第32回:歯頸部欠損の修復

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社会の高齢化や8020運動の進展にともない、歯頸部欠損の修復が増えると予測されているが、東京のある病院歯科で2年ほど前に約3ヶ月間レジン充填症例内容を調査したところ、総症例数1,317のうち34.5%が歯頸部欠損であったという(日歯保存誌50巻春季特別号21頁、2007年)。筆者も近年歯頸部欠損の修復を受けているし、35年ほど前に歯頸部にレジン充填してもらったものが脱落することなく今でも残っていることなどもあって、歯頸部修復の予後に興味があり、最近の二つの論文に目をとおしてみたので紹介する。 Dental Materials24巻7号915頁(2008)には、6種類の接着システムを用いて歯頸部欠損の修復をし、13年間にわたり修復物の脱落を調べた報告がある。う蝕のない歯頸部象牙質欠損のある88名の患者(28〜83歳、平均57歳)に対し、接着歯科に精通した経験ある一人の術者が合計270症例にベベルをつけずに修復を行った(そのうち13年間追跡調査ができたのは68名、215症例)。評価した接着システムおよび脱落率の例を表に示す。 画像をクリックで拡大表示 本論文には、本研究で取り上げた6種の接着システムについてこれまでに報告されている文献の脱落データも一覧表にまとめられている。多くは1〜3年の評価であり、本論文のような13年という長期の例は極めて珍しい。当然のことながら接着システムはかなり以前に上市されたものであり、2種はすでに市場から消えている。表は、脱落の様子は接着システムにより様々であることを示しているが、いずれの場合も経時的に脱落は増加している。Optibond、Syntac、Vitremerは全体をとおしてほぼ同じような経過をたどり、13年後の脱落率は約40%であった。Permagenでの脱落は際立って多く、Scotchbondも多め、PSA は5年までは少なめであったが13年では増加した。これらのものでは、プライマーに含まれるNTG-GMA、エッチング材のマレイン酸、セルフエッチング用のモノマーであるPENTAにそれぞれ問題があるのではないかと筆者は考えている。 Operative Dentistry33巻4号370頁(2008年)には、う蝕がなく、象牙質の硬化の異なる歯頸部欠損を2種類の接着システムを用いてレジン修復した時の3年間の評価が載っている。象牙質の硬化の程度により、それが認められない歯から著明な歯まで4種類に分類のうえ、オールインワン接着システムiBondおよびリン酸エッチングを含む3ステップ接着システムGluma Solid Bond(GSBと略)を用いてコンポジットレジンDurafill VSを充填しており(これらはすべてHeraeus Kulzer製)、次の4群を設定した。硬化が無・軽度、中・重度の歯および硬化が中・重度の歯にリン酸エッチングした歯、これらのそれぞれにiBondを用いた3群、それと硬化が無・軽度の歯にGSBを用いた群である。欠損部は溝やベベルはつけず、エナメル質、象牙質はコース(粗粒)のダイヤモンドバーで軽く粗面にするのみで充填した。30名(36〜77歳、平均55歳)に105例の修復を行い、6月、18月、3年後に脱落、辺縁部適合性、辺縁部着色、二次う蝕、知覚過敏、表面性状、破折などの評価を行った。 象牙質の硬化の程度は、無〜重度まで30、20、40、10%という分布であり、重度の硬化は少なかった。脱落はリン酸エッチング併用のiBond/中・重度硬化群でのみ3例(13%)認められたが、二次う蝕、知覚過敏、表面性状、破折などはいずれの群でも3年までほとんど問題なしと評価された。しかし、辺縁部着色、辺縁部適合性では、iBond群に「不良」例がそれぞれ1および2例あり、「良好」評価の率に群間で差が現れた。辺縁部着色に対し、6月、18月、3年で良好とされた率は、iBond/中・重度硬化群56,48,35%、iBond/無・軽度硬化群82,69,69%、リン酸エッチングを併用したiBond/中・重度硬化群100,64,75%、GBS/無・軽度硬化群100,100,100%となり、この順番で良好の比率が増加した。この傾向は、辺縁部適合性でもほぼ同様であった。こうした結果は、セルフエッチングプライマーの効果はやや劣ること、硬化の進んだ象牙質にはリン酸エッチングの併用が有効であることを示唆している。しかし、この場合でもリン酸エッチングを伴うGBSの域にまでは達していない。 以上はやや旧い接着システムの場合であるが、最近のオールインワン接着システムであるクリアフィル・トライエスボンドとボンドフォースを用いて歯頸部レジン修復を行い、18月まで観察した報告がある。上記論文と同様な評価を行ったところ、30あるいは39症例において、脱落はまったくなく、辺縁部での着色や適合性を含むすべての評価項目においてすべて満足すべき結果であったとされている(日歯保存誌51巻春季特別号24頁および歯材器27巻5号404頁、2008年)。この結果は、象牙質欠損部に窩洞を形成して充填していることを考慮したとしても、上記の論文の結果にくらべ成績は格段向上しているように思われる。ただし、さらに長期間観察を続けた場合の結果についてはまったく予想はできない。 セルフエッチングプライマー方式の接着システムでは、象牙質にくらべてエナメル質での接着性がやや劣る傾向があると筆者は理解しており、エナメル質窩縁部、あるいは硬化が進んで無機成分の多い象牙質欠損部の修復にはそれなりの考慮も必要ではないかという気がする。上記の最近の二つの接着システムでも、熱・機械的な複合ストレスを負荷すると、象牙質を窩縁とする歯肉側にくらべ、エナメル質を窩縁とする歯頂側の封鎖性が劣化することが実験的に示されている(日歯保存誌51巻春季特別号19頁)。最初に紹介した論文からも推察できるように、接着システムの性能は様々であり、適切なものを選ぶことが重要である。はじめに記した筆者の長期臨床例で用いたのは、スーパーボンドのキャタリスト成分も含むMMA系レジンPalakav(Kulzer)(増原英一東京医科歯科大学名誉教授が開発に関与した接着性レジン第1号といえるもの)であるが、長期間脱落せずに残っているのは接着システムがよかったからだと思っている。 (2008年9月25日)
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