第105回:CAD/CAMの保険導入と今後

カテゴリー
記事提供

© Dentwave.com

先進医療として、「歯科用CAD/CAM(コンピュータ⽀援設計・製造ユニット)装置を用いて製作された歯冠補綴物の評価」が今年4月保険導入され、いよいよ我が国歯科界もCAD/CAMと向かい合う時期が到来したようである。算定条件がかなり限定されているが、今後どの程度普及するか注目される。導入された保険は、CAD/CAM装置を用いて、作業模型で間接法により全部被覆冠(小臼歯のみ)を設計・製作し、装着する場合に適用される。この導入と同時に特定保険医療材料としてCAD/CAM冠用材料が新設された。それは、シリカ微粉末とそれを除いた無機質フィラー2種類のフィラーの合計が60%以上、重合開始剤として過酸化物を用いた加熱重合により作製されたレジンブロックであり、CAD/CAM冠に用いられる材料であることが条件となっている。 保険適用のハイブリッドセラミックスは、レジンモノマーとフィラーの混合物を高温・高圧をかけて重合し、重合不足や気泡の少ないブロックをつくっているが、フィラーの種類・含有量、モノマーの違いなどにより、物性的にかなりの違いがあるようである(詳しいデータはまだほとんど公表されていない)。現在上市されている製品を認証取得順に並べると次のようになる。カッコ内の数値はメーカー公表の曲げ強さである。ラヴァアルティメット(スリーエム、234 MPa)、セラスマート(ジーシー、240 MPa)、松風ブロックHC(松風、191 MPa)、カボエナミック(カボデンタル、約155 MPa)、KZR−CAD HR(山本貴金属、約300 MPa)。なお、カタナアベンシアブロック(クラレノリタケ)も9月に認証取得済みなので近く上市されると思われる。 このように保険導入されたCAD/CAMであるが、この分野で先を行く米国の事情を紹介しよう。今年のJADA145巻8号に掲載のChristensenのコラムを以下に紹介する。米国の全国技工士会によると、2006~2013年で約5,000の技工所が閉鎖され、2014年は9,042技工所が動いている。技工所の閉鎖理由は三つ考えられる。①技工所オーナーがスキャナー、ミリングマシン、その他さまざまな付属品という高価なディジタル技術の設備にグレードアップできない。②クラウンのかなりのものが海外でつくられている(米国で装着されるクラウンの約34%が海外でつくられていると技工士会はみている)。③技工料金が全国的に低下し、小さな技工所は間接修復物を大量につくっている技工所に太刀打ちできない。 クラウン作製法として以下のA~Cが考えられるが、それらの場合の歯科医と患者にとっての有利な点と不利な点は次のようになる。 A:通法でクラウンをつくる 通院1回目で診断、治療計画、2回目で支台歯形成、印象採得、仮修復物の作製と装着、3回目に最終修復物を装着する。 有利な点:①多くの歯科医にとってなじみがあり、他の方法に変える利点がない。②クラウンあるいはブリッジのほとんどの症例に通法で対処できる。 不利な点:①処置に3回の通院が必要、②通法の印象は面倒、③多くの患者は口腔内に印象材を入れるのを嫌い、時には息苦しさを感じる、④患者は仮修復物を平均2~3週間使う必要がある、⑤トレーと印象材は高くつく、⑥感染対策として印象材の消毒も必要。 B:印象をスキャンして技工所に送りクラウンをつくる 離れた技工所を利用する場合には、スキャンした印象を技工所に電子メールで送るとともに仮修復物をつくり、後日出来上がったクラウンを装着するという手順で3回の通院が必要となる。一方。近くの技工所を利用する場合は、スキャンした印象を近くの技工所に送り、仮修復物は作製せずに、患者はクラウンを作製する間しばらく診療所で待ち、クラウンを装着するという手順で2回の通院で済む。 有利な点:①印象採得の厄介さがなくなる、②印象材を口腔内に入れた時に息苦しさを感じる患者ではそれが避けられる、③患者は治療が最新の技術にアップデートしているという認識を持てる、④印象はディジタルであり感染対策は不必要、⑤ミリングマシンを持つ技工所が近くあるいは同じ建物にあり、技工所とミリングの時間を調整してあれば、ディジタル情報を技工所に送ってしばらくすればクラウンを装着できる。