第45回 象牙質が痛みを感じるメカニズムについて

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名古屋は酷暑の到来です。私が「昨年は、あまり暑いと感じませんでした」というお話をすると、「去年は一年目で緊張していたのでしょう」と諸先輩方に言われます。暑い時は汗が出るにもかかわらず、不思議と辛いものが食べたくなります。 第37回歯内療法学会が名古屋にて開催されました(7月23~24日)。そこで、7月のコラムは東京歯科大学名誉教授の下野正基先生の特別講演「再生歯内療法の可能性―治癒の病理―」を取りあげます。講演の内容は「象牙質の痛みのメカニズム」と「リバスキュラリゼーションを再考する」の2部構成でしたので、まずは象牙質の痛みについてから概説します。 象牙質の痛みに関する研究は日進月歩で進んでいます。エナメル質に知覚はありませんが象牙質には知覚があります。エナメル質の96%がハイドロキシアパタイトで構成され、細胞もエナメル質内にはいません。一方で、象牙質は全周にわたり象牙細管が走行し、象牙芽細胞の突起と神経線維が、その細管内の一部に入りこんでいます(図1)。その象牙芽細胞は、歯髄の最表層となる象牙前質に沿って並んでいます。最近、痛みのメカニズムについて最も受け入れられているのが動水力学説です。ここでは、簡単に説明させていただきます。

図1.象牙細管(矢印)は象牙前質からエナメル・象牙境まで走行している。 図1.象牙細管(矢印)は象牙前質からエナメル・象牙境まで走行している。

象牙質に加えられたさまざまな刺激形態が、象牙質細管の内溶液の移動を起こし、象牙細管内に入り込んでいる知覚神経線維を刺激しているという説です。しかしながら、すべての痛みについて、この説明だけでは、解説できないようなので、現在、知覚受容複合体説が脚光を浴びているようです。脚光を浴びている最も大きな理由は、象牙芽細胞にパニロイド受容体(カプサイシン受容体)の存在が明らかになったことのようです。パニロイド受容体とは、TRP(Transient receptor Potential)チャンネルの代表的なもので、カプサイシン受容体とも言われています。カプサイシンの名前は多くの方が聞いたことがあるでしょう。カプサイシンは唐辛子などの辛味の正体ですね。その唐辛子はナス科のトウガラシ属に分類され、ナス・トマト・ジャガイモはナス科のナス属に分類されています。カプサイシンは、舌などにあるカプサイシン受容体(TRPV1)に結合し、辛味刺激を細胞内に伝えます。TRPV1は口腔内に特異的なものではなく、全身に分布しており、感覚神経末端の分子として働いています。辛いものを食べて汗がでるのは、カプサイシンが副腎皮質ホルモンの分泌を促進し、そのホルモンが発汗・発熱を促すからです。 話は本題からそれますが、トウガラシが辛い理由に次のような仮説があるようです。それは、動物に食べられないようにするためです。実際に野生の哺乳動物たちはトウガラシを食べないようです。しかし、面白いことに、鳥類はカプサイシン受容体を持っていません。致死量のカプサイシンを食べても死なないようです。つまり、トウガラシは、哺乳動物に食べさせず、鳥類に食べてもらうことで、鳥類の消化器系は哺乳動物よりも単純なので、トウガラシの種を未消化のまま糞中に排泄しますので、自分たちの祖先を遠くまで運んでくれると考えたようです。唐辛子に関するもう一つのお話です。江戸時代には虫歯になったら歯に唐辛子を詰めて痛みを抑制させていたようです。唐辛子の痛み抑制効果はユージノールの鎮静効果と同じ機構とのことです。 辛いものが好きな人は、辛いものが病みつきになりますよね。唐辛子を食べると、体内から脳内麻薬と呼ばれている「エンドルフィン」が分泌されるからです。エンドルフィンはモルヒネの6.5倍の鎮痛作用があり、精神的ストレスの解消に効果があり、免疫細胞の防御反応を強化する作用もあります。楽しいという感覚によってエンドルフィンが分泌させることになりますので、辛いものを食べると興奮します。これが、激辛ファンが多い理由のようです。マラソンランナーのランナーズハイもエンドルフィンの効果と言われています。つまり、エンドルフィンによって身体の疲れや痛みや熱さなどを軽減されるということです。さらに、トウガラシを食べると「アドレナリン」という物質が体内に分泌され、血糖値を高めて心臓をドキドキさせます。例えば、野球ですと、応援するチームが九回裏ツーアウト満塁で、大逆転の場面でドキドキします。これはアドレナリンが分泌されているからです。 話をカプサイシンに戻しましょう。カプサイシン受容体は、痛みの原因である侵害性温度刺激(45℃以上の熱か15℃以下の冷刺激)および侵害的化学刺激(例えば強酸)を受けて反応します。唐辛子を摂取するとカプサイシン受容体(TRPV1)が刺激されて、熱くないのに激しい灼熱感を感じることになります。 第三象牙質形成にカプサイシン受容体が関与しているという新しいお話がありました。第三象牙質の復習をしましょう。第三象牙質は、咬耗・摩耗・窩洞形成や齲蝕などの外来刺激や病的刺激によって形成され、その第三象牙質は反応象牙質と修復象牙質の二つに分類されます。その違いは、もともと存在していた象牙芽細胞によって第3象牙質が形成された場合に反応象牙質と定義され、象牙芽細胞が一度死滅し、新たに象牙芽細胞が分化してできた象牙芽細胞によって形成された第三象牙質を修復象牙質として定義されています。象牙質を形成する象牙芽細胞にはナトリウム‐カルシウム交換体が存在し、細胞内に蓄積したカルシウムイオンを細胞外に排出します。カプサイシン受容体(TRPVチャンネル)はナトリウムイオンの透過性を亢進させて、起動電位を発生させます。次に,前述したカプサイシン受容体と第三象牙質形成の話をつなげますと、外来刺激や病的刺激によってカプサイシン受容体が活性化されて象牙芽細胞内にカルシウムが流入し、カルシウムが蓄積されるとナトリウム・カルシウム交換体によってカルシウムが流出されて、反応性象牙質が形成されるようです。 象牙質の痛みと第三象牙質の形成機序は徐々に明らかになってきていますが、歯科の領域ではわからないこともまだまだ多く、研究課題は豊富にあります。若い先生の活躍の場もたくさんあります。 次のコラムは、第2部の「リバスキュラリゼーション」の話題です。
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