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2013/10/24

第4回 咀嚼と健康

 歯科疾患と全身とのかかわりについての情報が普及しつつある。特に近年、歯周病と全身疾患との関係についての研究成果も多く発表されている。さらに咬合との関連や、残存歯数と認知症との関係も強調され、8020運動の根拠ともなっている。

 咀嚼と全身あるいは健康との関係といえば、窪田金次郎東京医科歯科大学名誉教授が世界でも草分け的な存在である。窪田先生は、昭和19年9月に東京医科歯科大学の前身である東京医学歯学専門学校歯学科を卒業後、千葉医科大学に入学、昭和23年に同医学科を卒業された。東京大学医学部助手を経て、昭和28年東京医科歯科大学歯学部講師、昭和43年同歯学部附属顎口腔総合研究施設教授に就任され、昭和63年に定年退官されるまでの約二十一年間の永きにわたり、教授を務められた。東京医科歯科大学に着任されてすぐ、体表解剖学という体の表面を見て内部の解剖を観察する、我が国歯学部では最初の生体観察というユニークな授業形態を確立された。

 研究面では顎運動の神経・筋、調節機構に関する比較解剖学研究、咀嚼筋、筋紡鐘の解剖生理学的な研究、その後の顎運動制御機構の研究を行い、歯科医学界では未開拓であった研究分野のパイオニアである。平成2年には、歯科、食品、工学など広範な研究者を会員に迎え日本咀嚼学会を創設された。

 先生は「咀嚼と健康に関する研究」を推進され、「咀嚼すると脳血流が増える」ことを証明されたことでよく知られている。平成6年から今日に至るまでは、本学、東大、国立がんセンター、日大松戸歯学部、株式会社ロッテとの共同研究「PETを用いた脳局所血流に対する咀嚼の効果についての研究」を指揮してこられた。PET画像とMRI画像により、ガムをかんでいるときには、脳の部位によって、8-28%血流量が増加することが明らかにされた。そして「かむという行為によって、脳に刺激を与えることがいかに大切かを示している。入れ歯でもよくかむことが、ぼけの防止につながることは間違いない」と力説されている。さらに神経伝達物質のドーパミンの変化を調べることで、咀嚼が脳の働きに及ぼす影響を解明されつつある。

 かむ、食べる、話す、といった人としての基本的な行為であり、しかも全身の健康と非常にかかわりの深いものが、われわれ歯科医師の担当する領域である。窪田先生はこうした情報を社会に向けて提供されることにも熱心であった。人々に身近な話題としてこのような情報を普及することで、歯科医学、歯科医療の存在感を高め、口腔保健の意識は向上するはずである。臨床家であっても、歯科衛生士であっても、日々の患者にこうした話題を提供することで、歯科への関心は高まるはずだ。

 窪田金次郎先生は去る5月24日、逝去された。享年83歳であった。偉大なるご業績、歯科界への貢献に対し、心より敬意を表し、ご冥福をお祈りする。

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