第19回:5月の学会学術講演会の講演集から
カテゴリー
記事提供
© Dentwave.com
5月に札幌で、日本歯科理工学会と日本接着歯学会の学術講演会が併催という形で開催された。筆者は出席したわけではなく、また時期はずれの感もないではないが、両学会の講演集の中から接着に関するいくつかの話題をとりあげることにする。
エッチング、プライミング、ボンディングの機能を同時に兼ね備えた、1液性1ステップ型の歯質接着材には、エッチングのために必要となる水および水と混じりにくいモノマーを混ぜ合わせるための溶媒としてエタノールやアセトンなどが含まれていることが多い。このような接着材を歯面に塗布してエアブローしても、 通常の5〜10秒程度のエアブローでそれらが簡単に除去できるとは思われず、接着に好ましくない影響を及ぼすのではないかと以前から気にかかっていた。そんなところへ、今回の接着歯学講演集のなかに、北海道医療大学の斎藤隆史教授らのグループがエアブローによるボンディング材の重量変化について報告しているのを見つけた。しかし残念ながら、結果の詳細は全くわからないため、斎藤教授から発表内容の詳細を直接教えていただいた。50秒間エアブローして10秒間で重量測定、ということを繰り返したところ、エアブロー開始5〜10分後(接着材の種類による)に重量減少変化がほぼ認められなくなっていた。ほぼ一定となった重量減少のうち、最初の50秒間のエアブローにより、アセトン溶媒のものでは約7割、エタノール溶媒のもので約3割が飛ばされたようである。この実験室でのモデル実験結果をそのまま当てはめることはできないとしても、通常のエアブローで除去されずに接着材中に残る溶媒や水の割合は、かなり多いのではないかと筆者は考えている。
このようにして接着材層に残された水などはどのようなことになるであろうか。水が多く残されると、水はモノマーとは混じりにくくなるため接着材層中に小滴となって分散するか、あるいはHEMAのような水溶性のモノマーが多ければ一応接着材層に溶けたような状態になるであろう。このような状態で硬化が進むと、小滴となった水はそのまま、一応溶けたように見えた水も、硬化物とはなじまないため、硬化した接着材層で分離・分散したり、表面にしぼり出されたりすることが考えられる。一方溶媒の方は、硬化物となじみがよいものでは硬化物に一時的に吸収されるような形となり、それはやがて周囲に溶け出していくことになろう。以上は筆者が想像していることであるが、これに関連する報告が二つある。
ワンボトル型接着性レジンを用いて象牙質とコンポジットレジンを接着し、破断面の観察を行ったところ、接着材層にナノリーケージ、ウォーターツリー、水分小滴の形成が見られたという。もう一つの報告では、溶媒にエタノールあるいはアセトンを用い、その他の組成は同じにしたワンボトル接着性レジンを試作し、象牙質とコンポジットレジンの接着を行ったところ、アセトンでは接着強さが低く、接着材とレジンの接合界面に未重合と思われる層が観察されたという。これらの報告で認められたことは、上に記した筆者の想像の延長線上で理解可能と考えている。
過去においてウェットボンディングなる、接着の観点からは理解しがたいものが一部でもてはやされたことがあったが、水と溶媒を含む接着材もかなりむずかしいことをしていると筆者は思っている。エアブローのしかたによって溶媒や水の除去の様子は当然異なってくる。そこで、“エアブローの影響を受けにくい”という接着材が登場している。この接着材では溶媒を使わず、水はほとんど飛ばすことなく接着材層でそのまま固めてしまうことになっているようである。このような新型の接着材では、従来の溶媒を用いる接着材で生じたような、残留水分などに起因すると思われる接着欠陥はなくなることが考えられる。その一方、長期の水環境下で新たな問題が生ずる可能性もないとはいえないように思われるが、今後どのような評価を受けるか注目していたい。
第17回コラムでジルコニアのプライマーについて触れたが、ジルコニアなどに対してシラン系プライマーが有効であると考えているらしい人がまだいることが今回の発表からうかがえた。シラン系プライマーはシリカを主成分とするポーセレン用であり、ジルコニアやアルミナにはほとんど無効であるといってよい。アルミナの接着について検討した報告がある。酸性の歯質接着性モノマーを含む8種類のプライマーは、接着直後では同じような接着強さを示したが、5℃と55℃の水中に各1分間交互に10万回浸漬する耐久試験を行うと、プライマーの種類により差が生じたという。酸性基としてリン酸基を含むもの(MDP)のほうがカルボン酸基を含むものより耐久性がすぐれていた。この結果は、これまで卑金属の接着で報告されている傾向と一致している。卑金属の接着でも実際には金属が酸化された表面へ接着しているため、これは当然のこととはいえる。なお、リン酸系モノマーと似た構造のものにホスホン酸系モノマーがあるが、MDPよりは耐久性は劣る結果となっている。これは、二つの酸性基の違いより、モノマーの別の部分での構造が影響しているように思われる。
接着性レジンセメントを用いた支台築造の15年生存率について岡山大学からの報告がある。1988年〜1991年に支台築造した患者991名、そのうちレジンコア装着患者794名(1752本)、メタルコア装着患者197名(372本)での15年生存率は、それぞれ75.2%と45.8%であり、レジンコアのほうが良好な結果となっている。近年行われているような計画された比較試験とはなっていないが、レジンコアの優位性は認められるであろう。当時はまだリン酸亜鉛セメント全盛の時代であり、接着を活用した山下敦名誉教授らの先駆的な試みであった。
1989年〜2004年の15年間で歯学部学生の臨床実習におけるクラウンブリッジでの装着材料がどのように変化したかが鶴見大学から報告されている。1989年ではリン酸亜鉛セメントが60%以上であったが、2000年では全く使われなくなった。それに代わり、グラスアイオノマーセメントの使用割合が増加し、1994年〜2000年では常に50%以上、2001年以降は接着性レジンが50%以上となり、2004年で67%となった。この報告例から考えて、新しい世代では接着の教育を受け、接着に対する理解も進んでいると思われるが、歯科全体としてはまだ接着のことが十分理解されているとはいい難いところがあると思う。接着は修復領域での治療を一変させ、歯の延命、保存に大きな貢献をしてきたが、修復領域以外でも接着をさらに活用してほしいと思っている。
記事提供
© Dentwave.com