「医療事故調運用ガイドライン」および医師法21条の正しい理解

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佐藤 一樹 氏(いつき会ハートクリニック)
心臓血管外科、小児心臓外科を専門としてきた佐藤氏。現在、循環器を中心とした診療所を開業しながら、小学校の校医の職につくと共に医療事故調運用ガイドラインの作成委員会および厚生労働省科学研究費 診療行為に関連した死亡の調査の手法に関する研究班の両方に参画してきた数少ないメンバーでもある立場から医療事故への対応に関して具体的事例を示しながらわかりやすく語り始めた。
アナフィラキシーショックに関する知っておくべき対処法
2018年2月20日に小児歯科医院で2歳の女児がリドカイン局所麻酔関連で死亡したという報道があった。亡くなるようなデンタルショックの要因は、以下の3つがあげられる。
1.神経性(疼痛性)ショック=三叉迷走神経反射
2.局所麻酔剤中毒
3.局所麻酔剤のアレルギー=アナフィラキシーショック
通常、致死性不整脈対応としてリドカインを静注するが、量を間違えると中毒や、より重篤な不整脈で亡くなってしまう。歯科領域の局所麻酔の量で中毒による死亡は滅多にないと思うが、少量でも亡くなるケースは、アナフィラキシーショックである。これは、ぜひ知っておいていただきたい。
医療事故調査制度における調査機構としては、日本医療安全調査機構(医療事故調査・支援センター)がある。この組織の中心業務は、医療事故の再発防止である。
 このホームページ上には「注射剤によるアナフィラキシーショックに係る死亡事例の分析」の報告書、資料が掲載されている。
 報告書では、まず【アナフィラキシーの認識】提言1として「あらゆる薬剤、複数回安全に使用できた薬剤でも発症し得る」と記載されており、いつでもアナフィラキシーショックは起こると言える。注射で投与後5分間経つと症状が現れる。症状の事例は主に消化器症状、呼吸器症状で全身症状に気を付けなければならず、患者の症状に違和感を抱いたらすぐ対処する必要がある。

そして、その対処法は唯一つでアドレナリン0.3mgを注射することである。但し、この記載内容は成人の用量で、小児の場合での対処法に関しては日本小児アレルギー学会のホームページの中に一般向けエピベン®の適応という項目が掲載されている。この製品は、アドレナリンのことである。
 私は校医をやっている中で学校に1本、鞄の中に1本、アナフィラキシーショックを起こす可能性がある子どもには常備している。この製品は0.3mgで体重が30㎏以上であればこの用量で問題ない。体重が30㎏未満であれば0.2mg。10kg未満であれば0.1mgを指標とする。

児童が死亡した事故の事例から日本小児アレルギー学会が出した報告書では、エピベン®(アドレナリン)が処方されている患者で消化器症状、呼吸器症状などが一つでもあったら注射を打つことを絶対に躊躇してはいけないと記載されている。注意点としては、抗ヒスタミン薬、副腎皮質ホルモンは救命に寄与するエビデンスは存在しないという点になる。
 日本小児アレルギー学会における本領域の担当は海老澤元宏医師(国立病院機構 相模原病院)であることを踏まえて、この先生の複数ある書籍を読むと共に、歯科医院でもアンプル1本だけでも良いので具備してほしい。

知っておくべき関連ガイドラインについて
「医療事故調運用ガイドライン」という書籍があり、この内容は歯科医も対象となっている。そして「Q&A医療事故調ガイドブック」という書籍の2冊で医療事故関連ガイドラインの全体像を把握できる。
患者安全のための世界同盟『有害事象の報告・学習システムのためのWHOドラフトガイドライン─情報分析から実のある行動へ』という書籍を日本語で刊行した。この内容は医療安全のために事例収集/分析/対応制度を取り上げ、①「学習」を目的とした報告制度、②「説明責任」*を目的とした報告制度の2点に焦点を当てた内容となっている。
*:Accountability
この2つの制度を一元化するのは難しく、成功する報告システムの特性として以下の7項目が挙げられている。①非懲罰性*、②秘匿性、③独立性、④専門家による分析、➄適時性、⑥システム指向性、➆反応性である。特に①と②を重要視している。
*:①の非懲罰性とは、報告者は、報告したために自分自身が報復されたり、他の人々が懲罰を受けたりすることを恐れなくてよい状況でなくてはならないということである。
わが国の医療事故調査制度に関する調査の流れについて
医療事故に係る調査の流れ(図1)としては、医療機関で死亡事故が発生したときに、まず遺族への説明後、医療事故であったのか否かの判断をする。もし、これが医療事故でない場合は、センター(民間)に報告する必要はない。報告は届出と異なり、刑罰の規定はないことを踏まえ、丁寧に考えて対応する。医療事故であった場合には、遺族に制度の説明後、センターへ報告を行う。医療事故の報告に関しては医療法施行規則 第1条の2に明記されている(図2)。

▲図1 医療事故に係る調査の流れ

▲図2 医療法施行規則 第1条の2

図内の3つの項目の内容いずれの内容に対しても対応の不備が認められない場合、報告の必要なしと判断される根拠となる。当事者が報告する前提で検討している場合、報告するタイミングに関しては考慮される。
報告書記載における非識別加工の重要性について
センターへ報告書を作成する際、当該医療従事者・遺族が報告書の内容に意見がある場合には、その旨を報告書に記載する。この制度の中で現場の医療従事者が意見を言える唯一の機会と言える。
 センターは、再発防止案を考えていく場合には各事案別に再発防止案を検討するのではなく、複数の事例を基に再発防止案を検討し、分析したうえで一般論として示していく方針である。
世界的には日本語で言う「医療安全」は「患者安全」と表現されることが多く、非識別加工を強調した内容となっている。報告は報告であって届出ではない。WHOドラフトガイドラインの内容を準拠する必要がある。パラダイムシフトができていない人は、いずれの内容においても相反する解釈を行う。
報告書において非識別加工は義務で記者会見は実施せず、遺族には口頭もしくは書面の適切な方法で説明を行う。必ずしも報告書を渡す義務はないが、遺族の求めに応じる前提となる。  医療事故調査は、現場の医療者の人権に配慮し、責任追及/紛争解決の手段化を回避する。「医療安全の確保」を目的として医療行為の評価はしない。医療死亡事故は、遺族対応を最優先とし、遺族と医療関係者の信頼関係を崩すべきではないと佐藤氏は締め括った。
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