歯科処置時抗菌薬予防投与の理論的背景について

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東海大学医学部付属八王子病院口腔外科 坂本 春生 氏
歯科処置に生じる菌血症により惹起される感染性心内膜炎発症を阻止するために抗菌薬の予防的投与を実施することの理論的背景を解説していきたいと坂本氏は語り始めた。
感染性心内膜炎の発症に対して抗菌薬を予防投与するポイントは起因菌の増殖阻止
わが国において感染性心内膜炎(IE)の起因菌は、レンサ球菌が多い。口腔レンサ球菌や口腔由来の常在菌であり、予防投与の対象は口腔由来のレンサ球菌である。
抗菌薬はIEの発症をどのように予防しているのか、動物実験とヒトのデータから検証すると、いくつかの作用点が考えられる。抜歯すると菌が血液中に入るのは確かで、そのときに抗菌薬を投与すると、菌血症の頻度が下がると言われている。
これにも菌血症自体は数分で消えてしまうため、実際に抗菌薬がどの程度作用しているのかは大きな議論はあるが、世界中で抗菌薬を投与後に抜歯をすると菌血症の頻度が低下するという血液培養の結果が主要な理論的な背景にある。
付着阻止は、疣腫のところに菌が到達するとマクロライドなどは、その菌の付着を抑えることから付着を阻止できているという動物実験のデータがある。これによってマクロライドで予防ケアができることになっている。
一般に、抗菌薬を予防投与したときにIEの発症を予防するポイントは、起因菌の増殖阻止にあるのではないかと考えられている(下図)。
▲図 感染症の発症ステップから見たIEの成立 予防投与された抗菌薬の作用点
抗菌薬の血中濃度保持は6~8時間にわたって必要
菌血症で菌が血液中に入ると疣腫に付着したところをじっくり殺菌するのが作用点ではないかと考えられている。動物実験のデータから解説していくと、特に問題化するのは、疣腫についた細菌が6~8時間後に再増殖を始める点である。
 したがって抗菌薬の予防投与は、実際には6~8時間後まで維持することが必要と考えられている。手術のときに抗菌薬を予防投与すると術後感染が防げるということと非常に混同がある。切開をしたときに常在菌が入って術中に汚染をするのを防ぐのがSSIの予防で、そのためには抗菌薬の高い血中濃度を手術のときだけ維持すればよいのが理論的背景である。このIEの予防に関しては、遠隔地の感染であることから6~8時間にわたってカバーしなければならないという制約がある。
AHAを始めとする各国のGLがIEに関して抗菌薬に望む性質はいくつかあるが、口腔レンサ球菌に有効であることは当然で、歯科医が投与する場合には単回で経口投与が良いという意見が出ている。
単回の経口投与で8時間までカバーする方法を問われたときに登場したのが、AMPCである。ペニシリンの安全性および入手が安定していることは周知のとおりである。
 IEの予防のターゲットはレンサ球菌であるが、現在ではAMPC2gの単回投与にAHAで推奨されている。
PK/PDの見地から投与直後だけではなく6~8時間後に一定量の血中濃度を保持するために使われている抗菌薬
1950年代はペニシリンGの筋肉注射を予防投与にしていたが、1990年以降、ペニシリンG3gの追加投与が行われ、90年代からAMPC2gの単回投与がAHAでは推奨されている。今回のGLでもAMPC2gの単回投与が推奨している。基本はAMPC2gが錠剤では8錠となるが、高齢者の患者さんが来院したときに8錠を飲ませるのは非常に辛いのが共通の見解である。
AMPCの2gを投与すると、約6~8時間で一定量の血中濃度が維持できる。AMPCの経口投与で2g、3g必要という根拠は、最初の血中濃度が確保と同時に疣腫についた菌を殺菌するために6~8時間後にも血中濃度を保持したい背景から出された数値である。 以上を踏まえると経口投与の単回ではなく、経口の複数回投与という流れがあるのではないかという見方ができる。実際に6時間後に再投与するようなレジメンを作れば2g飲ませなくても1gでも2回などの投与法もできる可能性はある。
しかし、国際標準のレジメンが2gで運用されているため、日本だけGLで新たな投与法に戻すことは、難しいと考えている。 今回、わが国ではこのようなGLを作成したが、経口単回投与でAMPC2gというのは良い選択であると坂本氏は締め括った。
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