衛生士コラム「全身管理に目を向ける歯科衛生士を目指そう」vol.2

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歯科衛生士コラム
歯科衛生士 阿部田 暁子

公益社団法人 日本口腔インプラント学会認定 インプラント専門歯科衛生士
一般社団法人 日本歯科麻酔学会 認定歯科衛生士

パート2 患者さんの会話の中から情報を得よう

1.患者さんとの会話の中から情報をつかもう


 メインテナンス時において、患者さんとほとんど話さずに施術に夢中になり淡々と行っていたり、高齢患者さんとの会話が苦手だと聞くことがあります。
「患者さんとの会話」の中には実は様々な情報があります。口腔内の変化だけではなく、生活環境などのお話も出てくることもあります。患者さんは、「聞かれなかったら話さない。」ということも多くあり、重要な情報を得られなかったことによる大きなリスクが潜んでいることもあります。
 アポイントを取る場面で「あの日もこの日も病院通いで忙しいんです。」とお話された時に、「忙しい患者さんだわ。歯科医院に来たくないのかしら・・」と思うこともあるでしょう。

画像提供:
公益社団法人 日本糖尿病協会
 しかしそれは、まさに全身疾患を有しているサインなのです。それがどんな病院なのか、服用薬はあるのかについて尋ねてみましょう。患者さんによっては、処方され、服用している薬が何の薬なのかを正しく把握していなかったり、「~を飲んでいる。」と口頭でのやり取りのみでは本当に正しい情報はつかめません。歯科医院には関係ないからと薬手帳を持たずに来院される患者さんも多いですが、正しい情報を得るためには必ず持参をしてもらいましょう。薬手帳では、処方日時、期間、病院名、服用薬の名称や容量を正確に知ることができます。また、糖尿病の方は、糖尿病手帳を持っていますので、こちらも持参していただき、HbA1cの値や血糖値や変化を確認することができます。安全な歯科治療を行うためには、治療の内容によっては、かかりつけの病院へ診療情報提供書による対診が必要となります。
 初診時の医療面接で得た情報は、月日の流れと共に変化していきます。次のメインテナンスまでに通院先や服用薬が変わっていることもあります。常に直近の情報を確認するようにしましょう。

2.患者さんの「変化」に気が付こう


 皆様は、通院されている患者さんを「観察」されていますか?
顔色、話し方、動作、歯ブラシなどを持つ手の使い方、お口のゆすぎ方など、今日はいつもより顔色が優れない?なんだか動作が遅くなっている?何度もお口をゆすごうとする、喉に水がためられない、むせる、フレイルの始まり?など少しの変化から患者さんの全身状態の変化を見つけることができます。「変化」は全身疾患のサインであることもあります。同じ患者さんを担当する場合にはその変化にすぐに気が付きますが、担当歯科衛生士が変わったとしても、記録に残し共有することが必要です。
「変化」は常に観察をします。定期的にメインテナンスに通院されている患者さんはもちろんのこと、例えばインプラントの埋入手術において術前に滅菌ドレープをかける前にも、患者さんの顔色や顔の赤みや傷なども確認してから顔を覆います。術後に変化があった場合に、術前からのものなのか、手術によるものなのかなどの的確な判断をすることできます。
「変化」に気がつくためには、前の状態を観察していなければ気が付くことができません。
また「お顔にタオル」やドレープは患者さんの表情がわからず、変化に気がつかないことがあるので常に声掛けを行うことが必要です。

3.リスク管理ができていますか?


 情報を知らずに患者さんに施術していると、大変なリスクを起こすことになりかねません。
ここでは全身疾患の多くをしめている疾患においてのリスク管理について説明します。


・血液さらさらのお薬を飲んでいる
 私たち歯科衛生士はスケーリングやSRPをすることがあります。時にはそれが観血的処置になる場合もあります。患者さんに脳梗塞や心筋梗塞、狭心症、心房細動などがある場合は血栓予防のための抗血栓薬(抗血小板薬、抗凝固薬)が服用されている場合があります。それを知らずにスケーリングやSRPを行った場合には、出血が止まりにくくなることもあります。もちろん抜歯や外科処置に関してもその情報は必要となります。患者さんには、なるべく抜歯などの観血的処置にならないように口腔衛生状態を保つよう指導を行い、定期的にメインテナンスを継続してもらうことが必要です。

・高血圧
歯科治療中の急激な血圧上昇は、脳や心臓などに大きなダメージを与えることもあり、大変危険です。高血圧の患者さんは、不安による血圧上昇の他にも、麻酔の注射による血管収縮薬のアドレナリンの作用で血圧の上昇のリスクを引き起こします。浸潤麻酔は使用する本数に気を付けなければなりません。どれくらい血圧が上昇しているのかは、普段の血圧の値を知らなければ判断することができません。そのため来院の際に平常時の血圧を測定しておく必要があります。降圧剤の服用薬の中でもカルシウム拮抗薬による副作用として歯肉の肥厚がみられることがあります。

高血圧で通院する患者の処方の一例

・救急薬は医院だけではなく、患者さん自身も持っている
狭心症で発作時に使用する薬(ニトログリセリン製剤など)を患者さんに来院時に持参してもらうことも忘れてはなりません。歯科における救急薬とは、アナフィラキシーショックに用いられるアドレナリン自己注射薬だけではありません。喘息発作の吸入薬など、患者さん自身が持っている救急薬もあります。これらの薬は歯科医院には常備はなく、歯科治療中の発作に対応できるように患者さんに持参の説明をしておくことが重要です。

・外科処置においてリスクのある薬を飲んでいる
患者さんが「整形外科に・・」と話された場合は、まず思い浮かぶのが薬によっては、外科処置のリスクとして、MRONJ(薬剤性骨壊死)を起こすことが挙げられています。代表的なものにはBP(ビスフォスフォネート製材)やデノスマブなどがあります。骨粗鬆症治療薬として、これらの薬が処方されていることがあります。この様な場合には、外科処置を避けるためにも口腔衛生を保つようにメインテナンスを継続してもらう必要があります。

・アレルギーがあるかどうか把握する
患者さんのアレルギーの有無を把握することは、リスク回避のために重要です。処方する薬に対する禁忌があるか否か、過去に表面麻酔や浸潤麻酔で気分が悪くなったことはないか、アルコールが禁忌か(洗口剤の中にもアルコール含有のものがあります)卵や大豆アレルギーはないか(静脈内鎮静法で使用する薬の中にはそれらが禁忌であることがあります)、ラテックスアレルギーなど、把握しておかなければ重大なリスクに繋がります。またトラブルで多いのは抗生剤のアレルギーです。歯肉溝に塗布する歯科用軟膏はテトラサイクリン禁忌の方に用いるとアレルギー反応を起こすことがあります。時にはアナフィラキシーショックを起こすこともあるため充分に気を付けなければなりません。
患者さんのアレルギーの有無は必ず医院全体で把握をすることが必要です。

次回は、生命の徴候ともいわれる「バイタルサイン」について、お話をしていきたいと思います。


参考文献

医歯薬出版 2019年 10月 脱口だけ歯科衛生士 全身状態へのアプローチ
編著 山口秀紀 著 阿部田 暁子

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