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かつて歯科医院にとって「紙」は、診療を支える欠かせない存在でした。診療ノート、問診票、予約台帳、受付管理──これらはすべて紙によって成り立ち、日々の診療業務は紙の束の中で回っていました。しかし近年、スタッフの人手不足、業務の属人化、感染症対策、そして患者ニーズの多様化といった現場の課題が顕在化する中で、「紙を使い続けること」自体が、医院経営のボトルネックとなりつつあります。本連載では、全6回にわたり、Dental eNoteの導入により経営改革に成功した歯科医院の事例を通じて、「歯科DX=大きな投資や技術導入」と捉えがちな考え方を一度リセットし、日々の診療の中から始められる小さな変化からはじまる経営改革のヒントを探っていきます。第5回目は、やまもとファミリー歯科医院の事例を紹介いたします。

『現場から始まる歯科DX』ー紙からの開放で変わる歯科経営改革
第1回「受付無人化」への挑戦 ─全6回シリーズ連載 『現場から始まる歯科DX』
第2回MFTを紙運用からデジタルへ──スタッフ主導で4,000万円増益を実現した舞台裏に迫る『現場から始まる歯科DX』
第3回患者が増え続ける「夕方5時までの歯科医院」──1日200名を9台のチェアで残業なしを実現
第4回「カルテ待ちで診療が止まる」をゼロに──6院・90名体制がわずか1週間で歯科DXを実現『現場から始まる歯科DX』
第5回【今回はこちら】訪問診療で月230名を診る残業なしの医院──“紙カルテの山”を抱えた階段往復からの解放『現場から始まる歯科DX』
第6回診療時間60分減らしても”残業しない”クリニック──令和の歯科医院のスマート運営術『現場から始まる歯科DX』

訪問診療で月230名を診る残業なしの医院──“紙カルテの山”を抱えた階段往復からの解放『現場から始まる歯科DX』

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iPadで月往診230名を支える医院へ

紙カルテの束、複写書類、レントゲン画像、処置セット。両手いっぱいの荷物を抱えて団地や施設の細い階段を何度も往復する──。それが、訪問診療の現場では「当たり前の負担」として続いてきました。

京都・大阪の県境、八幡市にある「やまもとファミリー歯科」は、この負担を根本から変えた歯科医院です。チェア10台・スタッフ30名の体制で、創立当初の2005年から訪問診療を外来と並ぶ柱として位置づけ、現在も月約230名の患者に対応。往診用の車両は毎日2~3台フル稼働し、予約は常に満席という状態が続いています。

この現場が、紙カルテ中心の運用から「iPad+MetaMoJi Dental eNote」へ移行したことで、往診時の移動負荷と情報管理のストレスを大幅に減らし、受付の残業時間まで大きく削減しました。きっかけは、派手な設備投資でも大きな業務再設計でもなく、「現場が本当に困っているところ」からDXを始めたことでした。

訪問診療を“もう一つの柱”として続ける理由

「入れ歯が合わずに食べられなくなると、人は一気に弱るんです。義歯にはしたくない、どうしても必要なときは納得いくまで調整する。もう一度ちゃんと食べられるように戻す。それで『体重が増えて元気になりました』と言ってもらえる瞬間が一番うれしい。」
やまもとファミリー歯科の山本院長は、訪問診療をそう語ります。

外来は「満足しなければ患者が離れる」場ですが、訪問は「患者の生活空間に入り、納得するまで寄り添う」医療です。治療して終わりではなく、生活を支え続ける医療。「終わらなくていい関係が自分には合っている」と院長先生は言います。

しかし現実には、通院が難しくなった高齢者の口腔管理ニーズは増え続けているのに、訪問診療の提供体制は圧倒的に足りていません。必要とする人が多いにもかかわらず、歯科医療につながれるのはその一部にとどまる。この「需要と供給のミスマッチ」は、地域の高齢者医療が抱える大きな課題です。
やまもとファミリー歯科は、19年にわたってその課題に向き合い、訪問診療を日常の業務として当たり前に回し続けるための仕組みづくりを進めてきました。

往診現場のリアル:荷物・階段・情報リスク

訪問診療は予約制が基本ですが、移動中に急患が割り込むことも珍しくありません。そのたびに「カルテが手元にないから一度院に戻る」「その場ではメモだけ取って、詳細は帰ってからまとめて記載する」といった無駄が発生していました。

現場の負担は、単純な“忙しさ”だけではありません。患者ごとの紙カルテ一式、レントゲン画像、撮影写真、介護・保険関連の複写様式、処置セットなど、往診時の荷物は両手がふさがるほどの量になります。長期の患者になるとカルテは雑誌のような厚みになり、これを毎回持ち運ぶことになります。

