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2013/10/24

第56回:英国における最近の欠損補綴治療

前回米国での一般開業歯科医(GP)のう蝕治療への対処の仕方についてのアンケート調査結果を紹介した。今回は英国でのGPの欠損補綴治療についての調査の話である。英国の国民健康保険制度(National Health Service、 NHS)は2006年4月に大改革が行われ、歯科医への報酬はそれまでの診療行為別の出来高払い制から、治療の複雑さ、難易度を反映させたバンド1〜バンド3という3段階での契約請負制となった(第38回参照)。補綴治療はバンド3に分類され、歯科医は12UDA(Units of dental activity)の報酬を受け取る(バンド1は1UDA、バンド2は3UDA)。1UDAは平均£25(一律ではなく契約先や地域で変わり、£17〜40くらいの幅があるという)、したがって補綴治療をすると£300(£1=135として約4万円)になる。ここから、歯科医は技工および材料の費用もまかなう。こうした新制度導入後のGPの欠損歯の治療計画についての情報はこれまでほとんどなかったそうである。ウェールズの500名のGPを無作為に選んでアンケートを郵送して217名から回答を得、それをまとめた調査報告が“英国の一般歯科診療における欠損歯の治療計画:最近の動向”と題して、Journal of Oral Rehabilitation 37巻7号509-517頁(2010)に掲載されている。

調査内容は、年齢、性別、卒後資格、卒後経験、診療のタイプ、治療費の扱い、いろいろな治療法の選択頻度、治療経験と自信、現在の診療における学部教育の充足度、治療計画時に適用外とする選択肢に影響する因子、今後トレーニングを受けたい領域、それと37歳女性の上顎第一大臼歯が欠損(ほかに欠損はない)しているというモデル症例の処置についてである。回答者についてのおもな数字は次のようである。男性76%; 年齢35-64歳88%(35-44歳25%、45-54歳41%、55-64歳22%); 資格取得1975-84年41%、85-94年25%、1995-2004年19%; フルタイム診療79%; 診療所オーナー86%; 診療報酬 NHS 21%、自費11%、両者混合で自費50%以上は35%、 NHS 50%以上は33%。

どのような治療をどの程度行っているか、それに対する自信はどうかの回答をまとめたのが次表である。両端接着ブリッジおよびとくにインプラントはあまり行っておらず、これらにはあまり自信もない。自信を持ってよく行っているのはアクリル部分義歯、自信はあってもあまりやらないのはメタル義歯、通常ブリッジとなっている。

治療の種類とその治療をする頻度、自信(回答者の割合、%)
上顎第一大臼歯欠損症例で選択する処置(複数回答可)(回答者の割合、%)

治療の種類
治療の頻度
自信

ほとんどしない(0-25%)
時々(26-50%)
頻繁〜いつも(51-100%)
ある、非常にある

アクリル義歯
12
29
59
100
17

コバルト-クロム義歯
42
40
18
100
21

一端接着ブリッジ
42
40
18
94
22

両端接着ブリッジ
68
22
9
79
27

一端通常ブリッジ
38
42
20
99
42

両端通常ブリッジ
37
38
25
99
64

インプラント
87
7
6
19
22
処置せず 54

 

上顎第一大臼歯欠損症例の処置では、54%のGPが臨床的には必ずしも必要ではないとして“処置しない”を選択している。なお、“処置しない”は、NHSを主体としている場合には63%、自費主体の場合には37%という差がある。口腔保健の面からは治療は不要としつつも、自費の場合には審美面の考慮も入ってくることがこの差となっているらしい。最多の選択は通常の両端ブリッジ64%、次いで一端ブリッジ42%、接着ブリッジ、インプラント、Co-Cr義歯がそれぞれ大体20%強、最低はアクリル義歯17%となっている。

