第96回:知覚過敏抑制材料

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象牙質知覚過敏(Dentin Hypersensitivity、以下DHと略)は、露出あるいは開口した象牙質に加えられた刺激によって象牙細管内組織液が動き、神経を刺激するためという"動水力学説"でおもに説明されている。それに基づき、①細管口を結晶物やレジン系材料あるいは結晶物と被膜でふさぐ、②神経を鈍麻させる、③組織液を凝固させるなどの方法が考えられ、それらに相当する製品も様々市販されている。ただ、DH治療ではプラシーボ効果が現われやすく、DH抑制材の評価はかなり難しい現状にある。ティースメイト ディセンシタイザーに至る各種の製品があり、それらを大まかに分類すると次のようになる。

  • バニシュ系:バーナル、Fバニシュ、ビバセンス
  • 無機材料系:サホライド、スマートプロテクト ソフト、ウルトライーズ、ナノシール、ティースメイト ディセンシタイザー
  • 有機材料系:スーパーシール5秒(シュウ酸カリウム)、MSコート ONE/F(ポリマー/シュウ酸)、グルーマ ディセンシタイザー/パワーゲル、デセンシー(グルタルアルデヒド-HEMA系)
  • ボンディング材系:ハイブリッドコート、シールドフォース プラス、G-ガード、PRGバリアコート (いずれもセルフエッチング、光照射型)
  • レジン添加型グラスアイオノマー系:クリンプロXTバーニッシュ

このように多種類の製品があるが、それらの比較評価はあまり行われておらず、どれを選択するか難しいところがある。最近の日歯保存誌2013年 56巻6号に上記のうちの6種類について、抑制材処理直後、24時間、1週間水中あるいは人工唾液中に浸漬後、象牙質ディスクの液体透過性(象牙細管からの漏洩度)測定およびSEM観察により比較した論文が掲載されているので先ず紹介する。試験材料はグルーマ ディセンシタイザー(GL)、スーパーシール(SS)、MSコートワン(MS)、ナノシール(NS)、ティースメイト ディセンシタイザー(TD)、シールドフォース プラス(SF)である。象牙質処理直後の透過性抑制率は、SS、GL(約40%)<MS、NS<TD<SF(約90%)の順となった。SEM観察の結果は、いずれの場合も象牙細管はかなりよく封鎖されていたが、開口している個所も認められ、その程度は透過性のデータとほぼ対応していた。人工唾液浸漬による透過性の変化を直後~1週間でくらべると、GL、SFでは増加、そのほかのものでは低下した。その低下の程度はSS<NS<MS、TDとなったが、これらの低下は人工唾液に由来するリン酸カルシウム系析出物生成の影響と考えられる。なお、水中浸漬では6種の材料とも透過性は増加した。

これら材料の臨床成績の報告はほとんどないが、この報告にもとづき、DH抑制効果についての筆者のコメントを記すとおよそ次のようになる。GL、SSは、処理直後のSEMおよび透過性の大きさ、人工唾液浸漬による透過性の増加あるいは低下が小さいことから、即効性および長期的にも効果は期待しにくそう。 MS、NSは、ほぼ似たような効果を示すと思われるが、即効性にはやや欠け、長期的効果はある程度期待できそう。TDは、即効性および長期的効果がかなり期待できそう。ここで長期的効果は人工唾液浸漬による透過性の低下の程度に基づいてのことであるが、口腔内では酸性飲食物の摂取により効果は薄れる可能性があり、DH再発の懸念はある。SFは、処理直後のSEMおよび透過性の低さから即効性が期待できるが、人工唾液中での透過性の経時的増加傾向からすると長期的効果には若干懸念が残る。6種の材料がDHに効く原理はいずれも象牙細管の封鎖であるが、SFではレジン系被膜で緊密にコートして封鎖するのに比べ、そのほかの5種の材料では有機物あるいは微細な無機物粒子で細管を塞ぐ方法であり、当然SFの封鎖性の方がすぐれ、臨床成績も良好なことが期待できそうである。しかし、残念ながらその詳しい臨床評価は今後に待つほかない。

