第86回:英国版歯科疾患実態調査と歯周診査のありかた

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我が国の歯科疾患実態調査は、1957年より6年ごとに実施され、最新のものは2011年11月実施の第10回の調査であり、被調査者数4,253人(15歳以上3,718人)の結果は昨年秋公表された。その一部については半年ほど前の第80回コラムで紹介した。英国でも成人の歯科保健調査(Adult Dental Health Survey, ADHS)として、同様な調査が1968年から10年ごとに行われている。スコットランドを除く、イングランド、ウェールズ、北アイルランドで2009〜2010年に実施された6,469人(16歳以上、1歯以上ある人)の調査が第5回の2009年版としてまとめられ、2012年3月にThe Health and Social Care Information Centreから公表された。その概要はBrit Dent Jの2012年213巻10号〜2013年214巻2号に4回にわたり掲載されたが、詳細は次のURLで閲覧できる: http://www.hscic.gov.uk/article/2021/Website-Search?productid=328&q=adult+dental+health+survey。その内容の主要部分は、各章19〜26頁からなる8章と付記されている138頁の実施方法の詳細である。 ADHSの内容は、歯科疾患の実態から患者の動向、保健政策にかかわることなど、多岐にわたっているが、ここでは、80回コラムで高齢者の歯肉の状況が2011年はその6年前にくらべかなり悪化していることを一言触れたが、そのことが何となく気にかかっており、それにかかわることを記す。 ADHSの内容に触れる前に紹介しておきたい論文がある。この論文を先に読んでいたため、ADHSでも歯周診査のことにとくに関心があった。JADA2013年144巻2号に"プロービング深さ(Probing Depth、以下PD)変化は歯肉の付着喪失(Clinical Attachment Loss、以下CAL)変化の信頼できる予測因子たり得るか?"という論文である。平均年齢47.8±10.5歳の被験者363名(その47%がPD5mm以上、67%がCAL3mm以上)の314歯に何らかの非外科的治療をしたのち、 3か月ごとに12か月間各歯6部位でPDとCALを計測、総計27,718部位を解析した。その結果、治療後のPDとCALの変化の関係は歯の種類・部位および治療開始時の疾患の重症度によることがわかった。もっともよい相関性が認められたのはPD7 mm以上の深い場合であり、PDが浅い〜中程度の深さの場合には必ずしも相関性はよくなかった。PDとCALの変化は治療開始時PDが深い部位では両者の変化が最もよく一致したが、その場合でもCALの変化の約1/4はPDの変化と対応しなかった。病変が進んでいる部位では、治療開始時PDが中以上の深さの半分以上の部位でCALでの増加はPDの増加とは結びつかなかった。PDのモニターのみでは、26-82%の部位でCALでの何らかの変化、53-76%の部位でCALの増加を見つけられなかった。結論的にいえば、患者の歯周状態の変化は、PDのみの診査からでは知ることはできず、CALの変化を見落とす。とくに、治療開始時のPDが浅い〜中程度の深さの部位でその可能性がある。CALの計算のもとなるセメントエナメル境からの歯肉辺縁の位置をモニターするようにすべきである。 というわけで、歯周診査でPDのみの計測に依存すると歯周状態の把握に誤りをきたすおそれがあることになるが、我が国の歯科疾患実態調査での歯周状況診査は、プロービング後の出血、歯石の沈着、PD(ポケット深さという用語になっている)計測である。一方英国では、出血、歯石、PD計測のほかに、55歳以上ではLOAも計測しており、JADAの論文の線に沿っている。 日英のデータを比較してみよう。 PDが我が国の場合4mm以上の人の割合、英国の場合4および6mm以上の有歯顎者の割合と年齢の関係を図1、2に示す。我が国の場合、割合は年齢とともに65歳くらいまではほぼ直線的に増加し、75歳あたりでピークとなり、さらに高齢になると低下傾向となっている。一方英国の場合、65歳くらいまではほぼ直線的増加する傾向は日本と同じである。しかし、それより高齢側では横ばい状態となって日本とは異なる傾向となっており、低下傾向はPD4mm以上の場合にのみ85歳以上で現われている。 図1クリックで拡大 図2クリックで拡大 もう少し詳しく両国でのPD4mm以上者の割合を比較すると次のようになる。英国の場合、35〜44、45〜54、55〜64、65〜74、75〜84、85歳以上でそれぞれ43、52、61、60、61、47%、それら年齢層に対応する日本の数字はそれぞれ23〜26、30〜35、46〜47、51〜43、49〜43、37%であり、日本は各年齢層とも低率となっている。ただし、英国は有歯顎者のみ、日本は無歯顎者も含めて割合を計算しており、日本の方が全体的に低率となる。PDから見るかぎり、両国とも45歳を節目に55歳以上で歯周状態が一段と不良化する傾向は同じである。この英国での傾向は、歯石や出血もなく総合的に健康な歯周組織を有するとされた人の割合(35〜44歳、45〜54歳、55歳以上でそれぞれ20、14、8〜10%)とも一致している。ADHSでは被調査者の通院状況の調査もしているが、歯周の健康状態は、定期的あるいは時々通院・健診を受ける人は、具合が悪くなった場合のみあるいはまったく通院しない人にくらべ状態がよいという指摘もあり、定期的健診の重要性が示唆されている。 図3クリックで拡大 以上はPDの観点からのことであるが、LOAからみるとかなり様子が異なってくることを図3が示している。64歳以下ではPDとLOAでの割合はほぼ一致している。ところがそれより高齢側では両数字のずれが急激に拡大し、それは加齢するほど顕著になっている。この現象は、歯周状態の把握にPDを計測しても、高齢者ではあまり役立たないことを示唆しているように思われる。我が国の高齢者側の場合、PDではその割合はかなり減少しているが、LOAを計測すればその割合はかなりの増加を示すことになろう。 加齢につれてLOAが増加するのは当然であり、英国の調査では55歳以上でPDとともにLOAも計測しているのは有意義なことである。我が国でも、8020との絡みでいえば、歯の喪失原因のトップは歯周疾患であることからも、LOAも重要な指標として追加するのが好ましいと思われる。8020にかかわることも少しだけ触れておこう。最低限の口腔機能維持には、我が国では"8020"があるが、英国では21歯であるとしてデータをまとめている。両国の各年齢層での20歯あるいは21歯以上有する人の割合を図1、2にPDのデータとともに示してある。 英国の場合、45〜54、55〜64、65〜74、75〜84、85歳以上でそれぞれ91、74、61、40、26%、それら年齢層に対応する日本の数字はそれぞれ97〜93、86〜78、70〜52、48〜29、17%である。英国にくらべ日本の80歳以後での割合が明らかに低くなっている。これには、この高年齢層でのPDそれと多分LOAの変化の様子の違いが反映されているように思われる。今後今回の両国の調査のまま経過すると、我が国の"8020"は英国に後れを取る可能性があるようにも思われるが、さてどうなるであろうか? (2013年4月5日)
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