歯科医師臨床研修の「いま」 ~臨床教育は、「目で盗め」から「見守る」時代へ~

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 平成18年度より必修化された歯科医師臨床研修制度。歯科医療は座学だけでは成立しないだけに、国家試験という壁を乗り越えたばかりの新人歯科医師にとっては、再び目の前に現れた「臨床の現実」という名の大きな壁である。この壁をステップに大きく飛躍を試みる者もあれば、現実に打ちのめされながら苦しい1年間を送る者もいるようだ。一方臨床研修施設にとっては、すべての臨床研修医に一定の成果を出すことが求められ、その研修プログラムに日々腐心している現実がある。指導する内容は変わらずとも、「受け手」が大きく変わってきているからだ。
「さとり世代」「草食系」と称される若き歯科医師が増えつつある昨今、臨床研修には何が求められているのだろうか? 単独型歯科医師臨床研修施設として毎年10名程度の臨床研修医を受け入れ、これまで100名以上の若手歯科医師を育ててきた渡部譲治先生(神奈川県横浜市・ワタナベ歯科医院)に、歯科医師臨床研修の現在について聞いてみた。
一言でいうと、昨今の臨床研修医はどのような歯科医師でしょうか?
渡部 あえて言うならば、「歯の形を知らない」歯科医師でしょうか。国家試験をクリアしてきましたから知識は豊富にありますが、その一方で歯のスケッチすらできません。これは多くの臨床研修医に見られる傾向です。
 現在の教育課程では臨床経験を積むことは不可能ですから、技術に関してとやかく言うことはできません。また、昨日まで学生だったわけですから、医療人・社会人としての自覚が希薄なのもやむを得ないでしょう。しかし、歯科医療のもっとも基本となる歯の形を知らない者が歯科医師になっているという現実は、重く受け止めなければならないと思います。つまり臨床教育のスタート地点は、歯科医療の根源的なところからスタートしなければならないのです。
具体的には、どのような教育がなされているのでしょうか?
渡部 歯の形や表面性状を知らなければ、診断や形成、修復のゴール設定することはまずできません。ですからワタナベ歯科では、徹底的に歯のスケッチをさせるようにしています。写真1は、ある臨床研修医が最初に描いた大臼歯のスケッチですが、この程度のスケッチしかできないのが一般的です。これに対し、幾度となく評価と描き直しを繰り返したところ、概ね4か月で写真2程度まで描けるようになりました。このような感じで、大臼歯の咬合面・近心面・頬側あるいは唇側面と、歯列の正面と側面、そしてスカルのスケッチが描けるようになってはじめて、一歯単位の支台歯形成の指導に移ります。

<写真1>


<写真2>

歯やスカルのスケッチに4か月間も、ですか?
渡部 人によって差はありますが、それくらいは必要でしょうね。「そんなに長い期間、スケッチに費やすのはどうか」とよく言われますが、このステップの有無はその後の教育の成果に大きな差を生むと考えています。教育の成果は、得てして指数関数的に飛躍的に増大します(写真3)。スケッチが上達する、つまり歯の形態を理解することで、形成やテンポラリークラウンのクオリティも格段に上達するのです。

<写真3>


臨床研修医の精神面のケアとして、ワタナベ歯科では何かされていますか?
渡部 院長である私と指導医が、「常に見守っている」という姿勢で指導に臨むくらいしか、特にこれといって特別なことはしていません。ただ、この「見守っている」ということこそが、教育には不可欠と考えています。簡単にいうと、「放ったからしにしない」です。
たとえば、先程のスケッチや支台歯形成などその最たるものですが、どんな些細なことであっても指導医が常に評価し、どこをどう改善すればいいのかを明確に指導させるようにしています。いくら技術職とはいえ、「見て盗め」という時代ではないのです。成長をともに喜び、解決法をともに考える――こんな関係性が、臨床研修医の向上心の維持に寄与していると思います。
 また、指導医には状況をすべて私に報告するよう徹底させ、悩んでいる臨床研修医がいたとしたら、私からそれとなく本人に声をかけたり、研修医を含む歯科医師全員に、自分の失敗談や成功につながった工夫を書いたメールやLINEを送ったりしています。このメッセージはかなり効果があります。臨床研修医にとって雲の上のような存在の院長も、「若い頃は私と同じような失敗をしていた」と知ることで、一気に身近な存在になるからです。  「孤独感」や「孤立感」を抱かせることなく、高い目標を維持し続けるよう働きかけることが、もっとも基本的なことなのではないでしょうか。

臨床研修はこれからどうあるべきだと思いますか?
渡部 歯科医師臨床研修の基本理念は揺るがない目標ですが、私はあえてそこに、「先人の叡智を引き継ぐ」ということが大切だと思っています。疾病構造が大きく変わり、またマイクロスコープやCTなど器具・器材も大きく変化してきていますから、「過去」ではなく「未来」に目を向けた教育がもてはやされています。実際ワタナベ歯科では、早い段階で拡大診療に慣れるべきと考え、臨床研修医にもマイクロスコープを覗かせることが多々あります。しかし、未来志向の教育だからといって過去を否定する教育であってはいけません。
よく、「オヤジのような歯医者にはなりたくない」という二世臨床研修医がいますが、私はそう切り捨てることが実にもったいないと考えています。得てしてそういった臨床研修医は「あんな古い考え方じゃやっていけない」と口々に言いますが、オヤジ世代はどんな臨床研修医よりもはるかに長い経験を積んでいます。患者との距離感や、とっさの対応力などは、論文や数年の研修だけでは絶対に学ぶことのできないものです。「古狸の手口(テクニック)」ほど、これからの歯科医師人生に役立つものはありません。
教育というものは、駅伝の襷をつないでいくようなものだと私は考えています。先人の積み重ねてきた叡智の上に私たちがいて、それを次世代につないでいくことこそが、歯科医療の発展につながると思っています。臨床研修医として歯科医師の第一歩を踏み出すということは、次の世代に引き継ぐ教育者としての第一歩をも踏み出したということを、私は伝えていきたいですね。
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