第9回 美的感覚

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 突然ですが、“美しさ”ってなんでしょう?

 外見の美しさ、内面の美しさ、仕事の美しさ、景色の美しさ、いろいろありますよね。そして何を見て美しいと思うかは、その人次第。美的感覚、です。

 私が初めて“美しい”を意識しだしたのは、数年前のあるセミナーでした。受付の方が私に当日の資料を手渡す。何の不思議もない光景です。が、渡そうとした資料を、やはり受付にいらした別の女性が“あっ”と言って制止しました。そして“これはダメ。 ホッチキスの留め方が美しくない”と笑顔で言って別の資料を手渡して下さいました。冗談交じりの彼女の口調は周りの笑顔も誘い、手渡された資料の美しく留まったホチキスの針を見て心がほんわか温かくなったのを覚えています。

 ちょうどこの後読んだ本に、このホチキス針に似ている事柄が紹介されていました。一つ一つの仕事をきちんとこなすこと。会議で使用し、お客様の目に触れる大切な資料のホチキス一つ留められずに、何の仕事ならきちんとできるのか。と言う内容でした。

 この件を機に、“美しい”と言う言葉が妙に気になっていた矢先、さらに美しさ、を意識させられる機会が訪れます。医院に来て下さった歯科衛生士の方に、院内がごちゃごちゃしている。整理整頓が必要。とアドバイスを受けたのです。自分では気にならなかった診療室のちょっとした物の置き方や使い方。余分な物。をビシバシとご指摘いただき、我ながらO型の“まぁ良いか”精神が出てしまっていたことを反省。診療室の片付けに乗り出したのです。 するといつかは使うかも、何かに使えるかも、の精神の元、埃をかぶっている多くのモノを発掘しました。置きっぱなし、しまいっぱなし、の何と多かったことでしょう。気にしだすときりがないくらい、沢山のことが目に付いてきました。お口の中と同じですよね。歯垢がたまって、歯石もたまっていても、慣れてしまうと気づかない。もしくは、気づいていても、痛くないからまぁ良いか、で放置。だんだんそんな感覚になっていたのかも知れません。 そしてそれは患者さんのお口の中のプラークコントロールやちょっとした歯肉の変化、歯の変化、を見落とすことにつながるのかも、と大反省しました。散らかった部屋にいて平気な感覚で、口腔内だけはきれいに、なんて、無理ですよね。私たちはプロとして、患者さんの口腔内の些細な変化やシグナルを見極めなければいけませんよね。その為に必要な感覚は普段から養っていくものなのだな、と実感しました。

 と、思い時間を見つけては院内の整理整頓に勤しんでいたのですが・・・ここで終わりではありませんでした。大阪の3件の歯科医院を見学に行かせていただいたのですが、そこで私が見たものは、とても美しい診療室。時間。人の動き。医院の入り口、待合室、診療室内、等々がきれいなだけでなく、機能的に整理されたものの置き方、どこを開けてもきれいな引き出しの中。 美しい場、中にいる方々の姿勢、話し方、雰囲気。所詮私が行なっていたものは、自己満足だった、とさらに反省。ただしとても良いモチベーションになりました。現状を客観的に把握できたことで、モノ、空間、時間の使い方、動き方、等々沢山の無駄に気づくことが出来たのです。口腔内写真と一緒ですね。まずは現状を知っていただくこと。そこから行動変容がスタートです。 実際沢山の美しさ、に関する意識の変化があってから、患者さんの口腔内や診療室だけでなく、言葉遣いや立ち振る舞い、部屋や景色、食事や音楽、本や心、など、自分自身の価値観、美的感覚、が変化してきたような気がします。仕事も日常も美意識を変えることで自分に良い変化がありそうです。先日横浜で行なわれた日本国際歯科大会。 ここで伺ってきたかづきれいこさんのお話にも感動。オシャレなメイク、ではなく、自分をより美しく見せるメイク。さらには心を美しくして下さるエピソードの数々。感情を揺さぶられるお話は、素敵な映画を1本見終わった後のような充実感でした。メイクをして、本人のQOLを上げる。私たち歯科衛生士の仕事もそうですよね。その方がより良い毎日を送っていただけるように、お口を通して健康をサポートする。その方のQOLの向上に貢献する。その為に、美的感覚、も大事な要素なのだなぁ、と実感致しました。

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