようであるが、我が国ではあまり注目されていないように感じている。しかし、急激に高齢化が進行し、また8020運動を進めている我が国としては、もう少し関心を寄せてもいいのではないかと思う。

う蝕罹患率の変動をみると(図1)、青少年では低年齢ほど、50歳以上では高年齢ほど低くなり、25〜50歳では100%近くで年齢差はほとんどない。高齢者のう蝕は経年的に増加している。例えば、60〜64歳あるいは70〜74歳では、1987〜2005年でそれぞれ、85→97%と58→85%であり、その後も増加しているのは確実である。そのことは、2011年の厚労省の調査結果はまだ公表されていないが、2011年の佐賀県の調査報告において、60〜69歳では1995〜2011年で88→97%と経年的に増加していることから類推できる。しかし、このような明確な経年的増加は、さらに年月が経過すると、20〜30年間は高う蝕罹患率のため認められにくくなるであろう。また、さらに年月が経過すると、逆に経年的減少が認められる可能性がある。このようなことを記すのは、中学、高校でのう蝕罹患率の推移を考えてのことである。


図1クリックで拡大

図2クリックで拡大

中学、高校でのう蝕罹患率の年次推移をみると(図2)、1950年代前半〜1962年にかけて数値は急激に上昇し、1980年頃95%でピークに達したが、90%以上の期間は中学では1969〜91年の22年間、高校では1968〜1996年の28年間の長期にわたっている。このような状況にあった生徒たちが、う蝕歯を抱えたまま成人、さらに高齢者となっていると考えているのである。う蝕罹患率が急上昇期の生徒たちは55歳以上に、90%以上の高率期の生徒は25〜50歳に対応しているように見える。

12歳DMF歯数は、1994〜2003年では4.0から2.09まで平均0.21本/年ずつほぼ直線的に低下したが、2004〜2011年は1.91から1.20まで平均0.10本/年と緩やかな直線的低下となっている。う蝕罹患率は、中学2000年、高校2003年にかなりの急低下を始め、2011年の数値はそれぞれ48、58%となっている。このように生徒のう蝕は2000年頃から急激に減ってきており、将来的には成人のう蝕も減ると考えられる。なお、高年齢層でのう蝕罹患率の低下はおもにう蝕や歯周病によりう蝕歯が抜歯された影響とみられる。2005年の8020推進財団の「永久歯の抜歯原因調査報告書」によると、う蝕が原因の抜歯割合は年齢とともに増加し、30歳代で約50%のピークに達し、50〜80歳代では26〜30%であまり変わらない。一方その年齢層では歯周病が原因の抜歯割合は50〜56%でほぼ同じ傾向となっている。

さて、このような状況にあるう蝕の予防であるが、そのキーワードは、フッ化物、シーラント、食生活の改善ということになっている。う蝕予防において、フッ化物配合歯磨剤が大きな役割を果たしてきたことは世界的に広く認められているが、その予防効果はおもに子供、若年者で検証されたものであり、成人での検証は非常に限られている。2007年のJ Dent Resに成人での効果についてのメタ分析結果が報告されているが、それによればフッ化物配合歯磨剤のまともな臨床試験報告は1980〜1998年の4論文にすぎない。結論的には、成人でも子供などの場合と同様にフッ化物にはう蝕予防効果があるとしている。う蝕予防には、歯磨剤中のフッ化物濃度550ppm以下では効果はなく、1,000〜1,500ppmでは高濃度ほど効果的とされている(Cochrane Review, 2010, Issue 2)。根面う蝕の予防、進行抑制では、1,100ppmにくらべ5,000ppmフッ化物配合歯磨剤の方が初期根面う蝕の再石灰化作用がすぐれ、より効果的であるという臨床試験報告がある。根面の再石灰化ではエナメル質にくらべよりフッ化物が必要という事情も影響しているようである。

