▶新規会員登録

記事

2014/02/10

第96回:知覚過敏抑制材料

象牙質知覚過敏(Dentin Hypersensitivity、以下DHと略)は、露出あるいは開口した象牙質に加えられた刺激によって象牙細管内組織液が動き、神経を刺激するためという”動水力学説”でおもに説明されている。それに基づき、①細管口を結晶物やレジン系材料あるいは結晶物と被膜でふさぐ、②神経を鈍麻させる、③組織液を凝固させるなどの方法が考えられ、それらに相当する製品も様々市販されている。ただ、DH治療ではプラシーボ効果が現われやすく、DH抑制材の評価はかなり難しい現状にある。ティースメイト ディセンシタイザーに至る各種の製品があり、それらを大まかに分類すると次のようになる。

  • バニシュ系:バーナル、Fバニシュ、ビバセンス
  • 無機材料系:サホライド、スマートプロテクト ソフト、ウルトライーズ、ナノシール、ティースメイト ディセンシタイザー
  • 有機材料系:スーパーシール5秒(シュウ酸カリウム)、MSコート ONE/F(ポリマー/シュウ酸)、グルーマ ディセンシタイザー/パワーゲル、デセンシー(グルタルアルデヒド-HEMA系)
  • ボンディング材系:ハイブリッドコート、シールドフォース プラス、G-ガード、PRGバリアコート (いずれもセルフエッチング、光照射型)
  • レジン添加型グラスアイオノマー系:クリンプロXTバーニッシュ

このように多種類の製品があるが、それらの比較評価はあまり行われておらず、どれを選択するか難しいところがある。最近の日歯保存誌2013年 56巻6号に上記のうちの6種類について、抑制材処理直後、24時間、1週間水中あるいは人工唾液中に浸漬後、象牙質ディスクの液体透過性(象牙細管からの漏洩度)測定およびSEM観察により比較した論文が掲載されているので先ず紹介する。試験材料はグルーマ ディセンシタイザー(GL)、スーパーシール(SS)、MSコートワン(MS)、ナノシール(NS)、ティースメイト ディセンシタイザー(TD)、シールドフォース プラス(SF)である。象牙質処理直後の透過性抑制率は、SS、GL(約40%)<MS、NS<TD<SF(約90%)の順となった。SEM観察の結果は、いずれの場合も象牙細管はかなりよく封鎖されていたが、開口している個所も認められ、その程度は透過性のデータとほぼ対応していた。人工唾液浸漬による透過性の変化を直後~1週間でくらべると、GL、SFでは増加、そのほかのものでは低下した。その低下の程度はSS<NS<MS、TDとなったが、これらの低下は人工唾液に由来するリン酸カルシウム系析出物生成の影響と考えられる。なお、水中浸漬では6種の材料とも透過性は増加した。

これら材料の臨床成績の報告はほとんどないが、この報告にもとづき、DH抑制効果についての筆者のコメントを記すとおよそ次のようになる。GL、SSは、処理直後のSEMおよび透過性の大きさ、人工唾液浸漬による透過性の増加あるいは低下が小さいことから、即効性および長期的にも効果は期待しにくそう。 MS、NSは、ほぼ似たような効果を示すと思われるが、即効性にはやや欠け、長期的効果はある程度期待できそう。TDは、即効性および長期的効果がかなり期待できそう。ここで長期的効果は人工唾液浸漬による透過性の低下の程度に基づいてのことであるが、口腔内では酸性飲食物の摂取により効果は薄れる可能性があり、DH再発の懸念はある。SFは、処理直後のSEMおよび透過性の低さから即効性が期待できるが、人工唾液中での透過性の経時的増加傾向からすると長期的効果には若干懸念が残る。6種の材料がDHに効く原理はいずれも象牙細管の封鎖であるが、SFではレジン系被膜で緊密にコートして封鎖するのに比べ、そのほかの5種の材料では有機物あるいは微細な無機物粒子で細管を塞ぐ方法であり、当然SFの封鎖性の方がすぐれ、臨床成績も良好なことが期待できそうである。しかし、残念ながらその詳しい臨床評価は今後に待つほかない。

