▶新規会員登録

記事

2015/04/07

第108回:バルクフィルレジンについて考える

“レジンは重合収縮するからその影響を減らすには積層充填するのがいい”、と考えている歯科医療関係者が多いのではないかと思う。筆者も頭の中では多分それはその通りだと考えていた。しかし、近年、従来型レジンとは異なり、フィラーやモノマーなどを工夫して重合収縮ストレスを減らし、光透過性を高めることにより、4~5 mmまで1回で充填できると謳ったバルクフィルレジン(Bulk Fill、以下BFと略)が種々登場して注目を集め、2012年以降BFに関して様々な報告がなされてきた。BFには高粘度と低粘度タイプがある。後者は裏層用とされ、咬合面まで2 mmを残してまず充填し、その上に従来型レジンを積層充填する。前者では充填深さが4 mm以下であれば一括充填できるとされている。このようなBFについて、アコースティック・エミッション(Acoustic Emission、以下AEと略)(追記参照)という新手法を用いて歯質-レジン界面の接着欠陥分析やそのほかについて種々検討した結果がJ Dentの最新号(2015年4号)に掲載されており、まずそれを紹介する。

BFの高粘度タイプ2種(SonicFill、SFとTetric N-Ceram Bulk-Fill、TNB)および低粘度タイプ2種(Filtek Bulk-Fill、FBとSureFil SDR Flow、SDR)、従来型レジンの高粘度および低粘度(フロワブル)タイプの各1種(Filtek Z250とFiltek Z350 XT Flowable)について、重合収縮率、弾性率、収縮ストレスの測定、および重合中の歯質-レジン界面での欠陥発生の様子をAE法で測定、解析した。AE測定では、長さ5、幅4、深さ3 mmの一級窩洞をリン酸エッチ、プライマー・ボンディング材(Scotchbond Multi-Purpose、SBMP)で処理、各レジンを充填して40秒光照射し、2,000秒間測定した。

高粘度レジンにくらべ、低粘度レジンは収縮が大きく、弾性率は低く、収縮ストレスは小さかった(ただし、フロワブルのみ大きかった)。10分後の収縮率は、高粘度レジンではBFのSF 2.1とTNB 2.2%、従来型レジンのZ250 2.1%であり、低粘度レジンでは、BFのSDR 3.0とFB 3.1%、フロワブルのZ350 3.5%。収縮ストレスは、SDR 1.7、FB 2.2 MPa、SF、TNB、Z250の3種は2.4 MPa、Z350は3.5 MPa。AEイベント数は、少ないものから順に並べると、SDR 6.0、SF 6.6、FB 6.8、TNBとZ250が7.0、Z350F 12.6となり、低粘度BFのSDRで最も低く、フロワブルで最も高かった。収縮ストレスが大きいほど歯質-レジン界面での破壊が多くなった。高粘度レジン3種は同じような結果であったが、低粘度レジンでは、BFレジン2種は収縮ストレス、界面破壊の点でフロワブルよりよい結果となった。収縮ストレスとフィラー含有率、収縮率、弾性率との相関性は弱かったが、AEイベント数とでは相関係数0.95という強い相関性を示した。AE測定結果から、遅い重合速度、低収縮レジンは歯質界面での破壊抵抗性を高めることが分かった。また、界面破壊は光硬化開始後すぐに起きはじめ、500秒以内に多くの破壊が起きた。

この論文ではレジンの種類にかかわらず同じ接着システム(リン酸エッチ、SBMP)を用いているが、接着システムが変わるとAEにも違いが生ずることが同じ研究グループから2013年のJ Dent Res1号に報告されている。長さ4、幅3、深さ2 mmの1級窩洞にハイブリッドレジン(Filtek-Z250), フロワブルレジン (Filtek-Z350 flowable)、およびシロランベースのレジン(Filtek-P90)を充填した。接着システムは、Z250には、リン酸エッチング後にSBMPとSingle Bond 2(SB)、セルフエッチタイプのClearfil SE Bond(CFSE)とEasy Bond(EB)、P90には専用のセルフエッチプライマーとボンディング材をそれぞれ用いた。40秒光照射し、2,000秒までのAEを測定した。なお、Z250/SBMPでは初期の5秒間指数関数的に照射強度を強め、その後最大強度で40秒照射という2段照射も行った。歯質-レジン界面のSEM観察も行った。レジンについては、収縮率、収縮ストレス、曲げ弾性率を測定した。データ数が少ないが、筆者が計算したところ、収縮ストレスとAEイベント数および収縮率との相関性はよかったが、弾性率との相関性は弱かった。

