第42回 【後編】ヒトの頬脂肪体から脱分化脂肪細胞(DFAT)が入手可能に

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今回の研究の主となるヒト頬脂肪体に話を移しましょう。頬脂肪体は,被膜で包まれた限局性の脂肪塊であり,咬筋の前縁と頬筋の間の浅いくぼみに存在しています。この頬脂肪体は局所麻酔と極小切開で口腔内から採取できる唯一の脂肪組織です。また,口腔外科の手術で不要になり,医療廃棄物として扱われることが多々あります。他の施設からすでに,この頬脂肪体から脂肪由来間葉系幹細胞と脱分化脂肪細胞が調製できることは報告されています。したがって,頬脂肪体は再生医療や細胞治療の治療用細胞の採取部位として大きく期待されています。

成熟した脂肪細胞

脂肪滴を持つ細胞を成熟した脂肪細胞と言います。この成熟脂肪細胞の直径は平均60-110 μmと報告されていますが,20 μm以下の成熟脂肪細胞の存在も明らかになりました。この脂肪細胞の大きさと細胞の増殖能(分裂能)についての研究が最近報告されました。その研究では,小さい成熟脂肪細胞の増殖能が,大きい成熟脂肪細胞と比較して高いという結果が示されています。そこで、筆者らは,成熟脂肪細胞の大きさと脱分化脂肪細胞への脱分化の効率の関係性を検討しました。
筆者らは日本大学歯学部の倫理委員会の承認を得まして、インフォームドコンセントを行い顎変形証の手術の際に余剰となり廃棄される頬脂肪体を患者さんから供与を受けまして,それを実験室に運び,脂肪細胞を単離して、その一つの脂肪細胞の大きさ(直径)を測定しました。驚くことに、40μm未満の細胞数はそれ以外の細胞数よりも5倍ほど多い結果となりました。そこで、5人の患者さんから採取した頬脂肪体すべてにおいて測定したところ同じ結果となりました。そこで,頬脂肪体から単離した脂肪細胞を直径40 μm未満の細胞分画(Small adipocytes; S-adipocytes)と直径40-100 μmの細胞分画(Large adipocytes; L-adipocytes)の2種類に分けて脱分化脂肪細胞に脱分化する効率を検討しました。方法は、培地を満たしたフラスコに同じ細胞数の両細胞分画を播種し天井培養を行い7日後にフラスコを反転して脱分化脂肪細胞数を数えました。その結果,天井培養開始6,10,14日目におけるS-adipocyteから脱分化した脱分化脂肪細胞(S-DFAT)の細胞数はL-adipocyteから脱分化した脱分化脂肪細胞(L-DFAT)の細胞数よりも有意に多いことがわかりました。このことから,S-adipocytesはL-adipocytesに比較して効率よく脱分化脂肪細胞に脱分化することが示唆されました。
次に,S-DFAT細胞とL-DFAT細胞の特性を比較検討してみると、面白い結果が得られました。細胞表面に発現している間葉系幹細胞の指標となるCD146抗原の発現を解析すると,S-DFAT細胞におけるCD146陽性細胞の割合はL-DFAT細胞に比較して約1.5~2倍高いことが明らかになりました。さらに、S-DFAT細胞とL-DFAT細胞の骨芽細胞への分化能をアルカリホスファターゼ (ALP) 活性,石灰化noduleのアリザリン赤染色およびnodule中のカルシウム定量にて評価してみると、S-DFAT細胞はL-DFAT細胞よりも骨芽細胞への分化能が高いことが示唆される結果となりました。一方で,両細胞間における脂肪細胞への分化能の有意差はありませんでした。

本研究の結果をまとめて,今回のコラムを終わりとしましょう。

ヒト頬脂肪体から調製した成熟脂肪細胞には直径40 μm未満の大きさの脂肪細胞が高い割合で存在していました。そのS-adipocytesはL-adipocytesに比較して効率よく脱分化脂肪細胞へ脱分化することが明らかとなりました。つまり,同じ細胞数を用意した時にS-adipocytesから出現する脱分化脂肪細胞数はL-adipocytesより多いことになります。さらに,S-adipocytesから脱分化したS-DFAT細胞は,直径40-100 μmのL-adipocytesから脱分化したL-DFAT細胞に比較して骨芽細胞への分化能が高いことがわかりました。このことは,S-DFAT細胞は,L-DFAT細胞よりも早期に骨芽細胞に分化できることが示唆される結果となりますので,骨組織や歯周組織の再生には,S-DFAT細胞の方が有用となります。以上のことから、口腔内に存在する頬脂肪体は医療廃棄物とせずに,骨や歯周組織再生のための細胞治療の細胞源として応用可能であることがわかりました。しかしながら,ある患者さんが手術を受けられて余剰となった脂肪をすぐに,移植に用いることはないでしょうから,頬脂肪体から分離できる脂肪細胞もしくは脱分化脂肪細胞を保存していただける機関が必要になります。脂肪は大量に採取できますし、限られた手技となりますが、口腔内でも、採取できることから、歯科医師が活用できる細胞源にもなります。今後は、臨床応用を考えた取り組みを臨床の先生方とできれば良いかなと考えております。



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