第31回:セルフアドヒーシブ・ルーティングセメント

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近年、接着のための前処理不要というセルフアドヒーシブ・ルーティングセメント(SALCと略)が注目を浴びている。今年に入ってクリアフィル・SA ルーティング(クラレ)、リライエックス・ユニセム(3M ESPE)(米国では2002年と2007年に発売)が相次いで発売されたが、2005年にはマックスセム(Sybron/Kerr)(米国では2004年発売)、2007年にジーセム(ジーシー)、スマートセム(デンツプライ三金)がすでに発売されている。SALC タイプのセメントとしては、これまで、グラスアイオノマーセメント(GICと略)およびそれを改良したレジン添加型GICがあったが、それをさらに進化させたものが最近のSALCであるといってよい。そのSALCでは、先ず起きるレジンの重合だけでなく、フィラーであるフッ素含有グラスアイオノマー系ガラスと酸性のモノマーおよびその重合物とのイオン的な反応も想定されている。酸性モノマーの重合は速いため、それがポリマーとなった後にガラスと反応するような感じとなる。したがって、従来のGICでのポリカルボン酸とガラスの反応に類似してくることになり、グラスアイオノマー系レジンセメントであるといえる。一方、SA ルーティング、スマートセムはレジンの重合のみのコンポジットレジン系セメントである。 新しいタイプのSALC は、2002年にまず粉液型のユニセム(アプリカップ)、さらに2004年にペースト型のマックスセムがそれぞれ米国で発売され、ペースト型SALCが注目を集めるようになった。2004年は、従来粉液型であった3Mのビトレマーがペースト化されて米国でリライエックス・ルーティングプラスセメントとして発売された時期でもあり(我が国では2007年ビトレマーペーストとして発売)、この頃からペースト化が一つの流れとなったようである。 ペースト型SALCとして先行発売されたマックスセムは性能的に見劣りがし、米国では本年6月で発売中止、その代わりにマックスセムエリートが登場している。この新製品では、化学重合開始剤(キャタリスト)として通常使われている過酸化ベンゾイル(BPO)/アミン系の不使用と新しい開始剤の採用が強調されている。その開始剤は、光重合にカンファーキノン/アミン、化学重合にハイドロパーオキサイド/チオ尿素であるらしい。基本となる酸性モノマーはKerr従来からのリン酸系モノマーであるグリセリンジメタクリレートフォスフェート(GDMP)であり、ジメタクリレート、トリアクリレート、HEMA、水、それと従来品と同じガラスフィラー、シリカなどが含まれているようである。この新製品では、歯質への接着強さは従来品の約2倍になるとされ、また、従来品では必要であった冷蔵保管が不要となっている。 SALCの新製品としてDentsply/Caulkのスマートセム2もある。これと商品名類似のスマートセムがデンツプライ三金から発売されているが、成分的に全くの別物である。この新製品の強調点は酸に強い新重合開始剤の採用である。その詳細は明らかではないが、光重合では酸性モノマーと反応しないアミン、化学重合ではハイドロパーオキサイド/非アミン系還元剤となっており、マックスセムエリートと似たようなところがある。基本となる酸性モノマーは、Dentsply従来からのリン酸系モノマーであるPENTA(ジペンタエリスリトールペンタアクリレートフォスフェート)である。 成分的に最も革新的なのは、ユニセムであろう。ユニセム以外は、各社従来からのリン酸系モノマーを利用しているが、ユニセムではモノマー1分子中に複数のリン酸基とメタクリレート基を含んでいるとされ、これは従来にはないタイプのものである。その詳細は不明であるが、ジペンタエリスリトールをベースにした2〜5個のリン酸基およびメタクリレート基を含むモノマーの混合物ではないかと筆者は想像している。(なお、これと構造類似のモノマーとしてDentsplyのPENTAがあり、これはジペンタエリスリトールに1個のリン酸基と5個のアクリレート基が付いていることになっている)。さらに、開始剤として水溶性の過硫酸塩/スルフィン酸塩(粉液型では過硫酸塩/バルビツル酸/酢酸銅)(過硫酸塩はビトレマーペーストでも利用)、未反応のリン酸基を中和するための水酸化カルシウムの添加などがユニセムでの新しい試みといえよう。ユニセムには粉液型とペースト型があるが、両者では開始剤が異なっていることもあり、同等の性質を示すとは考えにくい。発売後かなり経過している粉液型の文献データはあるが、ペースト型では少なく、現時点での両者の比較はむずかしい。これまでに公表されているデータからは、ペースト型は粉液型にくらべ耐久性が劣っているようである。エナメル質にくらべ象牙質での接着強さが大きいようであるが、これには開始剤が大きく影響しているように思われる。 海外製品では新しい試みが取り入れられているが、国産品はいずれも従来技術の延長で新鮮味に乏しい。(これには、我が国における歯科材料の審査、承認のやりかたに問題があり、それがメーカーの新製品創出意欲に影響を及ぼしているのではないかと筆者は憂慮している)。SAルーティングは、基本的に従来のパナビアF2.0の延長線上にあり、リン酸系モノマーであるMDP の増量が特徴のようであるが、歯質への接着強さはプライマー利用のパナビアよりも落ちる傾向にある。なお、このことは、現在我が国で発売されているSALCのすべてに当てはまる傾向ではある。 これまでに報告されているデータの傾向からすると、前処理不要なSALC はセラミックス、金属などにはかなりよい成績を示すようであるが、歯質に対しては前処理を含むレジンセメントと同じような結果を望むのはむずかしい現状となっている。これは原理的にやむを得ないことだろうと思う。 (2008年8月25日)
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