Z250をCFSEとEBで接着した場合、とくに初期の20秒以内に多くのAEイベントが検出された。P90では光照射後40秒からAEイベントが始まった。Z350/SBMPでは硬化開始直後に始まり、その後も多くのイベントが継続的に検出された。Z250/SBMP/2段照射では初期段階でのAEイベント数は1段照射にくらべ有意に少なかった。SEM観察では、Z250/EBを除きすべての場合にエナメル-レジン界面にギャップは認められなかった。しかし、象牙質-レジン界面ではおもに窩底部に多くのギャップが見られ、その幅はZ350/SBMPでは他にくらべ広く、P90では狭かった。収縮率が低く重合反応の遅い(収縮ストレスの低下につながる)レジンはAEイベントが少なく、界面破壊が減少した。

P90は、低収縮で硬化速度遅く、最も収縮ストレス小さく、AEイベントは他にくらべ少なかった。このことはSEM観察で象牙質-レジン界面のギャップが狭かったことと対応していた。それとは対照的に、Z350は最も大きな収縮、収縮速度、収縮ストレス、AEイベント数となった。このレジンではSEM観察で象牙質-レジン界面に最大のギャップが認められたが、これはレジンの収縮によって界面に生じた破壊がAEイベントとして検出されたことを示している。

4種の接着材はそれぞれ異なるAE発生パターンを示した。リン酸エッチのSBMPとSBではAEイベントが1,200秒を超えても起きていたが、セルフエッチのCFSEとEBでは初期の20秒以内に非常に多数のAEイベントが発生し、500秒までに検出されなくなった。比較的高い接着強さが期待されるリン酸エッチ処理の接着材では、初期に良好な接着が得られ、その後界面での破壊が徐々に進むと考えられる。一方セルフエッチ接着材では、硬化の初期段階で急速に界面破壊が進み、500秒までにわずかのAEイベントを起こしつつ象牙質界面での収縮ストレスを解放すると思われる。さらに、CFSEとEBでは、弱いシグナルの間に高振幅の強いシグナルが現われたが、これは界面でのひどい脱離が生じていることを示している。SEM観察ではEBのみにエナメル-レジン界面にギャップが認められたが、これは、ほかの接着材と比べ、EBでは初期に比較的強いシグナルが最も多く集中的に検出されていることと対応しているように思われる。

次に硬化の観点からBFを眺めてみよう。メーカー公表の硬化深さは、ISO4049規格(光照射して得られる重合物底部の未硬化部分をスパチュラでかきとり、残った硬化物の1/2の長さ)で測定されているが、ビッカース硬さ(VH)や重合率測定を基にして得られる数値と比較すると、ISOの数値は過大評価になっているという報告が少なからずある。例えば、5種のレジンの20秒照射時の測定例では、VHを表面から0.1、0.2、0.5、1~5 mmは0.5 mmごと、それ以上は1 mmごとに、それぞれ測定して得られたデータから作成した曲線をもとに、得られる最大硬さの80%の硬さに相当する深さを求めた。最大硬さは表面に近い0.1 mmではなく、0.2~1.0 mmの深さであった。従来型レジンFiltek Supreme Plus、低収縮・従来型レジンFiltek Siloraneおよび3種のBFではそれぞれ、ISO法で2.7、2.1、4.9~6.5 mm、VH法で1.5、2.0、2.5~4.0 mmであった(Dent Mater 2012)。

ところが、次のような報告がある。BF7、ナノハイブリッド5、フロワブル2種のレジンを用い、2、4、6 mmの厚さのレジンに20秒照射し、得られた硬化物を37℃水中に24時間保管してから表面と底面のVHを測定してその比を計算した。それが80%以上であればよいと評価した。2、4 mmでは底面/表面比はすべてのレジン、6 mmではBFの4種が80%以上であった。従来型レジンの多くは4 mmであれば80%以上を示したが、6 mmでは全てそれ以下であった(Clin Oral Invest 2014)。また、5種のBFは20秒照射で4 mm深さにおける底面/表面比はすべて80%以上という報告がある(Oper Dent 2014)。この2報告からすると、硬化はISO基準並みに保証できるかも知れないという気もするが、いずれの報告でも測定まで硬化物を37℃水中に24時間保管しており、その間に硬化が進むことを考えると、結果にはかなり疑問が残る。BFは従来型レジンとくらべ、硬化深さは大きくなっていることは事実であるが、メーカー公表どおり4 mmまでよく硬化するかは必ずしも保証の限りではない可能性があると筆者は思っている。

臼歯部の大きな修復において多数回の積層充填を行うと、重合中に咬頭偏位を起こす可能性があるとされるが、積層充填する場合、一括あるいは1 mmの積層充填より、低収縮レジンを用いて2 mm程度の積層充填を行うのがよいという(Oper Dent 2014)。必要以上に積層充填を繰り返さずに、収縮ストレスが低くなるような裏層用バルクフィルレジンを選べば、最低の充填回数で修復が済むようになってきているように思われる。