フッ化物がやはり本命であるが、非フッ化物系のう蝕予防材についてADA専門家委員会がまとめた報告がある(JADA142巻9号、 2011)。要点を記すと次のようである。歯冠部う蝕では、砂糖不含/糖アルコール(キシリトール、ソルビトールなど)含有のチューインガムを毎食後10〜20分噛むと5歳以上の子供やう蝕発症リスクの高い成人のう蝕を抑制できる可能性があるが、クロルヘキシジン(CHX)を含むバーニッシュ、ジェル、リンスはその単独あるいはフッ化物を併用しても効果は疑問で推奨できない。根面う蝕では、成人や高齢者には10%のCHXとチモール含有バーニッシュを3か月ごとに適用すると発症抑制の可能性があるが、CHX含有のジェル、リンスはフッ化物と併用してもあまり効果はない。歯冠部う蝕である程度有効とされた糖アルコール含有チューインガムでは、キシリトールの効果が強調されることもあるが、キシリトール不含/ソルビトール・マンニトール含有ガムでもキシリトール含有ガムと似たような臨床試験結果が報告されている。食後にガムを噛むことにより唾液が増加し、食物残渣の口腔内での清掃が促進され、またプラークの酸がすばやく中和されることにより、う蝕の発症と進行が抑えられるようである。

CHX含有バーニッシュについては、2011年のCaries Resに根面う蝕に対する効果に関する系統的レビューがあり、高齢者やドライマウスのようなハイリスク患者には多少益する可能性もあるが、推奨の程度は”弱”としており、フッ化物バーニッシュとくらべ効果は判然としないというのが大体の結果であるらしい。さらに、成人でのう蝕予防について、以前にはCHXコーティングは有効という報告もあったが、最近のランダム化臨床試験でその効果は否定されている(J Dent Res 91巻2号、2012)。それによると、う蝕リスクの高い18-80歳の成人の全歯面に10%CHXコーティング(4週間毎週と6月後1回の合計5回処置、そのコーティングの上にさらにメタクリレート系ポリマーで保護コーティング処置)を行い、13月観察し、解析した。その結果、新しいう蝕の発生予防において、CHXを含まないプラセボコーティングと有意差は認めなかった。

シーラントに関しては、米国でその有効性があまり評価されていないらしいことを示す調査がある(JADA 142巻9号、 2011)。2008年ADAの専門家委員会は、う窩のないう蝕(C0)にシーラント填塞を推奨する勧告を発表しているが、子供や若年者のC0歯へのシーラント填塞を一般歯科医や小児歯科専門医がどのように考えているかアンケート調査した結果は、その勧告はあまり尊重されていないことを示唆している。すなわち、う蝕の進行を抑えるためのシーラント処置に対する771名の意見をまとめたところ、賛成、不賛成がそれぞれ、子供や若年者には54%と32%、成人には34%と45%であり、臨床で実際にC0にシーラント填塞を行っている歯科医は36%、その処置はよくないとの回答がそれを上回る40%であった。

う蝕予防には、現状ではフッ化物配合歯磨剤に頼るしかないであろう。その歯磨剤として、我が国ではフッ化物配合濃度1,000ppm以下のものしか市販されていないが、海外では1,000〜1,500ppmの商品が通常に市販され、5,000ppmの商品は歯科医の処方により患者が利用できるようになっている。我が国ではこのような高濃度のフッ化物配合歯磨剤は使用できないようであるが、成人や高齢者のう蝕事情を考えると、我が国でも導入してみる価値があるのではないかと思っている。

(2012年5月30日)

