第1回 子どもから大人・高齢者まで1000人の歯をみがいて分かった歯科衛生士の原点

カテゴリー
記事提供

© Dentwave.com

 私は、昭和45年に歯科衛生士免許を取得し、開業医勤務を1年経験して、その後富山県内の保健所で公衆衛生業務を30年。そのうち、8年は、富山県庁厚生部健康課で保健衛生行政を経験してきました。机に向かうデスクワークが多くなり、事務処理が苦手で、なかなかじぃーと座っている仕事も合わず、50歳(平成13年3月)で退職。

 根っから現場が大好きなことから、自宅で“歯ぶらし屋さん”を開店。次にひょんなことから“歯みがき屋さん”も始めることになりましたが、31年間の歯科衛生士歴からは、人の歯を直接みがいてあげた経験は少なく、自分の子供に仕上げみがきをしたことぐらいでは、自信も信用も得られない。ましてや、その対価をいただくとなると、人の歯をみがく技術を完全マスターしなければなりません。

 そこで、1000人の歯をみがいた後、“歯みがき屋さん”を始めようと考えたのが、平成14年春のことです。まず、1000人のうち、中学・高校生が最も多く、約400人もみがきました。とても美意識の高い年代であることから、歯への意識、関心の高揚に即効性があり、キレイになった自分の歯をもっとキレイにしたい、保ちたい気持ちになるようです。また、この年代は、みがいてもみがき甲斐のある年頃で、エナメル質の艶も格別で、ツルツルなパール色の輝きは皆、「こんなの初めて!!」と感動しています。

 これまでは、むし歯予防や歯周病予防のための歯みがき指導という視点でお話していましたが、“美”の切り口からの意識づけがこれほど行動変容を促すことになるとは、私も感動したものです。

 次に、50歳代、60歳代の女性です。主に婦人会、公民館活動の中で歯みがきをさせていただきました。最初は、口を開けていただくことに抵抗がありましたが、“歯みがき”ではなく“歯のエステ”という言葉で表現したことで多くの人達が集まってくれました。しかし、清掃補助用具を何種類か必要になる年代。道具が多くなれば面倒だと言われセルフケアに結びつきません。そこで、何とか歯ブラシ1本だけでキレイになる技術、技法を発見し、その結果、セルフケアを楽しく継続していただけるようになりました。

 また、“歯のエステ”は、歯みがき指導ではありません。あなたがフェイスエステをエステシャンにしてもらっている最中に、頭の上でいろいろケアについてお話をされても聞く気持ちになれないのと同じです。“歯のエステ”中は、ケアだけに専念しています。この方法が返ってその人に合ったみがき方がその人に自然に学習できているということです。それもわずか一度の経験で、すぐ身に付くようです。3ヶ月後に同じ人の口の中を見ると、とても生き生きとしていてキレイなのです。みがいてあげたやり方で、日常のセルフケアをされていたようです。

つまり (1) 歯みがき指導は、口答での指導より、その人に合ったみがきを直接してあげることで歯ブラシの使い方(歯ブラシ圧や角度)が分かる。 (2) 歯ブラシ以外の補助用具はなるべく使わないでみがく方が、継続したセルフケアの意識が高まる。道具は多ければ多いほど面倒だ・・・・という意識だけが残る。

 また、歯みがきを嫌がるというより、歯みがき恐怖症児とも言える幼児を多くみがきました。まず、恐怖心を除去することから始めなければなりません。根気と時間が必要です。でも幼児の嫌がる心理がよく理解できました。子供をむし歯にしたくない親の責任感の辛さもよく分かりました。

 無理強いしない仕上げみがきの体位の工夫、みがく順序の工夫そしてみがく時間帯の工夫をすることで、恐怖心も徐々に消え、スムーズに歯みがき好きに変身できることもたくさん経験し、私自身も自信が付きました。

 更に、高齢者特に70歳代、80歳代、寝たきりの人の介護をしている施設でも、歯みがき体験を多くしてきました。この年代でみがいた忘れられない人がいます。とても素晴らしい歯と歯ぐきの持ち主の70歳代の男性3人との出会いです。3人の共通した歯みがき法がローリング法で、歯医者さんにはかかったことがない人達でした。多分、歯医者さんの通院経験があれば、ローリング法を否定され、違ったみがき方を指導されていたことでしょう。“案外ローリング法は正しいのかも?”と思ったのです。この3人の70歳代の男性の出会いが、のちに私の考案した「SEIDA式ウエルネスブラッシング」の原点になったのです。

 さて、例えば、あなたの肌がツルツルプリンプリンで実際の年齢より肌年齢が10歳も20歳も若い肌ですねと専門家に褒められたとします。その専門家にどんな方法で肌のケアをしていたのかと尋ねられ、自分が今までやってきた方法を答えたところ、その方法は正しくないと言われ、別の肌ケアの方法を示されたとします。あなたは、その専門家を信頼できますか?

 自分のこれまでの肌ケアの方法で10歳も20歳も若い肌だと言われたのですから、これまでの方法で良かったのではないでしょうか。しかし、その方法を否定されて、別の方法がより良いと言われても、そのとおりにケアする気になれますか。

 これと同じことを歯みがきに当てはめると、70歳代まで歯と歯ぐきが素晴らしく健康で生き生きしている人が、実はローリング法でみがいていたとすると、この方法を否定することは私にはできません。むしろ、正しいと考えます。ここで初めてローリング法を見なおしたことが、今日のウエルネスブラッシング法考案の原点でした。

 このように1000人の歯みがきが、これまでの私の歯科衛生士歴31年を全く覆す出来事を体験させてくれたのでした。 次回につづく

  |  次のコラム  

記事提供

© Dentwave.com

新着ピックアップ