患者と歯科医師との関係を構築する

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東京医科歯科大学 俣木志朗教授に聞く

  

 

行動科学は、人間の行動を科学的に研究し、その法則性を解明しようとする学問である。

心理学、社会学、人類学などがこれに含まれる。

医療の分野では、どのような教育が行われ、成果をあげているのだろうか?

興味を抱き東京医科歯科大学の歯科医療行動科学分野の講座内容について、俣木志朗教授に聞いた。

俣木志朗教授は、まず行動科学の概念にふれ、「元々、行動科学はかなり幅の広い分野の学際的な色々学問を集合した総合科学です。特に人を相手にするような職業では必要であり、医療に携わる医療職には医療行動科学分野があります」と述べた。

患者とドクターとのコミュニケーションスキル、インフォームド・コンセントを含めた基盤を確りとしたうえで医療行為を行う。

つまり、患者中心の医療どのように進めていくことが、医療の基本中の基本として重要だとされる。

  

— 具体的には?

俣木志朗教授

医学、歯学はともに臨床と基礎に分かれていますが、医学では基礎医学、臨床医学、社会医学と大きな枠組みになっています。

医療行動科学は社会医学に入っているかもしれないのですが、歯科医療の場合は基礎、臨床があって、どちらでもない社会系は実は臨床系の予防分野の社会歯科学の部分が多かったと思います。

そこで、海外の例えばアメリカ、イギリスのカリキュラムは、基礎歯科学、臨床歯科学、行動科学の3本立てになっています。

日本も必要なのだろうと、医療行動学という言葉が出てきています。

これは医学でも歯学でもここ10年以来、言われていることです。

— ねらいは?

俣木

医療者と患者さんのそれぞれの立場を理解したうえで、医療を進めていくことです。

あくまでも医療者はプロフェショナルで対応しなければならないのですが、患者さんあってのプロフェショナルです。

患者さん中心の医療ですが、現在、医療現場での患者さんとのトラブル、裁判沙汰になってしまうと、まったく別次元の問題となり、結果が出てもどっちも満足できない結果となってしまいます。

そのようなことにならないように、しなければなりません。

今、裁判によらない解決法もあります。

— 医療機関では、看護師さんが患者さんと医療機関の間を中立な立場で仲介していますね。

俣木

そうですね。看護師さんがコーディネータ役となってトラブル処理をいます。

看護師さんは、医療の基本が看護から始まっていますので、適役だと思います。

まだ医学や科学が発達しない前には、病気が治るか治らないか分からないが、まず看護することから始まっています。

看護は医療の基本であり、起源ですから、コーディネータの能力をもった看護師さんの方々がいると思います。

そこでその面での役割や能力を深めており、看護師さんの仲介役がかなり成り立っています。

大きな医療機関には必ず、その分野の看護師さんがいます。

法曹に頼らないで、医療のトラブルの解決が出やすいようにする流れです。

— 具体的に、歯科医療行動科学分野の講座内容を

俣木

私のやっている講義は、歯科医療入門で3年生を対象にやっているのがメインです。

医の倫理から最初に入り、インフォームド・コンセントなどなるべく事例を集めて講義しています。

ヒポクラテスの誓いから始まりますが、ただ聞いているだけではおもしろくないので、その文書を配ります。

また、緒方洪庵が適塾で訳した扶氏経験遺訓(ふしけいけんいくん)は、ベルリン大学教授フーフェランドの内科書Enchiridion Medicum(医学必携)第2版のハーヘマンによるオランダ語訳を重訳したもの(1861年出版)を使用しています。

