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2013/10/24

第14回:水酸化カルシウムとFC

水酸化カルシウムは、直接覆髄、生活歯髄切断などの歯髄組織保存治療に従来利用されてきたが、近年は根管貼薬剤としても多用されつつある。長年にわたり根管貼薬剤といえばまずホルムクレゾール(FC)であった。しかし、FC中のホルムアルデヒドによる毒性、発がん性、変異原性、感作性などへの懸念が持たれるようになり、それに代わるものとして、そうしたリスクのほとんどない水酸化カルシウムが好まれるようになったようである。水酸化カルシウムは、組織為害性が弱く、強アルカリ性による殺菌作用や有機質溶解作用、硬組織形成作用等があって有用とされるが、本当にこれらの作用が立証されているとも思えないところがある。

水酸化カルシウムの殺菌性はFCにくらべてはるかに弱いとされている。さらに、根管に貼薬された水酸化カルシウムの変化、動向を考えると、強アルカリ性を前提とした持続的な殺菌性にあまり多くを望むのはむずかしいと思われる。すなわち、貼薬された水酸化カルシウムで最も重要なのは根尖部であろうが、根尖部では組織液により短時間のうちに弱アルカリ性の炭酸カルシウムに変化し、強アルカリ性は失われてしまう。モデル実験によれば、根尖部での強アルカリ性が期待できるのは貼薬後1日、長くて3日程度である。一方、根管中央部に貼薬された水酸化カルシウムは炭酸カルシウムにあまり変化することなく、長期間そのままである。したがって、殺菌性を発揮するほどではない強さのアルカリが長期間にわたって周囲に放出され続けることになる。

これは果たして好ましいことなのであろうか?アルカリが象牙質コラーゲンに作用して象牙質を脆弱化させ、最終的に歯の寿命を縮めることはないであろうか?水酸化カルシウムに有機質溶解作用があるとされていることからも推測可能なように、それがコラーゲンの構造に悪影響を及ぼすことは十分に考えられる。短期間の貼薬ではそれほど影響ないとしても、長期間の場合にはやはり心配が残る。その場合にはコラーゲンの強化を考えることも必要となろうが、それにはグルタルアルデヒドの利用が最も効果的である。

2005年Journal of Dental Researchに発表されたかなり信頼性が高いと思われる論文によると、生活歯髄切断において従来FCと並んで使われてきた水酸化カルシウムの成功率は低く、FCの代替候補の一つである硫酸第二鉄の方が優れた結果となっている。さらに、水酸化カルシウムでは、臨床的成功率は比較的高いのにX線的評価を含めた全体の成功率はかなり低下しており、臨床的評価のみに頼るのは好ましくないことが示唆されている。

硫酸第二鉄は、米国では市販されているが、我が国の歯科界ではあまりなじみのない薬剤である。これは本来歯科領域での止血薬剤であるが、その15.5%溶液を15秒間歯髄切断面に適用すると、希釈FCを5分間適用したのと同様の成績が得られたとされている。なお、2006年には5%次亜塩素酸ナトリウムの方が硫酸第二鉄より成績がよいという報告が見られるなど、海外ではFC、水酸化カルシウム離れを模索している様子がうかがえる。

次亜塩素酸ナトリウムや硫酸第二鉄はそれぞれ強アルカリ性、強酸性であるが、歯科医療従事者にはリスクは低く、使用法を誤ると患者にはやや高リスクとなろうが、こうした無機物の方がFCより全体的に生体にやさしいことは確かであろう。水酸化カルシウムはさらに比較的安全で使いやすいであろうが、使い方を工夫するとともに、予後のチェックを十分に行うことが必要であるように思われる。

ホルムアルデヒドによる発がんでおもに疑われているのは、鼻咽腔、鼻腔、副鼻腔のがんである。これらはおもにホルムアルデヒドの吸入によるリスクであり、経口ではリスクは低いとされている。したがって、治療を受ける患者よりも、治療時にホルムアルデヒドを繰り返し高濃度で吸入する機会が多く、またホルムアルデヒドで汚染された診療室に長時間いる可能性の大きい歯科医療従事者の方がリスクが高いといえる。FCはできれば使用したくない、また水酸化カルシウムでは殺菌性の点でものたりない。ということであれば、根管貼薬剤の使用は避け、根管拡大時に次亜塩素酸ナトリウムなどで根管内を無菌化する努力をするという選択もされつつあるようである。

十分な殺菌性を有し、根尖歯周組織に慢性的な為害作用を及ぼさないような根管貼薬剤の研究、開発が望まれる。それには、ホルムアルデヒドに比べ、揮発・蒸散性が低く、殺菌性、安全性、たんぱく質凝固性、コラーゲンの強化性などの点で優れているグルタルアルデヒドの利用を検討する価値があり、それは生活断髄や根管貼薬の薬剤として少なくともFCよりはすぐれたものになると筆者は思っている。過去においてFCに代わるものとしてグルタルアルデヒドが生活断髄用に研究され、その有効性も報告されていたが、その後研究はあまり進んでいないようであり、残念な気がする。

ホルムアルデヒドは常温では本来気体であるため大気中に放散されるのは避けがたいが、沸点約100℃のグルタルアルデヒドではそのようなことはより起こりにくく、アルデヒドとしてはより環境にやさしいといえる。グルタルアルデヒドは、歯科でも強力な殺菌・消毒剤、殺ウィルス剤として器具などの消毒に利用されているが、皮膚や気道等への刺激性の問題はあるとしても、ホルムアルデヒドのような発がん性、変異原性は今のところ動物試験で認められていない。

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