第26回:光重合について考える

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保存修復領域では、いまは光重合が全盛であり、強力な光照射器、高速重合開始剤など、光照射の短時間化が進んでいるようである。高速重合システムはどのようなものかと興味深く思いながらもそのままとなっていた。たまたま、それに関係する論文が目に留まったので、それを紹介しながら光重合について少し考えてみたい。 論文は、ナーイフほか3名の著者による、日本歯科理工学会発行の英文誌であるデンタル・マテリアルズ・ジャーナル26巻、687〜693頁(2007)に掲載されたものである。コア用コンポジットレジンで直径5 mm、深さ3 mmの円柱状窩洞をもつ模型を作り、その窩洞にフロアブルレジンのパルフィークエステライトLV(LVと略記)、エステライトフロークイック(FQと略記)(いずれもトクヤマデンタル)を充填し、10秒、30秒光照射を行い硬化させた。なお、窩洞内面は接着処理をするか(接着あり)何も処理しないままとした(接着なし)。充填・硬化した部分を垂直に切断して3分割し、中心部の厚さ2 mm部分を引張強度試験、ほかの部分をヌープ硬さ測定および走査電顕観察に用いた。厚さ2 mmの板状試料は、窩洞の上層、中層、下層に3等分して切断し、引張試験の試料とした。 ここで用いたLVとFQの大きな違いは、FQでは“RAPテクノロジー”(Radical-Amplified Photopolymerization initiator、ラジカル増幅型光重合開始剤)が用いられていることである。ラジカル増幅剤(筆者の推測ではジメチルアントラセン?)の配合により、効率的に多くのラジカルを発生させ、加速度的に重合を開始させるのがこの技術であり、光照射時間は従来の約3分の1の10秒程度でよいとされている。 走査電顕観察からは、接着処理をしないといずれの場合にも窩壁、窩底にギャップができ、接着処理すると、LVではどこにもギャップはできないが、FQでは窩底にできることが明らかにされている。筆者には隅角部でどのようになっているか興味があるが、残念ながらそれについては不明である。FQで窩底にギャップが観察されたことは、 FQではLVにくらべ窩壁適合性がやや劣る傾向のあることを示すデータ(メーカーのカタログに載っている)と関連しているのではないかと想像している。 図1に照射時間を変えた時の各層でのヌープ硬さの変化を示す。LVでは、照射時間が長くなると各層とも硬化が進み、また上層から下層になるにしたがって硬さは緩やかに低下するという、通常よく認められるパターンを示した。ところがFQでは、上層では10秒、30秒ともにほぼ同じ硬さとなっているが、下層では30秒に比べ10秒では顕著に硬さが低下しており、30秒照射では通常パターン、10秒照射の場合のみRAPシステムに特有と思われるパターンとなった。図1には“接着あり”の場合を示したが、“接着なし”の場合もほぼ同様な結果となっており、FQでの10秒照射の場合のみRAPシステムに特徴的なパターンを示した。FQでは、浅い窩洞であれば10秒照射で十分であるが、深い窩洞では10秒では不足し、より長時間の照射が必要であることを示唆している。 FQにおいては、10秒照射では、上層は30秒照射と同程度に急速に硬化するが、下層での硬化はかなり遅れている。これは、窩底部での接着にとって好ましくない硬化のしかたである。表層で急激に硬化が進むとその方向にレジンは引っ張られて収縮し、硬化の遅れた窩底部にギャップができやすくなってしまう。これが、走査電顕観察により窩底にギャップが認められたことの説明である。一方、硬さの急激な低下は起らず、硬化が全体として緩やかに進むLVではギャップは認められていない。 図2に、一応標準的な照射時間としてFQ10秒、LV30秒の場合について接着の有無と合わせ、各層での引張強さの変化を示す。FQでは、接着しない場合、上層から下層になるにしたがって強度は低下していた。ところが、接着すると、接着しない時と比べ、上層では強度はやや低下、中層では同じ、下層ではやや上昇という傾向となった(なお、30秒照射では、接着すると、上層、中層ともに有意に強度が低下する結果が示されている)。一方LVでは、接着の有無にかかわらず上・中・下層の強度にそれほど差はないが、接着すると上層、中層では有意に強度が低下している。 これらの結果はどのように考えたらよいであろうか?FQの下層での低い強度は、図1の硬さのデータからみて硬化不足によるものと考えてよかろう。接着してよく硬化している上層では、FQ、LVともに強度が低下している。これは、光重合における重合収縮の影響をよく反映しているように思われる。すなわち、接着していない場合には、何の拘束もないためレジンは自由に収縮して窩洞との間にギャップができ、残留応力などはあまり発生しない。ところが、接着して接着力が強いとギャップはできず、収縮力によりレジン内に歪や応力が生じ、残留応力あるいは場合によってはミクロな亀裂の発生となって強度を低下させることになる。これらのことは、光重合で時として報告されるエナメル質での亀裂発生にも通ずるところがある。下層では接着の有無の影響が小さくなっているのは、上層に比べて硬化がまだ十分ではなく、重合収縮の影響があまり現れていないためであろう。 光重合にかぎらず化学重合でも同様であるが、先ず初めに硬化が始まった場所・方向へレジンは引っ張られ、硬化がもっとも遅れた部分に重合収縮の影響が現れる。光重合では当然照射器に近い部分から硬化が始まり、そのスピードが大きいほど硬化が遅れる部分への影響が大きくなる。強力な照射器でも高速重合システムにおけると同様なことが起ると推測され、短時間照射を特徴とする器材の利用に当っては、それらの特性をよく理解したうえで適切に使いこなすことが望まれる。 (図1と2は、取り上げた論文に載っているデータをもとに筆者が作成した) (2008年3月25日)
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