第16回:むし歯予防週間によせて

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6月はむし歯予防週間がある。そこで、むし歯に関することを書くことにする。2000年3月、厚生労働省は2010年までの10年間にわたり“21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)”を進めることを決めた。そのなかに、むし歯にかかわる目標も盛り込まれ、12歳児におけるむし歯本数1歯以下が掲げられた(この数値は大まかなものであり、実際にはより詳細な目標値として1.4歯以下が設定された)。2010年までにこの1.4歯という目標は達成可能であろうか。これまでに公表されている過去のデータをもとにまず考えてみたい。 図1は、文部科学省学校保健統計調査をもとにした12歳の永久歯の一人当たり平均DMF歯(未処置・喪失・処置歯)数およびう蝕のある人の割合(罹患率)の最近10年の推移である。両数値とも順調に低下し、2006年にはそれぞれ1.71歯と56.5%となっている。これらのグラフを2010年までおよその外挿をすると、う蝕罹患率50%、DMF歯数1.4歯になり、何とか目標は達成できそうである(う蝕罹患率とDMF歯数の間には相関関係がある)。 うえに述べた数値は全国の平均値であるが、地域によりかなりのバラツキがある。2006年の時点で、2010年の1.4歯以下という目標は10都府県ですでに達成されており、そのうちの6都県はう蝕罹患率も50%以下となっている。その一方、それら両指標が2001年の全国平均値(2.51と70.47%)よりも大きいところが2県ある。 このような地域格差は別の形でも現れている。大都市、中都市、小都市、町村になるにしたがって、DMF歯数は1.40から2.06、う蝕罹患率は48.89%から62.76%に増加している。全都道府県のなかで、新潟県の1.0歯、42.8%というのが最低である。これは、保育園から中学校までの児童、生徒を対象にして、長年にわたり進めてきた集団フッ素洗口の結果が反映されているといってよかろう。その一方、特別のことをしているとは思われない広島県や愛知県で、DMF歯数がそれぞれ1.1と1.2になっているのは興味深い。DMF歯数が1に近づいてくると、その低下傾向は緩やかになるため、2010年の目標を確実に達成するには、これまでDMF歯数の大きい地方、町村部でのむし歯予防に力を入れる必要がある。 [図1]画像をクリックで拡大表示 [図2]画像をクリックで拡大表示 12歳でのDMF歯数が減っているのは喜ばしいことであるが、その先はどうであろうか。図2は、5〜17歳においてう蝕罹患率が年齢と年代でどのように変化したかの一例を示す。いずれの年齢においても経年的に減少している。永久歯が生え始めるまでは増加、その後減少に転じ、歯が大体生えそろう12歳で最小、その後はかなりの増加傾向となっている。この増加に比例して当然DMF歯数も増加する。2006年の12〜17歳のような調子で増加し続けることはなく、80〜85%に達する年齢からは緩やかな増加になると推定されるが、それでもう蝕罹患率がかなり高くなるのは避けられそうもない。子供のむし歯の心配は減ったとしても、成人のむし歯には心配がある。 図3と図4は、厚生労働省の歯科疾患実態調査データから一部取り出して作成したグラフである。文科省の調査は対象者数が従来は約115万人、2006年は336万人規模で行われ、毎年公表されている。それに対して、厚労省調査では全部で5〜7千人程度、6年間隔でしか調べていないので、どの程度実態を示しているのかの疑問もあるが、成人に関しては入手し得る唯一のデータである。 残存歯数は、年齢とともに当然減っているが、年々増える傾向にあり、これは高齢者で特に目立っている。そうはいっても、よほどがんばらないと“8020”の達成は容易ではないことが察せられる。30代から50代前半にかけて残存歯数は徐々に減っているが、う蝕罹患率は12年間あまり変わらずに97〜100%という高値である。このことは、子供の頃は12年間でDMF歯数やう蝕罹患率に差があったはずなのに、ある年齢に達するとほとんどの人がう蝕に罹患し、その状態が続いていることを意味している。これは、子供時代がまだむし歯の多い年代にあったためとも考えられ、20代前半の傾向をみると、将来的には中年層のむし歯は減る可能性は考えられる。一方、高齢者では、残存歯数の増加に伴ってう蝕罹患率も増えるという関係にある。したがって、“8020”を考えるうえでも、中高年や高齢者のむし歯に留意する必要があるように思われる。 [図3]画像をクリックで拡大表示 [図4]画像をクリックで拡大表示 むし歯予防といえば、水道水フッ素化(フッ化物添加)のことが頭に浮かぶ。日本で唯一水道水フッ素化に向け準備を進めていた沖縄県久米島町も2002年5月には中止を決め、現在日本では実施しているところはない。今後も我が国では水道水フッ素化をしようとする自治体はまずないであろう。むし歯予防の一つの指標に使われている12歳児のDMF歯数(WHOやFDIでも採用)がかなり低いレベルに達していること、水道水フッ素化には問題点がないわけではないことを考えると、むし歯は感染症であるとされているとはいえ、伝染病ではないむし歯予防のために水道水をフッ素化するという公衆衛生的手法をとることに筆者は疑問を感じている。水道水フッ素化に関し,骨肉腫が増える可能性があるとしてかって議論となったが、2005年になって再び米国で論議を呼んでいる。 むし歯予防といえばまずフッ素ということになろうが、そのフッ素の役割は“歯の耐酸性を高める”とされてきたが、現在では“歯の再石灰化を促進するのがおもな効果”と考えられている。むし歯予防では、フッ素配合歯磨剤が大きな役割を果たしてきたことが先進諸国の調査で認められている。それら諸外国にくらべてフッ素配合歯磨剤の普及が20年ほど遅れた我が国も、その普及とともにむし歯が急激に減ってきたといえる。 子供ではむし歯が順調に減っているので、フッ素の適切な利用とよい食生活・習慣を続ければよいであろうが、う蝕罹患率が高いまま推移している中年層やむし歯が増加しつつある高齢者の動向は要注意であるように思われる。むし歯が感染症であるとすれば、できるだけ初期段階での治療を進めることが望まれよう。
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