現在の診療との関係から見て歯学部でのトレーニングは適当かという質問に対する回答は: 部分義歯 十分70%、適当27%; 通常ブリッジ 十分50%、適当34%; 接着ブリッジ 十分30%、適当30%、不足40%; インプラント 不足96%であった。卒後教育では63%が職業的トレーニングは受けておらず、75%が卒後いかなる資格も取得しなかった。今後トレーニングを受けたい領域は: インプラント50%、接着ブリッジ23%、次いでCo-Cr義歯、通常ブリッジが16%前後で続き、最低がアクリル義歯8%であった。

本調査から、インプラントに自信のないGPが81%に達することがわかった。しかし、インプラント治療は卒後教育を必要としており、GPがこのトレーニングを受けようとしないかぎり、この選択肢に自信を持てることはない。最近では歯学部学生にインプラントを教えることが増えつつあり、年長と若年のGPの間でインプラントの知識と技術において世代間ギャップを生む可能性がある。インプラントのほかに接着ブリッジも自信を持てない領域である。部分義歯や通常ブリッジでは100%近い回答者が自信を示したのにくらべ、両端接着ブリッジでは21%の回答者が自信なしとした。従来ブリッジにくらべ切削の少ないMI治療である接着ブリッジの恩恵を患者が受けられるように、学部および卒後の継続的な能力開発に留意する必要があるとしている。そうした一方、現在のカリキュラムでは1984年までの教育とは異なり、部分義歯や通常ブリッジの学部での教育と実習は減っているが、本調査からするとそれら治療は引続き多くなされており、学部および継続的専門トレーニングプログラムでもこれら治療の選択肢を維持できるようにする必要があると述べている。

歯科医ができるだけよい治療をしようとしてもおもな障害が二つある。それは、金銭的な問題とトレーニング不足に関係したことである。治療コストについて多くの回答者が指摘しているように、NHSでの制限が治療を狭めている。NHSは臨床的な自由度があるとしているが、12UDAは固定料金であり、できることをコストによって決めており、そのコストの制限が治療計画に影響している。最適な治療計画に必要な適切なトレーニング不足も浮き彫りになった。接着ブリッジととくにインプラントではその懸念が大きい。継続的専門教育は知識と能力の向上に主要な役割を果たすが、本調査から明らかなのは、GPの自信のない領域は学部での教育が不十分な領域である。ほとんどの回答者が学部でインプラントのトレーニングはわずかあるいは全く受けていないことを認めている。これは、回答者の約半数 (54%)が1984年までの卒業であることを考えれば驚くに当らない。

NHSとGPの考え方の違いは、おもに新しいNHS契約での報酬と技工のコストに関係している。多くのGPはインプラントやCo-Cr義歯はNHS患者には適用せず(それぞれ74%、31%)、アクリル義歯は自費患者には適用しないとしている(8%)。これは、より複雑で高価な治療は自費にする傾向を示唆している。このことはモデル症例に対する回答にも現れており、NHSでは処置せず、自費では通常ブリッジ処置をする傾向にあった。

英国のNHSでの治療状況からは、歯科医が患者に対して適切と考える治療を診療報酬との絡みで現実的には行いにくい面があることから、不本意な治療をしている姿も想像され、これは患者にとっても不幸である。NHSにくらべ、現在の我が国の健康保険制度は少なくとも患者にとっては恵まれている。6年前に導入されたNHSの新制度であるが、歯科医療関係者や患者の不満を抱えたままこれで定着するのだろうか?

(2010年9月26日)

付記
2009年8月に公表された報告書“Dental Earnings and Expenses, England and Wales, 2007/08” によると、2007〜2008年でのNHSにかかわる約2万人の歯科医の年間平均課税所得は約8.9万ポンド(約1,200万円)である。経営/診療あるいは診療のみ、自費診療の程度などにより、6〜16万ポンドの差がある。この88頁からなる報告書の詳細はhttp://www.ic.nhs.uk/pubs/dentalearnexp0708で閲覧できる。

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