問題は重さだけではなく、リスクです。個人情報を含むカルテは、車内に置きっぱなしにできません。団地や施設の狭い階段を、カルテの束を抱えたまま何度も往復することになる。これが毎日続く、と。

院内側の負担も同じように大きい状態でした。受付では、1日約100人分のカルテ出し・戻しに追われ、足元まで紙カルテが積み上がる光景も当たり前。閉院後もしばらくは「片付けと整理」だけで時間が過ぎ、残業が常態化していました。

つまり「現場で安全に・速く・正確に診ること」と「記録を正しく残すこと」が同時に求められているにもかかわらず、運用の仕組みがアナログなままでは限界が近かったのです。

解決の入口は“全部を変えること”ではなかった

──手書きで使えるDental eNoteとiPad
転換点になったのは、大掛かりなシステム刷新ではありませんでした。院長のパートナーであり事務長である奥さまが見つけたのが、MetaMoJi Dental eNote。レセコンや予約システムには手をつけず、「診療記録(ノート)」だけをまずデジタル化する、という現実的なスタートでした。

導入当初はスマートフォンのテザリングで運用していたものの、現場ではスピードが命だと判断し、すぐにセルラー回線対応のiPadに切り替え。さらに、院外(訪問)と院内(外来)でサブカルテを分け、データを軽く保ちながら安定して扱えるようにしました。

「往診分だけなら、2か月で全件をeNote化できた」と事務長は振り返ります。訪問患者のカルテはタブレット1台に集約され、ページが増えても荷物は重くならない。複写様式の事前準備や、院名・日付など似た書式を何度も手書きで転記する手間もなくなりました。結果として、往診チームは“両手いっぱいの紙”から“iPad”に置き換わり、団地の階段移動そのものが安全かつスムーズになりました。

何が変わったのか:移動、記録、受付、そして判断のスピード

変化は、移動のしやすさだけではありません。
まず、急患対応の質が変わりました。これまでは「カルテがないから対応を後回し」「院に戻ってから記録を正式化」という遅れが当たり前でしたが、いまは現場でタブレットを開けば必要な情報に即アクセスでき、その場で記録も残せます。結果として、移動のロスが減り、対応できる患者数も増えています。往診車を管制する院内コーディネーターとの情報共有もリアルタイム化し、「あとで確認します」がほぼ不要になりました。

次に、記録の質が上がりました。往診先でiPadのカメラを使い、口腔内写真や染め出し写真、咬合時の動画をその場で貼り付け、画像の上に手書きで注釈を入れることができます。かつては「デジカメで撮影→USBでパソコンに取り込み→印刷→カルテに貼る」という流れだった作業が、診療直後の1アクションになりました。紙に貼る・戻すといった事後処理が消えることで、帰院後に溜まる事務作業も激減します。iPadはアルコール綿での拭き取りもでき、衛生面への不安も抑えられました。

そして、院内受付の風景も変わりました。1日約100人分のカルテを出し、戻し、積み直す──という力技のオペレーションがほぼ不要になり、足元までカルテが積み上がることがなくなったことで、残業も大きく減りました。記録も“誰かのサブカルテが戻るまで待つ”必要がなくなり、同時書き込みが可能に。書いた文字をあとから移動・整形できるので、欄外に無理やり書き足す必要もありません。「内容を丁寧に残す」ことそのものが、現実的になったと言えます。

訪問での運用することにより1つ1つのアクションの効率が劇的に改善したことから、この仕組みは外来にも自然に広がっていきました。現在は、チェア10台それぞれに1台ずつ、受付には3台のiPadを配置。外来側のeNote化も約半分まで進み、紙カルテと併用しながら段階的に置き換えが進んでいます。若いスタッフほど抵抗は少なく、スムーズに浸透しているといいます。

“逃げない”訪問診療を、続けられる形に

やまもとファミリー歯科が取り組んでいるのは、単に「紙をやめました」「タブレットにしました」という話ではありません。テーマは「地域の最後の歯を、最後まで守り続けるにはどうするか」という問いです。

通院が難しくなった高齢者にとって、噛める・飲み込める・自分の口で食べられることは、そのまま生活の質=生き方に直結します。院長は「“ここまででいい”と決めるのは医療者ではなく患者側だ。訪問診療は逃げない心だ」と話します。往診は、単に義歯を入れるだけでなく、「もう一度食べられる状態」に戻す支援であり、その状態をできるだけ長く保つ支援です。

だからこそ、現場が疲弊して離脱してしまうやり方では続かない。重い荷物、情報の持ち運びリスク、カルテの山、戻り作業による残業──そうした“現場の三重苦”をデジタル化で取り除くことが、地域医療を守るための前提条件になっているのだと思います。

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