すなわち、患者は支台歯形成とクラウン装着を1回の通院で済ませられる、⑥支台歯形成の通院時に技工所でのミリングができれば仮修復物は不要、⑦クラウンが技工所ででき、支台歯形成の通院時に装着できるようであれば、高価なミリングマシンを診療所で買う必要はない、⑧いくつかの技工所は、通法での印象にくらべ、電子メールで送信したスキャン印象に対して25%クラウンの値段をさげている、⑨印象をスキャンし、修復物が1回の通院時にミリングできるようであれば、歯科医にとって時間の節約になる。 不利な点:①スキャナーを入手しなければならない($19,740~$49,999の5製品が例示されている)、②新しい手法と技術を使うにはかなりの学習時間が必要、③支台歯形成のスキャンが難しいことがある(マージンが歯肉縁下深い、領域が血液あるいはだ液で汚染されている、あるいは患者が非協力的)。このような場合、ある歯科医は通法での印象にもどり、スキャニングに精通した歯科医はスキャンをこなす。 C:診療所内で印象をスキャンしクラウンをミリングしてつくる 支台歯形成、印象を直接口腔内スキャンし、その印象データを診療所内のミリングマシンに送ってクラウンをミリングする。これらは約1時間の作業である。 有利な点:①スキャンあるいはミリングで不具合が起きないかぎり、1回の通院でよい、②多くの患者は2回よりも1回の通院を好む、③歯科スタッフがスキャンとミリングに習熟していれば、スタッフが印象のスキャンと修復物のミリングをしている間、歯科医はほかの治療を行える、④この手技はフルクラウンとアンレーに使える、⑤仮修復物は不要。これらに加えての利点はBの①~④と共通である。 不利な点:Bの不利な点と共通である。 終りに著者は次のような予測をしている。通法は優れた技術として今後も続くだろう。その理由は、単純さ、多目的性、手技への歯科医の馴染み、比較的低コスト。診療所でのスキャニングと技工所での修復物のミリングは、スキャナーの値段が下がり、とくに買う代わりにリースできれば、普及するだろう。しかし、これらの装置が一般歯科医にインパクトを与えるようになるには数年かかるであろう。診療所でのスキャニングとミリングはゆっくりと増え続けるであろう。クラウンやその他のものの3次元プリンティングという別の構想の兆しがあり、いくつかの技工商品にすでに使われつつある。3-Dプリンティングはスキャニングとミリングの構想より速く成長するかもしれない。 今回保険導入された作業模型を技工所に渡してCAD/CAMでクラウンを作製するという方式は,基本的に上述のコラムのAとなり,クラウンを従来法あるいはCAD/CAMでつくるかの違いである.作製されたクラウンの仕上がりに両者でどの程度の差があるかは承知していないが,ほぼ同等だと思っており,結局はコスト勝負ということになるのであろう.米国の実情からすると、我が国での歯科医のスキャナー利用によるCAD/CAMの普及はかなり先のように思われる。 口腔内スキャナーの正確さ、信頼性について興味があったのであるが、最新のJADA145巻11号に目をとおしていたところ,それに関する論文が掲載されていたのでその紹介を追加しておこう。口腔内スキャナー3製品を用い、光造形法およびミリング法で全顎の鋳造物を作製して精度を評価した論文である。ポリウレタン模型を参照用スキャナーおよびスキャナー3製品でスキャンし(各スキャナーで5回)、そのスキャンを各メーカーに送り、鋳造物を作製してもらった。受け取った鋳造物を参照用スキャナーでスキャンし、3D評価ソフトを用いて、模型スキャンデータと比較した。用いたスキャナーは、光造形法のA(Lava Chairside Oral Scanner C.O.S. 3M ESPE)とB(CEREC AC with Bluecam、Sirona)およびとミリング法のC(iTero、Align Technology)および参照用スキャナーのIScan D101、Imetric 3D、Courgenay (スイス)である。各スキャナーの正確さ(模型からのずれ)および精度(再現性)の平均値 (μm)は、それぞれA、B、Cで68、76、98と14、22、49であった。全体として、AとBは水平の収縮と垂直のねじれで求心的収縮、Cはおもに小臼歯、大臼歯領域の水平の遠心的膨張を示した。製品間で成績に有意差があり、AとBはCより優れていたが、いずれも臨床的に許容できる範囲であった。

(2014年11月28日)

記事提供

© Dentwave.com

新着ピックアップ