第42回:ジルコニアはフッ酸でエッチングできる?

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近年、機械的強度が飛躍的に向上した高強度のジルコニアが開発され、その審美性・生体適合性の良さ、金属イオン溶出リスクのなさとも相まって、歯科での利用も急速に広まっているようである。その中心となっているのは、yttria-stabilized tetragonal zirconia polycrystal (Y-TZP)(イットリア安定化正方晶ジルコニア多結晶体)である。このようなジルコニアに関して、本年4月東京・船堀で開かれた日本歯科理工学会講演会の講演集には目を見張るようなことが記されていた。“ジルコニアはフッ酸で容易にエッチングされる”とあったのである。これまでは、“ジルコニアはフッ酸(フッ化水素酸)でエッチングされない”という常識が定着している感があるが、その常識が覆される日がきたようである。 ジルコニアの接着に関するいろいろな論文やレビューにざっと目をとおしてみたところ、フッ酸にはジルコニアに対するエッチング効果はないという記載が多く散見された。ところが、多くの文献に記載された引用論文からすると、“常識”の原典はInternational Journal of Prosthodontics 13巻、131-135頁(2000)であるらしかった。そこで、この論文に目をとおしてみたのだが、この論文のような実験を行うかぎりは“ジルコニアに対してフッ酸のエッチング効果はない”という結論にはなるであろう。 “常識”に逆らう、「ジルコニアの耐酸性」と題する報告(歯科材料・器械28巻2号114頁、2009年)の概要を記そう。イットリア系ジルコニア(Y-TZP)とセリア系ジルコニア/アルミナ・ナノ複合材料(NANOZR)を用いて、6、12、24%のフッ酸(市販の試薬は48%)に室温で10、60分間浸漬したところ、6、12%で10分間の浸漬では走査電顕でのみエッチングが認められたが、そのほかの場合にはすべて目視でエッチングが確認された。フッ酸が高濃度になるほど強くエッチングされ、Y-TZPよりNANOZRのほうが粗ぞう化が顕著であった。なお、硝酸、塩酸、硫酸、リン酸では60℃においてもエッチング効果はまったく認められていない。 2003年までに報告されているフッ酸の効果に関する論文の概要も紹介しておこう。ガラス浸透アルミナ、ガラス浸透ジルコニア(実際にはアルミナ成分が多い)、高密度焼結型アルミナ(Procera)を9.5%フッ酸ゲルで90秒間あるいはProceraを9.6%フッ酸で2分間処理しても、サンドブラストよりも効果がないとされ、一方Empress II(リチウムシリケート)では5%フッ酸ゲルで20秒間処理すると顕著な効果が見られたという(陶材には有効ということ)。また、“常識”の原典でも、高密度ジルコニアをサンドブラスト後に38%フッ酸で12分間処理(なぜサンドブラスト後にフッ酸処理なのか、筆者には理解しがたいのだが・・・)しても効果は認められていない。アルミナとジルコニアの酸性物質に対する挙動はよく似ており、その両者で得られた知見には共通性があると考えてよい。そうすると、上記報告の要約からは、従来型のアルミナ、ジルコニアにはフッ酸のエッチング効果はないということができ、これが“常識”となったのは当然であったといえよう。しかし、その常識が変わる時が来たようであるが、その理由は何であろうか? ジルコニアは室温では単斜晶系であるが、温度を上げると正方晶系に結晶構造が相転移するが(体積変化を伴う)、ジルコニアに酸化イットリウムや酸化セリウムを添加すると正方晶が室温でも安定となり、温度変化・結晶構造変化に伴う好ましくない影響を抑えることができる。これがY-TZPであるが、以前のジルコニアにはイットリアのような安定材は添加されておらず、この違いがフッ酸に対する挙動の差として現れているのではないかと思う。ジルコニア自体はフッ酸に侵されないが、酸化イットリウムは溶解する。そのため、両成分の混合状態にもよるであろうが、Y-TZPがエッチングされる可能性は否定できないように思われる。 これまでのジルコニアの前処理法としては、サンドブラスト、シラン処理、トライボケミカルコーティング(Rocatecシステム、シリカを被覆したアルミナ粒子でサンドブラストすると、粒子表面のシリカがジルコニア表面に嵌入して表面がシリカでコーティングされる)、レジンセメントの利用、プライマー塗布などがある。ジルコニアの接着においてはサンドブラストの効果は大きく、現段階ではもっとも有力な前処理法の一部となっている。もちろん、サンドブラストのみでは効果は小さく、ジルコニアと反応性のあるモノマーを含むプライマーの併用は欠かせない。サンドブラスト(Rocatec処理も含む)後のシラン処理であるが、処理直後には効果が認められても、長期耐久性に問題があるというのが大方の見方である。そもそもジルコニアにシラン処理が有効であるという論拠に乏しく、筆者には理解しがたいところがあるが、依然としてシラン処理剤の研究がなされ、最近のDental Materials 25巻8月号でも4種類のシランの効果が検討されている。しかし、接着強さは水中浸漬90日でもとの半分以下となっており、耐久性のなさが追認されている。 ジルコニア接着に有効な接着性モノマー成分としては、リン酸系、ホスホン酸系、カルボン酸系(4-META、MAC-10など)のモノマーがあるが、耐久性の点でリン酸系モノマーの一種であるMDPの成績が最もよい。MDPはセメントであるパナビアにも含まれているが、サンドブラストしてこのセメントのみを利用しても長期水中浸漬、熱サイクル負荷では接着強さは低下する傾向があり、そのためMDPの有効性を疑問視する論文もある。しかし、ジルコニアに対するMDPの利用の仕方としてはセメントは不適当であると筆者は考えている。粘性のあるセメントに少し含まれるMDPとジルコニアとの反応は不十分であり、プライマーとして利用する必要がある。そのプライマーも、ほかのモノマーなどが添加されてないほうが望ましいと思っている。 注目度急上昇中のジルコニアであるが、まだまだ発展途上の材料・技術である。安定化ジルコニアといっても、組成、焼結・焼成・加工条件などの違いにより微細構造的に多様であろうし、それに対する前処理法、プライマー、レジンセメントなどについてまだ研究不十分であると思われる。今後は前処理の一部にフッ酸処理も加わるものと予想されるが、Y-TZPのサンドブラスト処理では表層の一部が正方晶から単斜晶へ相転移し、機械的性質が低下するとの懸念の声もあるが、24%フッ酸での10分間処理では結晶相の変化は観察されなかったとされ、これも利点となろう。フッ酸処理面はサンドブラスト処理面にくらべ、より微細に粗ぞう化されているように見え、今後の接着試験を楽しみに待つことにしよう。 (2009年7月30日)
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