(2015年4月5日)


(追記)
(1)現在我が国で市販されているバルクフィルレジンは次の5種である。低粘度タイプのエスディーアール(デンツプライ)、ビューティフィル バルク フロー(松風)、バルクベース(サンメディカル)。いずれも、咬合面からの深さ2 mmを残しそれより歯髄側の窩洞を一括充填してから咬合面を従来型レジンで修復することになっている。このように2回に分けての修復ではなく、深さ4 mm以下の窩洞であれば咬合面まで一括充填できるとしているものに高粘度タイプのソニックフィル(カボデンタル)、ビューティフィル バルクがある。

(2)アコースティック・エミッション(Acoustic Emission, AE): 材料が変形あるいは破壊する際に、内部に蓄えていた弾性エネルギーを音波(弾性波、AE波、主に数10kHz~数MHzの超音波領域)として放出する現象。このAE波を材料表面に設置したAEセンサにより電気信号に変換して検出し、 破壊や変形の様子をリアルタイムで非破壊的に評価できる。AEは材料が破壊に至る前の小さな変形や微小クラックの発生に伴って発生するので、 AEの発生挙動を捉えることで、 材料や構造物の欠陥や破壊を発見、予知できる。

記事一覧
プロフィール 第122回:清涼飲料の酸蝕性と酸蝕症(2016/08/01)第121回:セラミックインレー/アンレーの寿命(2016/07/12)第120回:最近のう蝕治療の考え方(2016/06/03)第119回:患者の望む歯科医療(2016/05/10)第118回:根管治療に関する記事へのコメント(2016/03/31)第117回:レジン修復と二次う蝕(2016/03/01)第116回:歯科インプラントは万能かそれとも歯の保存に努力すべきか(2016/02/01)第115回:ハイブリッドレジン、ジルコニアの接着(2015/12/16)第114回:ハイブリッドレジン製CAD/CAM冠の脱離(2015/11/10)第113回:歯周病にまつわる最近の論文から(2015/10/08)第112回:光線力学的治療(Photodynamic therapy, PDT)の医療における利用(2015/09/01)第111回:慢性歯周炎治療におけるスケーリング・ルートプレーニングと補助療法の効果(2015/08/03)第110回:破折歯の診断と処置(2015/06/29)第109回:グラスファイバーポストを利用した支台築造(2015/05/18)第108回:バルクフィルレジンについて考える(2015/04/07)第107回:う蝕乳臼歯の治療の見直し(2015/03/03)第106回:臼歯のコンポジットレジン修復物の寿命(2015/01/19)第105回:CAD/CAMの保険導入と今後(2014/12/02)第104回:非う蝕性歯頸部欠損の修復(2014/10/27)第103回:MTAをめぐる動き(2014/09/18)第102回:EPAとDHA神話の行方(2014/08/12)第101回:深在性う蝕の治療―銅セメントはよみがえるか?(2014/07/22)第100回:歯科における接着―その源流(2014/06/11)第99回:インプラントの不具合と医療機関の対応(2014/05/02)第98回:歯科のかかわりが疑われる医原性疾患(2014/04/09)第97回:ノンクラスプデンチャーについて考える(2014/03/07)第96回:知覚過敏抑制材料(2014/02/10)第95回:根管治療の新しい試み(2014/01/06)第94回:根尖性歯周炎の全身への影響と治療(2013/12/03)第93回:歯の保存かインプラントか(2013/11/14)第92回:歯耗(Tooth Wear)の発生状況とそのリスク因子(2013/10/24)第91回:予防指向の歯科医療(2013/10/24)第90回:初期う蝕の革命的処置法(2013/10/24)第89回:う蝕治療の再考を!(2013/10/24)第88回:国民の医療・保健への歯科界の貢献に期待する(2013/10/24)第87回:修復物のリペア(2013/10/24)第86回:英国版歯科疾患実態調査と歯周診査のありかた(2013/10/24)第85回:早急に"代用合金"から脱皮を!(2013/10/24)第84回:根管治療歯は時限爆弾?(2013/10/24)第83回:歯質接着システムは進化している?(2013/10/24)第82回:生活歯髄治療の成績(2013/10/24)第81回:薬事工業生産動態調査から見た歯科材料の動き(2013/10/24)第80回:平成23年歯科疾患実態調査について(2013/10/24)第79回:深在性う蝕の治療―窩底軟化象牙質をどうするか(2013/10/24)第78回:根管治療成績について考える(2013/10/24)第77回:歯みがき後のうがい ―フッ化物配合歯磨剤のう蝕予防効果を高めるには―(2013/10/24)第76回:成人のう蝕予防(2013/10/24)第75回:メタルボンドか、オールセラミッククラウンか(2013/10/24)第74回:糖尿病対策と歯科への期待(2013/10/24)第73回:インプラント義歯の保険導入(2013/10/24)第72回:不況は米国の歯科界にどのような影響を及ぼしているか(2013/10/24)第71回:う蝕乳臼歯処置の新たな選択肢(2013/10/24)第70回:根管治療の見直しと新しい試みを!