そこで、別のレジン系材料について、最近の論文から無作為化臨床試験の結果を少し詳しく紹介する。それは、歯磨剤2種およびレジン系材料1種の効果を比較したものである(J Dent 2013年41巻8号)。コルゲートの普通の歯磨剤Cavity Protection Regular[0.76%モノフルオロリン酸塩(0.15%フッ素)含有]を対照群、コルゲートのDHとう蝕の予防・治療用歯磨剤Sensitive Fresh Stripe[有効成分として5.53%クエン酸カリウムおよび1.14%モノフルオロリン酸塩(フッ素0.15%)]、およびデンツプライのDH治療用シーラントSeal and Protectを試験群とし、18~75歳の被験者を各群25名に分け、2週、3月、6月でDHの評価、比較を行った。DHの評価は、シリンジでエアーをあて被験者の視覚的評価スケール(VAS、Visual Analog Scale;100 mmの直線の左端を痛みはない、右端を想像できる最高の痛みとして、被験者に線上に印しをつけてもらい、左端からの距離を測る)での回答から行った。その結果、開始時、2週、3月、6月でのVASスコアの平均値(カッコ内は範囲)はそれぞれ、対照歯磨剤群56(40-82)、49(25-80)、50(29-83)、48(29-75)、試験歯磨剤群56(40-82)、41(9-72)、31(6-52)、29(5-50)、シーラント群61(40-81)、12(0-58)、10(0-37)、8(0-25)であった。対照群にくらべ試験2群は有意にDHが低下した。とくにシーラント群では顕著に低下し、またその効果は2週~6月間持続した。以上のことから次のようなことがいえるであろう。①普通のフッ化物添加の歯磨剤では効果はない、②カリウム(プラスフッ化物添加?)添加の歯磨剤はある程度効果はあるものの、スコアが0になった人はおらず、また3月と6月で変化がないことから長期使用しても必ずしも効果は期待できそうもなく効果は限定的、③シーラントは2週~6月でスコア12~8と顕著に低く、またスコア0の人がおり、即効的で効果も長持ちする。このシーラントについて調べてみると、成分はリン酸系モノマー、多官能メタクリレート、シリカ、セチルアミンフッ化水素酸塩、光重合開始剤、アセトンなどである。このシーラントとSFの成分を比べてみると、SFには親水性のHEMAが添加されており、これが長期の臨床成績に影響する可能性もあるが、両者ともほぼ似たような成績になると思われる。

もう一つレジン系材料の優位性を示唆するものとして、Quint Int 2013年44巻7号掲載の最近のシステマティックレビューがある。このレビューによると、観察期間3~6月で満足すべき成績を示したのはCervitec Plus(バニッシュタイプ、チモール、クロルヘキシジンを含む酢酸ビニルコポリマーとアクリレートコポリマーのエタノール/水溶液)、SE Bond & Protect Liner F(SEBPLF)、レーザーであったという。クリアフィルSEBPLFは、リン酸系モノマーMDP、 HEMA、 BisGMAなどを含むプライマー、ボンディング材およびフッ化メタクリル酸コポリマー、Bis-GMA、 TEGDMAなど含有のライナーからなっている。これを取り上げたもとの2004年の論文を見ると、Single Bond(SB)(成分:HEMA、 BisGMA、グラスアイオノマー系ポリマー、エタノール、水など)やグルーマ(GL)も比較されている。VASの推移をみると、開始時はいずれの群も5.2、処理直後、10日、3月後の値はそれぞれ、SEBPLF1.4、1.8、2.2;SB1.7、3.1、3.5;GL2.3、2.9、3.8であった。これからすると、SEBPLFは即効的、長期的にも効果がありそうなことを示している。それにくらべ、レジン系ボンディング材ではあるがSBの効果は落ちており、レジン系であればよいというものではなく、適切なものを選択する必要のあることを示唆している。 GLはSBよりやや劣る結果となっている。

終りに、海外のDH抑制材について一言触れておこう。フッ化物添加バニシュ、カリウム塩、シュウ酸、グルーマなどが主流として使用されているが、最近はDH抑制効果を謳った歯磨剤が注目されているようである。長い歴史のある硝酸カリウム、フッ化スズなど添加の商品に加え、8%アルギニン、炭酸カルシウムからなるPro-Argin®を含む歯磨剤(アミノ酸であるアルギニンと炭酸カルシウムとの反応物が象牙細管をふさぐとされている)、リン酸カルシウムナトリウムシリケートからなるバイオガラス(NovaMin®)を含む商品(口腔内でカルシウム、ナトリウム、リン酸イオンを放出して炭酸ハイドロキシアパタイトを生成し、これが象牙細管をふさぐとされている)がある。さらに、従来からある5%硝酸カリウムと0.15%フッ素を含む歯磨剤に沸点28℃のイソペンタンを添加し、その口腔内での気化を利用してジェルを細かい泡に変えて、DH抑制効果を高めたとする商品(従来のチューブからの押し出しから、ノズルからの吐出に変わっている)も現れている。これら新商品の臨床的なDH抑制効果については定かではなく、検証中というところであるらしい。