記事一覧
プロフィール 第122回:清涼飲料の酸蝕性と酸蝕症(2016/08/01)第121回:セラミックインレー/アンレーの寿命(2016/07/12)第120回:最近のう蝕治療の考え方(2016/06/03)第119回:患者の望む歯科医療(2016/05/10)第118回:根管治療に関する記事へのコメント(2016/03/31)第117回:レジン修復と二次う蝕(2016/03/01)第116回:歯科インプラントは万能かそれとも歯の保存に努力すべきか(2016/02/01)第115回:ハイブリッドレジン、ジルコニアの接着(2015/12/16)第114回:ハイブリッドレジン製CAD/CAM冠の脱離(2015/11/10)第113回:歯周病にまつわる最近の論文から(2015/10/08)第112回:光線力学的治療(Photodynamic therapy, PDT)の医療における利用(2015/09/01)第111回:慢性歯周炎治療におけるスケーリング・ルートプレーニングと補助療法の効果(2015/08/03)第110回:破折歯の診断と処置(2015/06/29)第109回:グラスファイバーポストを利用した支台築造(2015/05/18)第108回:バルクフィルレジンについて考える(2015/04/07)第107回:う蝕乳臼歯の治療の見直し(2015/03/03)第106回:臼歯のコンポジットレジン修復物の寿命(2015/01/19)第105回:CAD/CAMの保険導入と今後(2014/12/02)第104回:非う蝕性歯頸部欠損の修復(2014/10/27)第103回:MTAをめぐる動き(2014/09/18)第102回:EPAとDHA神話の行方(2014/08/12)第101回:深在性う蝕の治療―銅セメントはよみがえるか?(2014/07/22)第100回:歯科における接着―その源流(2014/06/11)第99回:インプラントの不具合と医療機関の対応(2014/05/02)第98回:歯科のかかわりが疑われる医原性疾患(2014/04/09)第97回:ノンクラスプデンチャーについて考える(2014/03/07)第96回:知覚過敏抑制材料(2014/02/10)第95回:根管治療の新しい試み(2014/01/06)第94回:根尖性歯周炎の全身への影響と治療(2013/12/03)第93回:歯の保存かインプラントか(2013/11/14)第92回:歯耗(Tooth Wear)の発生状況とそのリスク因子(2013/10/24)第91回:予防指向の歯科医療(2013/10/24)第90回:初期う蝕の革命的処置法(2013/10/24)第89回:う蝕治療の再考を!(2013/10/24)第88回:国民の医療・保健への歯科界の貢献に期待する(2013/10/24)第87回:修復物のリペア(2013/10/24)第86回:英国版歯科疾患実態調査と歯周診査のありかた(2013/10/24)第85回:早急に"代用合金"から脱皮を!(2013/10/24)第84回:根管治療歯は時限爆弾?(2013/10/24)第83回:歯質接着システムは進化している?(2013/10/24)第82回:生活歯髄治療の成績(2013/10/24)第81回:薬事工業生産動態調査から見た歯科材料の動き(2013/10/24)第80回:平成23年歯科疾患実態調査について(2013/10/24)第79回:深在性う蝕の治療―窩底軟化象牙質をどうするか(2013/10/24)第78回:根管治療成績について考える(2013/10/24)第77回:歯みがき後のうがい ―フッ化物配合歯磨剤のう蝕予防効果を高めるには―(2013/10/24)第76回:成人のう蝕予防(2013/10/24)第75回:メタルボンドか、オールセラミッククラウンか(2013/10/24)第74回:糖尿病対策と歯科への期待(2013/10/24)第73回:インプラント義歯の保険導入(2013/10/24)第72回:不況は米国の歯科界にどのような影響を及ぼしているか(2013/10/24)第71回:う蝕乳臼歯処置の新たな選択肢(2013/10/24)第70回:根管治療の見直しと新しい試みを!