(2013/10/24)第69回:垂直歯根破折の処置(2013/10/24)第68回:コンポジットレジンのリペア(2013/10/24)第67回:Siloraneモノマーをベースとする画期的コンポジットレジン(2013/10/24)第66回:歯科金属アレルギーと慢性疲労症候群(2013/10/24)第65回:根管の化学的清掃(2013/10/24)第64回:インプラントをめぐるせめぎあい(2013/10/24)第63回:メタボリックシンドロームと歯周病(2013/10/24)第62回:東日本大震災によせて(2013/10/24)第61回:象牙質知覚過敏の治療(2013/10/24)第60回:支台築造をめぐって(2013/10/24)第59回:短縮歯列(2013/10/24)第58回:インプラント歯科の教育をどうするか(2013/10/24)第57回:くさび状欠損の原因は歯のくいしばり?(2013/10/24)第56回:英国における最近の欠損補綴治療(2013/10/24)第55回:う蝕治療にどう対応するか?(2013/10/24)第54回:根管充填をめぐる話―日本歯内療法学会から(2013/10/24)第53回:う蝕が減るとどうなる?(2013/10/24)第52回:接着性レジンシーラーの前途はどうなる?(2013/10/24)第51回:ビスフェノールA(BPA)をめぐる最近の動き(2013/10/24)第50回:総義歯の将来(2013/10/24)第49回:インプラントブームについて考える(2013/10/24)第48回:ミニマルインターベンションに基づく修復(2013/10/24)第47回:金パラ(2013/10/24)第46回:東京デンタルショー2009(2013/10/24)第45回:歯と全身の病気の関係(2013/10/24)第44回:増原英一先生のご逝去を悼んで(2013/10/24)第43回:歯耗 -Tooth Wearー(2013/10/24)第42回:ジルコニアはフッ酸でエッチングできる?(2013/10/24)第41回:ポリフェノールと歯科における効用(2013/10/24)第40回:修復物からのフッ素放出の効果(2013/10/24)第39回:インパクトファクター(2013/10/24)第38回:英国の歯科治療(2013/10/24)第37回:ホルムクレゾールをめぐる論争(2013/10/24)第36回:ファイバーポストについて(2013/10/24)第35回:セルフエッチングシステムについて考える(2013/10/24)第34回:日本デンタルショー2008から(2013/10/24)第33回:義歯と義歯安定剤(2013/10/24)第32回:歯頸部欠損の修復(2013/10/24)第31回:セルフアドヒーシブ・ルーティングセメント(2013/10/24)第30回:接着ブリッジ(2013/10/24)第29回:日本歯科保存学会春季学術大会講演抄録集を見て(2013/10/24)第28回:日本歯科理工学会学術講演会から(2013/10/24)第27回:根管治療結果の大規模調査(2013/10/24)第26回:光重合について考える(2013/10/24)第24回:アマルガムは何で代替されたか(2013/10/24)第23回:歯科におけるミニマル・インターベンション(2013/10/24)第22回:日本歯科保存学会講演抄録集を見て(2013/10/24)第21回:アマルガムはどうなっているか(2013/10/24)第20回:歯を失う原因(2013/10/24)第19回:5月の学会学術講演会の講演集から(2013/10/24)第18回:レジンの硬化や接着に好ましくない影響を及ぼすもの(2013/10/24)第17回:日本歯科保存学会に出席して(2013/10/24)第16回:むし歯予防週間によせて(2013/10/24)第15回:水酸化カルシウムとFC(続)(2013/10/24)第14回:水酸化カルシウムとFC(2013/10/24)第13回「納豆でダイエット」と食育(2013/10/24)第12回:デュアルキュア(2013/10/24)第11回:改正薬事法と歯科器材(2013/10/24)第10回:歯のホワイトニング(2013/10/24)第9回:最近のコンポジットレジン(2013/10/24)第8回:ファイバーポスト(2013/10/24)第7回:HEMAのはなし(2013/10/24)第6回:根管治療かインプラントか(2013/10/24)第4回:金属アレルギーと歯科治療(2013/10/24)第3回:接着歯内療法(2013/10/24)第2回:合着と接着(2013/10/24)第1回:歯科における接着の話(2013/10/24)

新着ピックアップ


サンデンタル テクニカルセミナー 2019

「3X-Power System」を新開発!26Wへパワーアップを実現!

第112回歯科医師国家試験の総評と今後の展望

難易度高過ぎ!?現役歯科医師らが歯科医師国家試験に物申す

医療広告ガイドライン対策