第98回:歯科のかかわりが疑われる医原性疾患

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懇意にしている歯科医のA先生から、「口腔内の金パラの修復物を除去すると、頭痛、関節痛、湿疹などが治る患者がいる」という話をきいた。2005年からこれまで、内科医が口腔内金属の影響を疑って紹介してきた約350人の患者の治療にあたってきた経験であるという。この種の話はこれまでにも断片的に耳にしてきたことであるが、これほど多くの症例を扱っていたとは驚きであった。このような貴重なデータを公表せずに眠らせておくのは非常に惜しいと思い、情報の提供をお願いしたところ、各患者についての簡単なメモと予後の取れている242人の患者の経過のまとめをご提供くださった。その一部を以下に紹介するが、まずは貴重な情報をご提供くださったA先生に感謝申し上げたい。 患者に対する処置は、保険仕様のパラジウム合金のクラウン、インレー、メタルボンド、メタルコア等およびアマルガム修復物を除去し、20k金合金、コンポジットレジン、ハイブリッドレジン、オールセラミックで再修復した。そうした処置による症状の時間的変化は、除去直後から消失、徐々に消失、かなり経過してから消失、消失しないなど様々であり、また症状の改善状況も症状により様々である。金属修復物除去前の重症度を10としたとき、処置後にそれが0~1、2~3、5~7になった場合をそれぞれ著効、有効、やや有効として、症例数10以上の症状についてまとめると図のようになった。著効と有効を効果ありとみなした場合の有効率をみると、全症例の平均は75%である。それと同等以上の有効率を示すのは、関節炎痛100%、疲れやすい91%、頭痛87%、皮膚病、肩こり、リウマチの75%であり、これら症状の改善にはかなりの効果があると考えられる。これら図に示した症状以外にも、少数例ではあるが効果があったとみなせる多くの症状がある。以下に(著効+有効)/症例数として示す。高血圧6/8、やる気が出ない7/7、腫瘍3/6、不安5/5、不整脈3/4、耳鳴り2/4、生理痛3/3、イライラ2/3、冷え症1/3、2/2として気管支炎、行動不安定、喘息、生理不順、便秘、不眠、胸焼け、1/2として顔面神経麻痺、味覚障害、1/1として下痢、胃炎、逆流性食道炎、過呼吸、角膜膿瘍、歯周病、体調不良、脳腫瘍、膀胱炎、鼻血、鼻炎、めまい、無呼吸、緑内障。

photo各種身体症状に対する金属修復物の除去効果

患者の年齢の詳しい情報はないが、10~81歳であるという。患者の約80%が女性、50~60代の女性が一番多い。頭痛は男女共に年齢的に幅広くあり、リウマチ、関節炎痛は50~60代の女性、うつ病は概ね20~30代の女性という傾向があるという。 以上紹介したような金属修復物の除去により、身体症状が改善されるというまとまった報告はほとんどない。日本歯科理工学会誌29巻6号(2009)の「アレルギーを考える」という特集の中に“歯科材料アレルギーの対応と今後”と題する解説があり、それに金属材料除去処置の効果についての記載がある。それによれば、除去処置の効果はすぐに現われないことが多く、また除去してもアレルギー症状が改善しないこともあるという。除去処置した患者に対する調査によると、除去終了2か月後では半数以上に変化がなく、再修復処置開始から2年経過後に約60%に症状の改善がみられたという紹介がある。それによると、除去2か月後の成績は治癒3%/改善12/やや改善25/変化なし53/不明7%であり、修復2年後の成績は治癒12%/ほぼ治癒11/改善36/やや改善4/変化なし17/不明20%となっている。いずれにしても、有効率は別にしても除去処置によりアレルギー症状(この場合のアレルギーは皮膚疾患のことを指していると思われる)が改善される患者がいることは確かである。さらに、A先生のみならず、筆者のよく知った先生の中にも金属除去処置の効果を臨床的に確認している歯科医がいるのも事実である。 ここで紹介したような症状は、他の原因でも起こり得るものであり、しばしば言われる“証拠に基づく医療、歯科医療”(EBM、EBD)を信奉すると、金属除去処置の効果を科学的に示すことを求められるであろう。しかし、そのようなことを気にしていたら、患者は救われないのである。有害金属除去処置により症状が悪化することがなければ(皮膚疾患の場合、初回の金属除去後に一過性に症状が悪化する場合があるが、その方がその後の治癒が早まる傾向がある。一過性の悪化現象は上で紹介した理工学会誌にも記されている)、患者が希望し、納得すれば試みる価値は十分あると思っている。その効果について、本当の除去効果ではなく、心理的効果であるという人もいるかもしれない。しかし、たとえそうであれ、症状が改善され患者が喜んでいればそれで十分であると筆者は考える。これは、病気に対する投薬における偽薬効果は、副作用等の心配もなく、治療費も安く,最高の治療だと筆者が思っていることに通じている。 歯科医が患者の口腔内に金パラやアマルガムの修復物をみつけたら、「頭痛、湿疹、肩こり、腰痛、体調不良などはありませんか?」とひと言たずね、該当するような症状があれば、「もしかするとそれは以前の歯の治療で入れた金属のせいかもしれません。それを取ることで治る人もいます」くらいの説明をしてほしいと思う。内科的治療を受けているようであればその担当医とも連携し、希望する患者には十分説明のうえ有害金属除去処置をする。そうすることは、歯科治療由来の医原性疾患というのが適当と思われる身体の不具合に対し、それからの解放を支援することは歯科医に期待される責務であるように思われる。これは医科医師にはできないことであり、歯科医主導で行うべき行為である。そうした歯科医の努力は、それまで内科的治療等で不必要に支出されてきた医療費および患者の苦痛からの解放や薬による副作用の削減にも役立ち、国民医療への貢献、歯科医のステータスの向上につながるであろう。 以上のように、内科医とA先生の連携により、慢性的な身体の不調や苦痛から救われた幸運な患者がいたのである。A先生のメモからごく一部を紹介してコラムを閉じることにしよう。
  • 10歳から頭痛。大学病院の頭痛外来や鍼、灸などいろいろ通ったがだめだった。初めに金属を外してからは4ヶ月間一度も頭痛が起きていない。
  • 頭痛:20年以上前からの頭痛がほとんど起きなくなった。
  • 湿疹(手足):治療中一時期悪化したが、1年以内にほぼ治っていた。
  • 15年ほど前からの湿疹(手、全身)が2ヶ月後にはほぼきれいになった。
  • 25年間悩んでいた全身の湿疹(体液がパジャマなどにくっついて痛い)が無くなった。
  • 1日目にアマルガム2本除去。翌日より顔に強いアトピー反応が出て、1週間会社を休んだ。3週間後2回目の治療をした後はもう出なくなった。金属除去後、顔のアトピーはすごくきれいになり、本人大喜び。
  • リウマチ:半年後には初め10だった痛みが3程度になり、手指の関節も自由に動かせる。2年後にはほとんどよくなった。
  • 25年ほど前から膝痛でいろいろ通院したが治らなかった。不適合金属を除去したら、痛みが無くなり、普通に歩けるようになった。
  • 生理不順:半年後には痛みはほとんどなくなり、約2年後には"そんなことあったっけ"という感じ。

そして、メモ紹介の締めくくり:「初診時には半信半疑でとても態度が悪かったが、金属を除去して頭痛が治ると態度がコロッと変わった」。筆者もA先生の話をはじめに聞いたとき、“半信半疑”でなかったと言えばウソになろう。だが今は納得している。

(2014年4月5日)

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