第63回公益社団法人日本口腔外科学会総会・学術大会 招聘講演レポート

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2018年11月2日(金)~4日(日)の3日間、第63回公益社団法人日本口腔外科学会総会・学術大会が幕張メッセ 国際会議場・国際展示場で開催された。本大会のテーマは『革新への挑戦 ─予防、制御、そして未来へ─』を設定し、参加者数は4886名、昨年の参加者数を上回る盛況ぶりであった。

今回は、幅広いテーマの中から特に下記の講演内容に注目し、第一弾として報告する。
もし私が口腔外科患者の周術期栄養管理をまかされたなら
座長:がん・感染症センター都立駒込病院歯科口腔外科 山内 智博 氏
座長:私立歯科大学附属病院看護部長会(奥羽大学歯学部附属病院) 長谷川 淳子 氏
大阪大学国際医工情報センター栄養ディバイス未来医工学共同研究部門 井上 善文 氏
現在の日本の栄養管理の領域は、「食べる」ことができる患者さんの栄養管理ばかりに流れる傾向があるが、食べられない患者さんの栄養管理をどうするかが、医療における「栄養」として非常に重要である。栄養管理に関わる医療従事者が、どのような栄養管理を実施すべきなのか。井上氏は消化器外科医として、Medical Nutritionist(医学的栄養管理の専門家)の立場から実践すべき具体的な栄養管理の方法を語った。
従来、「営養」と当時の教科書や政府の刊行物で表記されていたが、1918年に「栄養」という漢字が使われ始め、2018年は「栄養」という漢字を使用し始めて100年を迎えた。
胃瘻を用いた経腸栄養によって家庭生活へ復帰させた79歳男性の経口摂取不能高度栄養障害症例(下咽頭癌治療後)では、末梢点滴⇒PNN⇒TPN⇒手術(胃瘻造設術)⇒在宅経腸栄養の過程を経た。
末梢点滴では、近年、針刺し防止安心機構付カテーテル(Safety IV Catheter)が使われてるようになっている。Active type(収納型)・Passive type(自己鈍化型)の2種類があることを紹介しておく。
もう一つ、点滴で気を付けて欲しいのは静脈穿刺(採血、カテーテル挿入)」に伴う神経麻痺である。手技に伴う合併症として注目され、複合性局所疼痛症候群(Complex Regional Pain Syndrome:CRPS*)を起こし、医療事故として訴訟事例も増加傾向にある。注射・採血の際、正確な部位を理解した上で刺さないとCRPSに至ってしまうことがあるので注意すべきである。
低張電解質輸液の分類(1号液~4号液)は日本独自のものである。開始液(1号液)・脱水補給液(2号液)・維持液(3号液)・術後回復液(4号液)に分けられる。1号輸液は、カリウム(K)を含んでいないことが重要で、血清K濃度がわかっていない場合は1号液から開始する。Kが高いときに3号液を使った場合、心臓停止などの可能性を想定しておく必要がある。
例えば低張電解質輸液剤3本のエネルギー量はグルコース単独で258kcal(たんぱく質0g)である。ふりかけをかけた白米一膳は、たん白質260 kcal(たんぱく質4.9g)に相当するが、たんぱく質は含まれていない。低張電解質輸液1500mLだけで1週間も管理することは、栄養障害に陥らせていることになる。この理解が重要である。
また、重要なのは、不可避窒素損失(ONL:obligatory nitrogen loss)である。アミノ酸(たんぱく質)が投与されていなくても、便や尿に窒素が排泄される。尿・大便・皮膚・その他を合計すると54mg/kg/日の窒素が日々失われる。1週間、電解質輸液だけで管理した場合、約600gの筋肉を失う計算となり、この筋肉を回復させるには、何倍もの時間を要する。
著しく栄養障害に陥っている患者さんに輸液を開始する際、グルコースと共に必ずビタミンB1を投与しなければならない。また、refeeding syndromeの予防対策として、リンを投与する必要がある。PPN用輸液には、維持輸液としてのNa、K、Clなどに加え、Pも含まれている。
PPN製剤の使用に関しては感染対策が不可欠。PPN製剤は汚染すると微生物の増殖速度が速い。特にセラチア、バシラス、カンジダには注意が必要である。また、末梢静脈カテーテルは96時間以上留置しないこと、厳重な感染対策を講じながら使用していくことがPPNを実施する場合には求められる。
高カロリー輸液のキット製剤として、糖・電解質・アミノ酸・ビタミン・微量元素が配合された製品が広く用いられている。医療従事者はこれらのキット製剤の組成を理解した上で使用するべきである。
実際に静脈栄養を深く理解していないNSTが多いのは問題である。栄養管理の本を一冊、きちんと読んだことがない人たちが栄養管理に従事しているのが現状である。

(図1)演者の著書 『栄養管理のエキスパートになる本』
演者が三大栄養素の燃焼効率の理解度について調べたところ、MRでは90.1%で理解していたが、栄養士91.1%、医師46.6%、薬剤師62.5%、看護師25.5%という理解度を示したデータもあり、栄養管理に関わる医療従事者全般に向けてお勧めしたい。
経腸栄養の実施経路は、経鼻カテーテル、経皮経食道胃管挿入術(PTEG)、胃瘻(PEG)、空腸瘻、PEG-J、など、複数ある。経鼻胃カテーテルは患者にとって苦痛となることが多いので特に長期となる場合には、胃瘻、空腸瘻も積極的に取り入れていくべきである。胃瘻の瘻孔はカテーテルを抜去すれば1日で閉じる。また、もっと静脈栄養をうまく使うこと、胃瘻を用いた経腸栄養を実施することなど、患者さんに苦痛を与えることなく適正な栄養管理を実施することができることをもっと理解しなければならない。
栄養管理技術は、ほぼ確立している。しかし、高い管理技術を有する医療機関や医師は非常に少なく、栄養管理全般に精通した医師は限られている。日本全体で栄養管理に対する認識が低下し、食べることや飲むことに注目が集まり過ぎていると思っている。静脈栄養と経腸栄養を駆使した栄養管理が実施できて初めて「栄養管理を実施している」ということができる。栄養管理に関する教育・啓発活動、栄養管理は医療の基本であるという認識が必要、ということを医療関係者へのメッセージとして話を締め括った。
*CRPS:慢性的な痛みと浮腫、皮膚温の異常、発症異常などの症状を伴い、ときに重度の運動障害をきたすこともある難治性の慢性疼痛症候群。治療に難渋するケースが多い。
演者が代表理事として関わっている栄養管理指導者協議会:リーダーズは、第8回学術集会を愛媛県松山市で2018年11月25日に開催する。Medical Nutritionistといえる静脈栄養、経腸栄養を駆使した栄養管理が実施できる医療従事者の存在が必要という考え方から発足した協議会である。本学術集会に参加すると、Medical Nutritionistの資格を得ることができる。
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