DH抑制材料で決定的なものはない。それは口腔内環境は様々であることからやむを得ない面がある。DHは再発を繰り返しやすい傾向があるが、頻繁に通院するのは患者にとって負担であろう。この意味では海外で歯磨剤に焦点を当てているのは当を得たことと思われる。我が国は、う蝕予防のフッ化物添加の歯磨剤の導入に際し、世界から大きく後れを取った歯磨剤後進国であるが、DH 抑制歯磨剤についてはもう少し前向きに検討すべきではないかと思う。

(2014年2月7日)

追記:
3年ほど前に記した第61回コラムの内容は現在でもかなり参考になると思う。また、その際記したA&B液処理は、今回見た様々な処理表面のSEMにくらべても、よく象牙細管が封鎖されていることが確認できた。

記事一覧
プロフィール 第122回:清涼飲料の酸蝕性と酸蝕症(2016/08/01)第121回:セラミックインレー/アンレーの寿命(2016/07/12)第120回:最近のう蝕治療の考え方(2016/06/03)第119回:患者の望む歯科医療(2016/05/10)第118回:根管治療に関する記事へのコメント(2016/03/31)第117回:レジン修復と二次う蝕(2016/03/01)第116回:歯科インプラントは万能かそれとも歯の保存に努力すべきか(2016/02/01)第115回:ハイブリッドレジン、ジルコニアの接着(2015/12/16)第114回:ハイブリッドレジン製CAD/CAM冠の脱離(2015/11/10)第113回:歯周病にまつわる最近の論文から(2015/10/08)第112回:光線力学的治療(Photodynamic therapy, PDT)の医療における利用(2015/09/01)第111回:慢性歯周炎治療におけるスケーリング・ルートプレーニングと補助療法の効果(2015/08/03)第110回:破折歯の診断と処置(2015/06/29)第109回:グラスファイバーポストを利用した支台築造(2015/05/18)第108回:バルクフィルレジンについて考える(2015/04/07)第107回:う蝕乳臼歯の治療の見直し(2015/03/03)第106回:臼歯のコンポジットレジン修復物の寿命(2015/01/19)第105回:CAD/CAMの保険導入と今後(2014/12/02)第104回:非う蝕性歯頸部欠損の修復(2014/10/27)第103回:MTAをめぐる動き(2014/09/18)第102回:EPAとDHA神話の行方(2014/08/12)第101回:深在性う蝕の治療―銅セメントはよみがえるか?(2014/07/22)第100回:歯科における接着―その源流(2014/06/11)第99回:インプラントの不具合と医療機関の対応(2014/05/02)第98回:歯科のかかわりが疑われる医原性疾患(2014/04/09)第97回:ノンクラスプデンチャーについて考える(2014/03/07)第96回:知覚過敏抑制材料(2014/02/10)第95回:根管治療の新しい試み(2014/01/06)第94回:根尖性歯周炎の全身への影響と治療(2013/12/03)第93回:歯の保存かインプラントか(2013/11/14)第92回:歯耗(Tooth Wear)の発生状況とそのリスク因子(2013/10/24)第91回:予防指向の歯科医療(2013/10/24)第90回:初期う蝕の革命的処置法(2013/10/24)第89回:う蝕治療の再考を!(2013/10/24)第88回:国民の医療・保健への歯科界の貢献に期待する(2013/10/24)第87回:修復物のリペア(2013/10/24)第86回:英国版歯科疾患実態調査と歯周診査のありかた(2013/10/24)第85回:早急に"代用合金"から脱皮を!(2013/10/24)第84回:根管治療歯は時限爆弾?(2013/10/24)第83回:歯質接着システムは進化している?(2013/10/24)第82回:生活歯髄治療の成績(2013/10/24)第81回:薬事工業生産動態調査から見た歯科材料の動き(2013/10/24)第80回:平成23年歯科疾患実態調査について(2013/10/24)第79回:深在性う蝕の治療―窩底軟化象牙質をどうするか(2013/10/24)第78回:根管治療成績について考える(2013/10/24)第77回:歯みがき後のうがい ―フッ化物配合歯磨剤のう蝕予防効果を高めるには―(2013/10/24)第76回:成人のう蝕予防(2013/10/24)第75回:メタルボンドか、オールセラミッククラウンか(2013/10/24)第74回:糖尿病対策と歯科への期待(2013/10/24)第73回:インプラント義歯の保険導入(2013/10/24)第72回:不況は米国の歯科界にどのような影響を及ぼしているか(2013/10/24)第71回:う蝕乳臼歯処置の新たな選択肢(2013/10/24)第70回:根管治療の見直しと新しい試みを!