フーフェランド教授はベルリン大学を辞めてから、歩き回って国民に対し社会医学的に啓発活動をかなりしました。

予防がいいのだと分かりやすく教育するために歩きました。

長寿学という本を書いています。

長寿するためには、どういうことに気をつけるべきかを説いたのですが、当時は感染症など色々なことが、まだ分かっていませんでした。

民間的な意識を啓発したのです。

医者たるものは、こういうことをしなければいけない、と書いていました。

緒方洪庵はそれをオランダ語から訳しています。

ヒポクラテスの誓いと扶氏経験遺訓を学生たちに対比させます。

60人を5人、6人にくらいに分けて12グループほどで、医者の心構えについてグループ討議をさせます。

教育の方法も一方的な教える講義ではなく、自分たちの意見を発表させて、比べさせて考えさせています。

今だから通じないこと、今でも通じること色々なことが、扶氏経験遺訓には書かれています。

まだ臨床の科目が始まる前に、そのようなことを教えているつもりなのです。

新しいカリキュラムになってからは、1年生から患者さんの前に出るようになりました。

このために、患者さんに対する基本的な考え方、心構えを低学年のうちからやっていると、3年生になってから具体的に考えるようなります。

月曜、火曜の午前中の講義ですが、4月、5月の2か月間やっています。

他の曜日はマンツーマンになり、どこかの診療科を3年生のうちに回るようにしています。

するとこの病院で、どのようなことが行われているのか分かると思います。

4年生になると、6年生が4年生を教えます。

6年生になると患者実習をしますから、そこに4年生が行きお手伝いをしています。

5年生から臨床実習となりますので、3年生以降は必ず患者さんと触れ合う時期がかなりあります。

— 他の歯科大学・歯学部はそこまでいっていないと思いますが。

俣木

全然やっていないでしょうね。

東京医科歯科大学歯学部だけだと思います。

我々の時代は、ずっと患者さんのかの字もなく、5年生の秋になって途端に臨床実習にポンと出され、そこから必死なって勉強していました。

今は準備よくやっています。

私は教育委員長をやっていて、ずっとカリキュラムの改変に取り組んできましたが、考えて計画すればするほど、逆によくないのかと思いました。

— どこに問題があったのですか?

俣木

こちらが準備のし過ぎでした。

ある程度狙ってでも、なるべく学生たちが困って、自ら考えさせることです。

— つまり問題発見、問題解決の方向ですね。

俣木

学生たちが受動的なものより、能動的になりやすい状況をつくろうとしています。

平成15年から新カリキュラムでやっていますから、丸6年やっています。

よい教育をしている、という自負はあるのですが、

ただ、6年生の11月、12月まで臨床実習をやっていますから、国家試験の結果がよくありません。

レベルの高い方に合わせたカリキュラムとなっています。

このため、真ん中より下の学生には厳しいと思います。

— これまでの臨床での問題点は?

俣木

歯科医療相談室には、患者さんから意見が来ています。

それは治療に対する説明不足です。

また、いくつかの診療間をまたがって治療をするケースでは、診療科間の連絡がうまくいってない、あとは費用面についてです。

技術面では、限界があるのだということをご理解願えればいいのですが、医科歯科大学に対するかなりの期待が大きいのです。

絶対に治るのだという論調になりやすいことです。

お話をしているうちに分かっていただける人と、どんどん悪い方向へいってしまわれる方もおられます。

— 今後の課題について

俣木

最初のもめる問題は、初期消火と言う言葉では問題ですが、ボヤのうちに収めておきたいのですが、大体は初期対応のまずさがあって、その後の後手後手につながります。

初めに誠意を見せておくべきだと思います。

患者さんが最初に「誠意が見られない」と言われます。

そのために感情のもつれになっていきます。

それを含めて、患者さんの気持を理解する。

患者さんの感情にどのように対応するのかを、低学年のうちから練習しておいた方がいいのではないかと思います。

その点で、アメリカでは多くの人種がいることから言語、文化、価値観の違う人と対応することが原点にあります。

また、日本では全部お任せします、という父権主義のような流れもありましたが、今では医療担当者と患者さんの立場は対等になっています。

また、同じ保険医療なら経験の浅い歯科医師より、ベテランのある歯科医師に治療してもらいと、患者さんは願っています。

ましてや学生治療してほしくない、ということから臨床教育に協力していただけない患者さんがおられることも事実です。

しかし、「学生さんの治療でもいいです」と協力していただける患者さんもいらっしゃいます。

それを人づてに聞いて、来られる患者さんもいらっしゃいます。

なかには全部、学生の教育実習に協力していただける患者さんばかりだと、学生の方で勘違いをすることがあります。

実際は学生の教育実習に積極して協力していただける、かなり特殊層の神様のような患者さんなのです。

そのようなことを忘れないように、と学生たちには言っています。

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