そこで、別のレジン系材料について、最近の論文から無作為化臨床試験の結果を少し詳しく紹介する。それは、歯磨剤2種およびレジン系材料1種の効果を比較したものである(J Dent 2013年41巻8号)。コルゲートの普通の歯磨剤Cavity Protection Regular[0.76%モノフルオロリン酸塩(0.15%フッ素)含有]を対照群、コルゲートのDHとう蝕の予防・治療用歯磨剤Sensitive Fresh Stripe[有効成分として5.53%クエン酸カリウムおよび1.14%モノフルオロリン酸塩(フッ素0.15%)]、およびデンツプライのDH治療用シーラントSeal and Protectを試験群とし、18~75歳の被験者を各群25名に分け、2週、3月、6月でDHの評価、比較を行った。DHの評価は、シリンジでエアーをあて被験者の視覚的評価スケール(VAS、Visual Analog Scale;100 mmの直線の左端を痛みはない、右端を想像できる最高の痛みとして、被験者に線上に印しをつけてもらい、左端からの距離を測る)での回答から行った。その結果、開始時、2週、3月、6月でのVASスコアの平均値(カッコ内は範囲)はそれぞれ、対照歯磨剤群56(40-82)、49(25-80)、50(29-83)、48(29-75)、試験歯磨剤群56(40-82)、41(9-72)、31(6-52)、29(5-50)、シーラント群61(40-81)、12(0-58)、10(0-37)、8(0-25)であった。対照群にくらべ試験2群は有意にDHが低下した。とくにシーラント群では顕著に低下し、またその効果は2週~6月間持続した。以上のことから次のようなことがいえるであろう。①普通のフッ化物添加の歯磨剤では効果はない、②カリウム(プラスフッ化物添加?)添加の歯磨剤はある程度効果はあるものの、スコアが0になった人はおらず、また3月と6月で変化がないことから長期使用しても必ずしも効果は期待できそうもなく効果は限定的、③シーラントは2週~6月でスコア12~8と顕著に低く、またスコア0の人がおり、即効的で効果も長持ちする。このシーラントについて調べてみると、成分はリン酸系モノマー、多官能メタクリレート、シリカ、セチルアミンフッ化水素酸塩、光重合開始剤、アセトンなどである。このシーラントとSFの成分を比べてみると、SFには親水性のHEMAが添加されており、これが長期の臨床成績に影響する可能性もあるが、両者ともほぼ似たような成績になると思われる。

もう一つレジン系材料の優位性を示唆するものとして、Quint Int 2013年44巻7号掲載の最近のシステマティックレビューがある。このレビューによると、観察期間3~6月で満足すべき成績を示したのはCervitec Plus(バニッシュタイプ、チモール、クロルヘキシジンを含む酢酸ビニルコポリマーとアクリレートコポリマーのエタノール/水溶液)、SE Bond & Protect Liner F(SEBPLF)、レーザーであったという。クリアフィルSEBPLFは、リン酸系モノマーMDP、 HEMA、 BisGMAなどを含むプライマー、ボンディング材およびフッ化メタクリル酸コポリマー、Bis-GMA、 TEGDMAなど含有のライナーからなっている。これを取り上げたもとの2004年の論文を見ると、Single Bond(SB)(成分:HEMA、 BisGMA、グラスアイオノマー系ポリマー、エタノール、水など)やグルーマ(GL)も比較されている。VASの推移をみると、開始時はいずれの群も5.2、処理直後、10日、3月後の値はそれぞれ、SEBPLF1.4、1.8、2.2;SB1.7、3.1、3.5;GL2.3、2.9、3.8であった。これからすると、SEBPLFは即効的、長期的にも効果がありそうなことを示している。それにくらべ、レジン系ボンディング材ではあるがSBの効果は落ちており、レジン系であればよいというものではなく、適切なものを選択する必要のあることを示唆している。 GLはSBよりやや劣る結果となっている。

終りに、海外のDH抑制材について一言触れておこう。フッ化物添加バニシュ、カリウム塩、シュウ酸、グルーマなどが主流として使用されているが、最近はDH抑制効果を謳った歯磨剤が注目されているようである。長い歴史のある硝酸カリウム、フッ化スズなど添加の商品に加え、8%アルギニン、炭酸カルシウムからなるPro-Argin®を含む歯磨剤(アミノ酸であるアルギニンと炭酸カルシウムとの反応物が象牙細管をふさぐとされている)、リン酸カルシウムナトリウムシリケートからなるバイオガラス(NovaMin®)を含む商品(口腔内でカルシウム、ナトリウム、リン酸イオンを放出して炭酸ハイドロキシアパタイトを生成し、これが象牙細管をふさぐとされている)がある。さらに、従来からある5%硝酸カリウムと0.15%フッ素を含む歯磨剤に沸点28℃のイソペンタンを添加し、その口腔内での気化を利用してジェルを細かい泡に変えて、DH抑制効果を高めたとする商品(従来のチューブからの押し出しから、ノズルからの吐出に変わっている)も現れている。これら新商品の臨床的なDH抑制効果については定かではなく、検証中というところであるらしい。

DH抑制材料で決定的なものはない。それは口腔内環境は様々であることからやむを得ない面がある。DHは再発を繰り返しやすい傾向があるが、頻繁に通院するのは患者にとって負担であろう。この意味では海外で歯磨剤に焦点を当てているのは当を得たことと思われる。我が国は、う蝕予防のフッ化物添加の歯磨剤の導入に際し、世界から大きく後れを取った歯磨剤後進国であるが、DH 抑制歯磨剤についてはもう少し前向きに検討すべきではないかと思う。

(2014年2月7日)

追記: 3年ほど前に記した第61回コラムの内容は現在でもかなり参考になると思う。また、その際記したA&B液処理は、今回見た様々な処理表面のSEMにくらべても、よく象牙細管が封鎖されていることが確認できた。

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