(2013/10/24)第69回:垂直歯根破折の処置(2013/10/24)第68回:コンポジットレジンのリペア(2013/10/24)第67回:Siloraneモノマーをベースとする画期的コンポジットレジン(2013/10/24)第66回:歯科金属アレルギーと慢性疲労症候群(2013/10/24)第65回:根管の化学的清掃(2013/10/24)第64回:インプラントをめぐるせめぎあい(2013/10/24)第63回:メタボリックシンドロームと歯周病(2013/10/24)第62回:東日本大震災によせて(2013/10/24)第61回:象牙質知覚過敏の治療(2013/10/24)第60回:支台築造をめぐって(2013/10/24)第59回:短縮歯列(2013/10/24)第58回:インプラント歯科の教育をどうするか(2013/10/24)第57回:くさび状欠損の原因は歯のくいしばり?(2013/10/24)第56回:英国における最近の欠損補綴治療(2013/10/24)第55回:う蝕治療にどう対応するか?(2013/10/24)第54回:根管充填をめぐる話―日本歯内療法学会から(2013/10/24)第53回:う蝕が減るとどうなる?(2013/10/24)第52回:接着性レジンシーラーの前途はどうなる?(2013/10/24)第51回:ビスフェノールA(BPA)をめぐる最近の動き(2013/10/24)第50回:総義歯の将来(2013/10/24)第49回:インプラントブームについて考える(2013/10/24)第48回:ミニマルインターベンションに基づく修復(2013/10/24)第47回:金パラ(2013/10/24)第46回:東京デンタルショー2009(2013/10/24)第45回:歯と全身の病気の関係(2013/10/24)第44回:増原英一先生のご逝去を悼んで(2013/10/24)第43回:歯耗 -Tooth Wearー(2013/10/24)第42回:ジルコニアはフッ酸でエッチングできる?(2013/10/24)第41回:ポリフェノールと歯科における効用(2013/10/24)第40回:修復物からのフッ素放出の効果(2013/10/24)第39回:インパクトファクター(2013/10/24)第38回:英国の歯科治療(2013/10/24)第37回:ホルムクレゾールをめぐる論争(2013/10/24)第36回:ファイバーポストについて(2013/10/24)第35回:セルフエッチングシステムについて考える(2013/10/24)第34回:日本デンタルショー2008から(2013/10/24)第33回:義歯と義歯安定剤(2013/10/24)第32回:歯頸部欠損の修復(2013/10/24)第31回:セルフアドヒーシブ・ルーティングセメント(2013/10/24)第30回:接着ブリッジ(2013/10/24)第29回:日本歯科保存学会春季学術大会講演抄録集を見て(2013/10/24)第28回:日本歯科理工学会学術講演会から(2013/10/24)第27回:根管治療結果の大規模調査(2013/10/24)第26回:光重合について考える(2013/10/24)第25回:インプラントの普及とブリッジ(2013/10/24)第24回:アマルガムは何で代替されたか(2013/10/24)第23回:歯科におけるミニマル・インターベンション(2013/10/24)第22回:日本歯科保存学会講演抄録集を見て(2013/10/24)第21回:アマルガムはどうなっているか(2013/10/24)第20回:歯を失う原因(2013/10/24)第19回:5月の学会学術講演会の講演集から(2013/10/24)第18回:レジンの硬化や接着に好ましくない影響を及ぼすもの(2013/10/24)第17回:日本歯科保存学会に出席して(2013/10/24)第16回:むし歯予防週間によせて(2013/10/24)第15回:水酸化カルシウムとFC(続)(2013/10/24)第14回:水酸化カルシウムとFC(2013/10/24)第13回「納豆でダイエット」と食育(2013/10/24)第12回:デュアルキュア(2013/10/24)第11回:改正薬事法と歯科器材(2013/10/24)第10回:歯のホワイトニング(2013/10/24)第9回:最近のコンポジットレジン(2013/10/24)第8回:ファイバーポスト(2013/10/24)第7回:HEMAのはなし(2013/10/24)第6回:根管治療かインプラントか(2013/10/24)第5回:MT教授の特別講演(2013/10/24)第4回:金属アレルギーと歯科治療(2013/10/24)第3回:接着歯内療法(2013/10/24)第2回:合着と接着(2013/10/24)第1回:歯科における接着の話(2013/10/24)

新着ピックアップ


第112回歯科医師国家試験の総評と今後の展望

難易度高過ぎ!?現役歯科医師らが歯科医師国家試験に物申す

ガムを噛んで唾液を出すだけ!唾液検査用ガム

医療広告ガイドライン対策