第42回 【前編】ヒトの頬脂肪体から脱分化脂肪細胞(DFAT)が入手可能に

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愛知学院大学歯学部 楠元キャンパス

2015年4月1日から名古屋市千種区楠元町にあります愛知学院大学歯学部・口腔解剖学講座の大野教授が2015年3月末に退官されましたので、その後を引き継ぎまして教鞭をとることになりました。
筆者は平成元年に愛知学院大学歯学部を卒業後、母校で初めての勤務となりますから、27年ぶりに楠元に戻ってきました。私の講座が担当する教科は2科目の講義と実習になります。一つは、歯の解剖学であり、もう一つが組織学および発生学の顕微鏡解剖となります。これらの教科は日大歯学部でも教えていた科目です。愛知学院と日大の講義で大きく異なるのが、一限の時間配分です。日大は、一限が50分でしたが、愛知学院は90分です。

この2年間、東京から名古屋への引っ越しを含めて、いろいろな出来事がありましたので、コラムをお休みさせていただきましたことをお詫びいたします。前回のコラムは2014年の夏に掲載させていただいています。昨年の4月に着任してから、あっというまに一年が経ちまして、まだ、落ち着いていないのですが、この4月からコラムを開始させていただきますので、お付き合いのほどよろしくお願いします。

筆者のコラムの担当は再生医療や幹細胞の最新の研究をDentwave.com会員のみなさんに紹介することです。私のコラムが休暇中の2年間に日本の再生医療は大きく変り、日本は、再生医療先進国に向けて進みだしたのです。大きく変わった点につきましては、このコラムにてご紹介させていただきます。

今月のコラムは、4月5日付で日本歯科新聞に掲載された成熟脂肪細胞の研究についてご紹介させていただきます。
みなさんは体の中の“脂肪”に対してどんなイメージを持っていらっしゃいますでしょうか?多くの方は、あまり良いイメージを持っていないと思います。体の中の脂肪とは、白色脂肪細胞という細胞に蓄えられた中性脂肪です。白色脂肪細胞は過剰となって血液中に流れている中性脂肪などの脂質や糖を取り込み、エネルギーとして蓄えています。脂肪を蓄えた白色脂肪細胞は球体に膨らみます。白色脂肪細胞の通常の大きさは直径が80μmほどですが、脂肪を蓄えると直径140μm近くまで肥大します。

今回、新聞に取り上げていただいた研究は、この脂肪細胞に大きさに関することです。 一方で、幼少時に脂肪細胞は分裂して細胞数が増えるのですが、思春期になると脂肪細胞は増えずに大きくなるのみと教えられた記憶はありませんでしょうか?すなわち、幼少時に生涯の脂肪細胞数が決定されるので、幼少時に肥満になると良くないと考えられていました。
ところが近年の研究において、思春期を過ぎても、白色脂肪細胞に脂肪がある程度蓄積されると、細胞は分裂して、分裂した細胞がさらに脂肪を蓄積することがわかってきました。つまり、肥満者の白色脂肪細胞はどんどん増えることができますので、肥満はどんどん悪化します。

白色脂肪細胞は脂肪を蓄えるだけではなく、エネルギーを必要としたときに、自らの脂肪を分解して脂肪酸とグリセロールという形で全身に供給します。脂肪を放出した白色脂肪細胞は小さくなって前駆細胞に戻ることができるようです。そして、再度、脂肪を蓄積することで脂肪細胞になります。つまり、脂肪細胞は多くのエネルギーを持ち、かつ、細胞分裂が可能で若返ることもできる細胞と考えられています。共同研究者の日本大学生物資源学部の加野教授と同大医学部の松本教授らはこの現象を実験的に明らかにしました。

加野教授らは、皮膚から採取した白色脂肪細胞を、間葉系幹細胞の培養法とは異なる天井培養法を用いると脂肪滴を持つ脂肪細胞は浮遊して培養皿の天井に接着します。天井に接着した脂肪細胞は二つの細胞に分裂し、その一つは脂肪細胞であり、もう一つは間葉系幹細胞に類似した性質を持つことを明らかにしました。

成熟脂肪細胞から現れる脱分化脂肪細胞の調整方

この間葉系幹細胞に類似した特性を持つ細胞を脱分化脂肪細胞と名付けました。

この脱分化脂肪細胞は高い増殖能をもち、脂肪細胞、骨芽細胞、軟骨細胞、平滑筋細胞、血管内皮細胞、心筋細胞、神経細胞等への多分化能を有していることから再生医療や細胞治療の細胞源として有用となります。脱分化脂肪細胞は同じく脂肪組織を構成する細胞中に存在する間葉系幹細胞(脂肪組織由来幹細胞)に比較して骨芽細胞への分化能が高く、口腔領域の骨組織や歯周組織の再生に有用であることが報告されており、臨床的にも広く注目されています。



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