感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン改定について

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東北医科薬科大学医学部地域医療学 大原 貴裕 氏
本GL作成において中心的にまとめにあたった大原氏は、感染性心内膜炎における予防的抗菌薬の投与に関する推奨の歴史的変遷・議論の経緯を踏まえ、予防的投与の意味や歯科医が患者さんに確認してほしい点などをわかりやすく解説した。
感染性心内膜炎の発症頻度について
患者さんには感染性心内膜炎(IE)を発症しやすい人・発症しにくい人がいる。発症しやすい人はさらに高度リスク、中等度リスクに分けられる。今回はIE発症リスクと抗菌薬予防投与について重点をおいてお話しする。
抗菌薬予防投与の推奨については、歴史的な変遷・経緯があった。それを受けて今回のガイドライン(GL)の中でどのように推奨しているのか、そして予防的投与の意味およびインパクトはどのようなものなのか、さらにそれを踏まえて中谷先生の表現による「死の谷」(関係者間の認識のずれ)を越えてGLに実効性を持たせるには何が必要なのか、私の考えを含めて解説させていただく。
欧米のデータでは、IE患者さんは人口10万人・年あたり、3.2~7.9人発症するといわれている。東京都の人口を1,000万人とすると場合、年間320人~790人発症し、医療機関で診療していることになる。
他の疾患を例に挙げると結核は、10万人・年あたり15.4人発症するとされ、IEよりもかなり多い。日本人の国民病である胃がんは103.6、急性心筋梗塞は104.4となり、IEはこれらに比べるとかなり少ない。忘れた頃に遭遇する疾患と言える。
このように稀な疾患ではあるが、依然として死亡率は高く、患者さんによっては1ヵ月以上の入院、手術も必要になるため、重要な疾患であることを知っていただきたい。
歯科医に知ってもらいたいIE高度リスクとなる3つの病態とは
一般にはIEは稀な疾患であるが、背景に心疾患がある場合には状況が異なる。代表的な心疾患である僧帽弁逆流症、大動脈弁狭窄症などでは、一般の人に比べると約10倍発症リスクが高くなる。さらに心臓の手術後で人工弁が体内に入っている人、一回IEを発症したことがある人でのIE発症率は非常に高い。成人したチアノーゼ性先天性心疾患の患者を診療する機会も増えているが、こうした疾患をもつ患者は一般の人に比べると約100倍近くのIE発症率とされており、IE高度リスク群としての注意が必要である。
成人におけるIE高リスクの背景疾患の中でも、極めて高い発症リスクを持ち、発症した場合には重症化しやすい群を高度リスク群として区別している。IEを発症した場合、手術・死亡に至る危険性の高いこれら高度群としては、人工弁置換術後、IE既往、チアノーゼ性先天性心疾患が挙げられる。以上の3つのIE高度リスクの病態に関しては歯科医にも知っておいていただきたい。小児または先天性心疾患患者においても成人と同様にこの3つの病態がIE高度リスクである。
一方、重要なこの3つのIE高度リスク病態は、非循環器専門医あるいは患者にとっても比較的認識しやすい病態ともいえ、啓蒙活動が特に効果的とも考えられる。
この3つの病態以外の、普通の人に比べれば発症リスクは高いが、発症しても必ずしも重篤とはならない疾患は中等度リスクとされる。心臓弁膜症、閉塞性肥大型心筋症などがあげられる。これらのリスクについても啓蒙が必要であるが、これらの疾患の診断のためには心エコーなどの専門的な評価が必要な場合が多く、非循環器専門医、患者が認識しづらいともいえる。
予防的抗菌薬の投与の推奨に関する歴史的変遷について
予防的抗菌薬の投与の推奨に関して歴史的に大きな変遷があった。AHAのGLを例として解説すると1950年代から抗菌薬の予防投与が推奨されていた。1997年では僧帽弁逸脱症に関しても予防投与すべきとなっていたが、2007年のAHAのGLでは、僧帽弁逸脱症でIEのリスクは極めて低く抗菌薬予防投与は適応とはならない、と大きく変更となった。
この背景には、歯科治療などで生じる菌血症よりも日常生活でランダムに発症する菌血症の方が頻度が高いという知見がある。歯磨きや物を噛んだりするだけでも簡単に菌血症が生じうる。
従来は高度リスク、中等度リスクのいずれに対しても抗菌薬の予防投与が推奨されてきた。2007年AHAのGLでは高度リスクに関しては予防的投与を推奨しているが、中等度リスクに関しては推奨しなくなった。さらに2008年の英国のGLでは、高度リスク群に関してもルーチンには抗菌薬の使用を推奨しない。英国を除くヨーロッパのGLでは米国と同様に中等度リスクにおいて推奨せず、高度リスクにおいてのみ推奨している。この世界の流れのなか、日本では前回のGL(2008年)では高度リスク群、中等度リスク群のいずれにおいても予防的抗菌薬の推奨を継続した。
今回の推奨決定にあたっては、欧米でのGL変更後のIEの発症率の変化についての報告を踏まえて推奨を決定した。欧米において高度リスク群だけに投与を行う推奨となった前後では、IEが増えたとする報告と減ったとするものがあった。これらの報告ではガイドラインがどの程度遵守されたかが不明であり、結果の解釈は簡単ではない。一方、英国において高度リスク群・中等度リスク群共に予防的抗菌薬投与を推奨しないというGLの変更後、予防的抗菌薬投与量の激減と、統計学的に有意なIE発症率の増加が高度リスク群、中等度以下のリスク群共に認められた。
 以上の結果を踏まえて2017年改訂のわが国でのGLでは、成人および小児・先天性心疾患いずれにおいても、高度リスク群、中等度リスク群の両方で予防的抗菌薬を推奨することとした。
歯科医から患者さんに確認していただきたいこと
IEリスクのある患者さんへの教育は重要である。観血的な処置の前にIEの高リスクであると診断を受けていることを患者さんから積極的に歯科医にも伝えるよう指導すべきである。さらに歯科定期受診への啓蒙や発熱時の対応についても指導すべきである。
歯科の先生方は循環器疾患について心エコーなどの専門的な診察を実施するわけではないが、単純な問診で心臓の病気の有無を患者に確認して欲しい。特に、心臓の手術経験の有無やIE罹患歴を確認することは、高度リスクの患者を簡単に抽出する方法である(図)。
▲図 E高リスク患者をどうやって見分けるか?

また、歯科の先生方にも唇の色や指先が青くなっていないか気を付けていただくことで、高度リスクのチアノーゼ性先天性心疾患患者の抽出につながるだろう(図)。
 このGLに実効性をもたせるために、GLの周知、患者教育、歯科治療現場での簡単なスクリーニングが強く望まれる、と大原氏は締め括った。
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