感染性心内膜炎ガイドライン作成班班長として歯科医・口腔外科医に期待すること

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大阪大学大学院医学系研究科 中谷 敏 氏
2018年3月に日本循環器学会と関連9学会の合同研究班から『感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン2017』が発表された。9年ぶりの改訂である。今回の改定に関しては、ガイドラインの改定過程の中に歯科医を組み込んだ背景とともに歯科に関する事項が多く含まれている。班長を大阪大学 中谷氏が務め、歯科関連の班員として大阪大学 仲野氏、協力員として東海大学 坂本氏、大阪大学 野村氏が関わった。ガイドラインの策定にかかわったメンバーが講演を行った。
CADREの結果からみたIE罹患のきっかけは、歯科関連が約25%を占めている
感染性心内膜炎(IE)に関しては、歯科疾患の関与が少なからず存在するが、諸外国のガイドライン(GL)をみても、循環器医が主体となって作成しているGLに歯科医が参加することはほとんどない。このような意味でも世界に誇れるGLができたと自負している。
2003年に初めて日本循環器学会のIEガイドラインを作成した時、私たちは、全国的なアンケート調査を実施し、その結果をガイドラインに取り入れた。2008年のガイドライン改訂版作成時には、再び行った全国調査(CADRE、Cardiac Disease Registration)の結果を反映させた。今回は前回から9年ぶりに全面改訂を行う中で初めて大阪大学 仲野氏を中心に歯科医師にアンケートを実施し、その結果を盛り込んでいる。本日は、全国からIE 513例のデータを集積したCADREのデータを基にIEと歯科の関連について発表する。
年齢分布では40代~80代の発症が多く、男性の方が女性よりも多い。基礎心疾患として最も多いのは弁膜症で、半数が僧帽弁閉鎖不全症、四分の一が大動脈弁閉鎖不全症。
IEに罹患するきっかけとして、「きっかけあり」と回答した例が62.8%。「きっかけがない」と回答したのは16.6%。「わからない」が20.7%であった。さらに何か原因があってIEに罹患した例は全体の約6割であり、その中で最も多いのが歯科関連で全体の25%を占めていた。これは原因がわかっている例の約三分の一にあたり、歯科関連のIEがいかに多いかがわかる(表)。
▲表 IE発症のきっかけと考えられる病態
血液培養の結果、原因菌の約3割をViridans Streptococciが占めるため、歯科関連のIE予防の利点が大きい。
血液培養の成績は、Viridans Streptococciが約3割を占める。一方、MRSAは7.5%で少ない。歯科関連の微生物の占める割合が多いことを示している。
IEの原因疾患の大半が弁膜症、特に僧帽弁閉鎖不全症になり、素因が明らかなIEは約6割。このうちの三分の一以上が歯科関連でIE全体の四分の一に相当する。原因の三分の一がViridans Streptococciということを踏まえて、歯科関連のIEを予防できれば利点が大きいのではないかと考えられた。CADREでは、IE発症前に歯科治療を受けたか、という項目も聞いているが、齲歯・歯周病が40例、抜歯が12例であった。
歯科治療前の抗菌薬の使用に関して確認したところ、有りが21%、その内訳は「内服」が8割、「静注」が17%。投与のタイミングは、「処置前」が33%、「処置中」が17%、「処置後」が50%。
僧帽弁閉鎖不全症が原因疾患として最も大きな比率を占めているが、その中で比較的ポピュラーな病気として僧帽弁逸脱症がある。今回の調査で登録された僧帽弁逸脱症41例の中で齲歯・歯周炎に罹患していたのが15例、歯科治療歴あり11例で、歯科治療前の抗菌薬投与有り2例、投与なし8例という結果であった。抗菌薬投与タイミングは処置前投与1例、処置後投与1例で、nが少ないため予防的投与の有効性については言及しにくいが、少なくともこの41例では、ほとんどの例でGLを遵守した投与が行われていなかったと言える。
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