第48回 【第1回】再生医療産学官連携シンポジウムに参加して

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2016年10月24日月曜日に日本橋三井ホールにて掲題のシンポジウムが開かれた。山中教授が基調講演をされたので今月のコラムで紹介したい。2006年にネズミの皮膚の線維芽細胞からiPS細胞が樹立され、その翌年ヒトの皮膚の線維芽細胞からもiPS細胞が樹立された。それから、ちょうど10年が経ちこの10年間で何が変わったのか、そして何が今問題点として浮き彫りになったかを話された。 山中教授は講演の冒頭で、iPS細胞には二つの使い方がある事を話された。一つは、今までに治すことができなかった病気を治すための再生医療、根治的医療の開発である。もう一つとして、iPS細胞はすべての細胞に分化することができるので、病気を持った人の細胞からiPS細胞を作製して、その病気の基になる細胞に分化させると、その病気の原因となる形質がその患者さんから作製したiPS細胞に再現できることになる。したがって、iPS細胞を使うことで病気を実験室で再現できる。 例えば、進行性骨化性線維異形成症は筋肉や腱、靭帯などの軟組織中に、骨が徐々に形成される病気で、200万人に1人程度の割合で患者さんがいる希少難病です。この患者さんの線維芽細胞からiPS細胞を作製して、そのiPS細胞を骨芽細胞に分化させると、正常な人より骨芽細胞になりやすいことがわかる。そこで、この疾患特異的なiPS細胞を用いて、どうして骨芽細胞に分化しやすいかを解明すると病気の原因が解明できることになる。 山中教授は、iPS細胞を用いた再生医療は一過性の医療であり、100年後には再生医療より、より優れた医療が生まれているだろう。しかし、病気の患者さんから作製したiPS細胞(疾患特異的iPS細胞と呼んでいた)から再現できる病気に対する薬の開発は、今後100年は続くだろうと述べた。京都大学にiPS研究所が作られたが、その英語名を「Center for iPS cell research and application」と名付けている。「Application」が大切だと主張されたのが印象的だった。 iPS細胞の作製方法が大幅に改良されている。最初の方法は、レトロウイルスを遺伝子導入ベクターとしてOct3/4、Sox2、Klf4、c-Mycの4つの転写因子を線維芽細胞に導入してiPS細胞を樹立したが、レトロウイルスを用いると細胞のゲノムにランダムに遺伝子が挿入されるので、遺伝子変異を起こしやすく、腫瘍形成の原因になることが懸念されていた。今では、レトロウイルスに代わりセンダイウイルスのような外来遺伝子の挿入が起きない導入法が開発された。センダイウイルスの最大の特長は、RNAをゲノムとしてRNAのまま細胞質に留まって複製・転写・翻訳が行われるので、DNAの中に組み込まれないので腫瘍形成の心配が無い。 iPS細胞はOct3/4、Sox2、Klf4およびc-Mycの4つの転写因子を細胞に導入して作製したが、c-Mycはがん原因遺伝子である。そこでMycファミリーのもうひとつのL-Mycがc-Mycよりも効率よくiPS細胞を樹立することが可能となり、このL-mycを使ってiPS細胞を作製すると腫瘍形成が起きにくいようだ。 このように,iPS細胞の作製方法が徐々に改良され,2014年9月に世界初のiPS細胞を用いた臨床応用が神戸の先端医療センター病院にて実施された。対象疾患は「滲出型加齢黄斑変性」である。この加齢黄斑変性の疾患について、簡単に説明させていただく。加齢により黄斑に障害が生じて視力が低下する病気である。黄斑(おうはん)とは神経細胞でできた網膜の中心に位置する直径1.5~2mm程の部位で、視力を得るための重要な働きを持つ。したがって、この黄斑の機能が阻害されると、網膜のほかの部分が正常であっても、視力が低下する。 現在、この病気に対しての治療法として、光線力学的療法と抗血管新生薬療法の2つの治療法を組み合わせた治療があるが、根治的な治療法になっていない。いわゆる対症療法である。加齢黄斑変性の原因は,体内の血管内皮増殖因子(VEGF:Vascular Endothelial Growth Factor)という物質の働きによって血管が活発に成長するからである。そこで、VEGFに対する抗体を目に注射して、脈絡膜の血管新生を抑制することができると、視力の低下を防げる。今回の患者さんも月に一度、この抗VEGF抗体を目に注射する治療を受けていた。 図1 滲出型加齢黄斑変性を患う70歳代の女性の方の細胞からiPS細胞を作製し網膜色素上皮(RPE)シートを作製して、片側の目に移植した(図1)。それから1年間経過後には抗VEGF抗体を投与しなくても視力の低下が抑えられた。つまり、経過は良好であり、治療の効果があらわれている。しかしながら、山中教授は、まったく喜んで話されていなかった。その理由が、今後のiPS細胞移植に課された問題が大きいからだ。 iPS細胞から作製したRPEシートを移植して視力の低下が抑えられたのであるから、もう片側の目にも移植しても良いのではないかと考えますよね?しかし、残念ながら反対側の視力は、抗VEGF抗体を投与していて、視力も徐々に低下している。 山中教授は、どうして2例目ができないかについて話された。大きな理由は二つ「時間と治療費」。 一例目の患者さんの場合、患者さんの承諾を得てから、線維芽細胞を採取しiPS細胞を樹立して、そのiPS細胞をRPEシートに分化させて作製し、そのRPEシートの安全性を確認して移植するまでに、約11か月を要した。11か月の間に病気も進行する。どうして、11か月も必要なのか?私もiPS細胞を樹立した経験があるが、前述したiPS細胞を作製するために遺伝子を導入してからiPS細胞とわかるまでに約1か月かかった。 図2シャーレの中では、多くのiPS細胞が樹立される(図2)ので、その中から良いiPS細胞を探す必要がある。次にそのiPS細胞を増やしてからRPE細胞に分化させる。これにも数か月は要するだろう。その後にゲノムの異常が無いかを確認するのにも数か月かかる。ここで、ゲノムに異常が見つかれば、最初からやり直しになる。このゲノムの検査に、多大なる費用がかかる。今回の一例目の移植にかかったすべての費用はなんと1億円(人件費も含む)。想像以上に高額な医療である。 悪いことに、2例目はゲノムの異常が見つかって中止になったという。1億円かけてRPEシートを作って、ゲノムの異常があったら中止となる。中止とは、これまでに作製したiPS細胞はもう使えないので、また、最初から、つまりiPS細胞の作製から始めなければいけない。 一億円の費用を使い、一年という年月をかけてRPEシートを作ってゲノムの異常があったら中止となったらどうだろう?現実な治療になりますか?ということが大きな課題のようだ。 したがって、現在は、自家視細胞によるiPS細胞の再生医療は中止となっている。しかし、これは自家細胞を使った場合の話である。現在、これに代わる方法として、他家細胞によるiPS細胞の再生医療を目指した計画が進んでいる。他家細胞移植については、次回のコラムで紹介する。
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