(2013/10/24)第69回:垂直歯根破折の処置(2013/10/24)第68回:コンポジットレジンのリペア(2013/10/24)第67回:Siloraneモノマーをベースとする画期的コンポジットレジン(2013/10/24)第66回:歯科金属アレルギーと慢性疲労症候群(2013/10/24)第65回:根管の化学的清掃(2013/10/24)第64回:インプラントをめぐるせめぎあい(2013/10/24)第63回:メタボリックシンドロームと歯周病(2013/10/24)第62回:東日本大震災によせて(2013/10/24)第61回:象牙質知覚過敏の治療(2013/10/24)第60回:支台築造をめぐって(2013/10/24)第59回:短縮歯列(2013/10/24)第58回:インプラント歯科の教育をどうするか(2013/10/24)第57回:くさび状欠損の原因は歯のくいしばり?(2013/10/24)第56回:英国における最近の欠損補綴治療(2013/10/24)第55回:う蝕治療にどう対応するか?(2013/10/24)第54回:根管充填をめぐる話―日本歯内療法学会から(2013/10/24)第53回:う蝕が減るとどうなる?(2013/10/24)第52回:接着性レジンシーラーの前途はどうなる?(2013/10/24)第51回:ビスフェノールA(BPA)をめぐる最近の動き(2013/10/24)第50回:総義歯の将来(2013/10/24)第49回:インプラントブームについて考える(2013/10/24)第48回:ミニマルインターベンションに基づく修復(2013/10/24)第47回:金パラ(2013/10/24)第46回:東京デンタルショー2009(2013/10/24)第45回:歯と全身の病気の関係(2013/10/24)第44回:増原英一先生のご逝去を悼んで(2013/10/24)第43回:歯耗 -Tooth Wearー(2013/10/24)第42回:ジルコニアはフッ酸でエッチングできる?(2013/10/24)第41回:ポリフェノールと歯科における効用(2013/10/24)第40回:修復物からのフッ素放出の効果(2013/10/24)第39回:インパクトファクター(2013/10/24)第38回:英国の歯科治療(2013/10/24)第37回:ホルムクレゾールをめぐる論争(2013/10/24)第36回:ファイバーポストについて(2013/10/24)第35回:セルフエッチングシステムについて考える(2013/10/24)第34回:日本デンタルショー2008から(2013/10/24)第33回:義歯と義歯安定剤(2013/10/24)第32回:歯頸部欠損の修復(2013/10/24)第31回:セルフアドヒーシブ・ルーティングセメント(2013/10/24)第30回:接着ブリッジ(2013/10/24)第29回:日本歯科保存学会春季学術大会講演抄録集を見て(2013/10/24)第28回:日本歯科理工学会学術講演会から(2013/10/24)第27回:根管治療結果の大規模調査(2013/10/24)第26回:光重合について考える(2013/10/24)第25回:インプラントの普及とブリッジ(2013/10/24)第24回:アマルガムは何で代替されたか(2013/10/24)第23回:歯科におけるミニマル・インターベンション(2013/10/24)第22回:日本歯科保存学会講演抄録集を見て(2013/10/24)第21回:アマルガムはどうなっているか(2013/10/24)第20回:歯を失う原因(2013/10/24)第19回:5月の学会学術講演会の講演集から(2013/10/24)第18回:レジンの硬化や接着に好ましくない影響を及ぼすもの(2013/10/24)第17回:日本歯科保存学会に出席して(2013/10/24)第16回:むし歯予防週間によせて(2013/10/24)第15回:水酸化カルシウムとFC(続)(2013/10/24)第14回:水酸化カルシウムとFC(2013/10/24)第13回「納豆でダイエット」と食育(2013/10/24)第12回:デュアルキュア(2013/10/24)第11回:改正薬事法と歯科器材(2013/10/24)第10回:歯のホワイトニング(2013/10/24)第9回:最近のコンポジットレジン(2013/10/24)第8回:ファイバーポスト(2013/10/24)第7回:HEMAのはなし(2013/10/24)第6回:根管治療かインプラントか(2013/10/24)第5回:MT教授の特別講演(2013/10/24)第4回:金属アレルギーと歯科治療(2013/10/24)第3回:接着歯内療法(2013/10/24)第2回:合着と接着(2013/10/24)第1回:歯科における接着の話(2013/10/24)

新着ピックアップ


第112回歯科医師国家試験の総評と今後の展望

難易度高過ぎ!?現役歯科医師らが歯科医師国家試験に物申す

ガムを噛んで唾液を出すだけ!唾液検査用ガム

医療広告ガイドライン対策