▶新規会員登録

記事

2013/10/24

第1回:歯科における接着の話

歯質への接着については、1950年代に象牙質やエナメル質への接着が欧米で試みられたが、本格的研究を行い、現在のレベルにまで歯科接着の技術を高めたのは我が国であり、その中心になったのは、東京医科歯科大学の増原英一教授である。“象牙質と化学的に結合する高分子材料”を目指して研究を開始、
1960年の「歯科用充填材料の歯質に対する接着性能試験」と題する論文を出発点として、歯科用接着剤の研究・開発を続け、1980年代初期に象牙質に対して優れた接着性を示す画期的な、世界で始めての接着性レジンを生み出すのに成功したのである。それは、象牙質に対する信頼性の高い接着性レジンとして現在でも使われている「スーパーボンド」である。

実は、この「スーパーボンド」に先立つこと約10年前、増原教授のアイディアをもとに開発された接着性レジン(キャタリスト成分に「スーパーボンド」と同じものを含む)がドイツのKulzer社から「Palakav」として市販され、日本にも輸入されていた。それを筆者も30年ほど前に歯頸部に充填してもらったが、脱落することもなく現在でも残存している。その一方で、臼歯部に充填したアマルガムはずっと以前に脱落してしまっており、接着性レジンの有効性を
示す歴史的一例となっている。

近年、歯質や歯科用合金に対する接着剤、ボンディング剤が種々市販されているが、その根源はすべて増原教授グループにあり、増原教授の存在、アイディア、熱意なくして現在の歯科の接着技術は実現しなかったといってよい。歯科における接着技術、治療は、世界に先駆けて我が国で独自に開発され、発展し、接着歯学として定着しつつある。それには、接着歯学に関する情報交換や普及をめざし、1983年増原教授らが中心となってつくった日本接着歯学研究会や、それが発展して3年後にできた日本接着歯学会の果たした役割は大きい。
この学会は、接着歯学に関する世界で唯一の専門的な組織、学会であることを踏まえ、国際学会も開催するようになっている。このように、接着歯学は日本発の独自のものであり、さらに育て、発展させ、歯科治療に役立てていきたい
ものである。

歯科における接着技術は、矯正分野に始まり、保存、補綴、小児分野などで
も広く使われるようになってきており、歯科治療における基幹的技術の一つに
なりつつある。前歯・臼歯・破折歯のコンポジットレジン修復、メタルインレー修復、ラミネートベニア修復、ブラケット・コンポジットレジンインレー・ジャケットクラウンの接着、硬質レジン前装、接着ブリッジ、メタルボンドクラウ
ンや義歯の破折修理、レジン床や金属床義歯のリライニングなどで活用されている。

近年、Minimal Intervention (MI)という概念、言葉が歯科界で取りざたさ
れるようになったが、それはまさに接着技術の進歩によりもたらされたものである。従来の歯科治療では多くの健全歯質までも犠牲にすることが前提となっていたが、最大限歯質を残して治療するとともに、二次う蝕も防止するという方向に転換しつつある。MIのみならず、従来の概念、治療法では不可能であったようなことが、接着により可能になる道も拓けつつある。しかし、接着技術、治療もまだ十分完成されたものではない。市販されてい
る接着剤、接着システムはさまざまであり、良好な結果を得るには、その使用者、術者がそれらの性質、特性をよく理解することが欠かせない。接着についてはメーカー主導であり、利用者に必ずしもよく理解されているとは思えないところがある。接着のことをよく理解したうえで積極的に治療に応用し、取り入れていってほしいと願っている。その一助となるよう、本コラムでは、歯科接着にかかわる最新の情報、話題を提供するとともに、基礎的事項の解説もしていきたいと考えている。

記事一覧
プロフィール 第122回:清涼飲料の酸蝕性と酸蝕症(2016/08/01)第121回:セラミックインレー/アンレーの寿命(2016/07/12)第120回:最近のう蝕治療の考え方(2016/06/03)第119回:患者の望む歯科医療(2016/05/10)第118回:根管治療に関する記事へのコメント(2016/03/31)第117回:レジン修復と二次う蝕(2016/03/01)第116回:歯科インプラントは万能かそれとも歯の保存に努力すべきか(2016/02/01)第115回:ハイブリッドレジン、ジルコニアの接着(2015/12/16)第114回:ハイブリッドレジン製CAD/CAM冠の脱離(2015/11/10)第113回:歯周病にまつわる最近の論文から(2015/10/08)第112回:光線力学的治療(Photodynamic therapy, PDT)の医療における利用(2015/09/01)第111回:慢性歯周炎治療におけるスケーリング・ルートプレーニングと補助療法の効果(2015/08/03)第110回:破折歯の診断と処置(2015/06/29)第109回:グラスファイバーポストを利用した支台築造(2015/05/18)第108回:バルクフィルレジンについて考える(2015/04/07)第107回:う蝕乳臼歯の治療の見直し(2015/03/03)第106回:臼歯のコンポジットレジン修復物の寿命(2015/01/19)第105回:CAD/CAMの保険導入と今後(2014/12/02)第104回:非う蝕性歯頸部欠損の修復(2014/10/27)第103回:MTAをめぐる動き(2014/09/18)第102回:EPAとDHA神話の行方(2014/08/12)第101回:深在性う蝕の治療―銅セメントはよみがえるか?(2014/07/22)第100回:歯科における接着―その源流(2014/06/11)第99回:インプラントの不具合と医療機関の対応(2014/05/02)第98回:歯科のかかわりが疑われる医原性疾患(2014/04/09)第97回:ノンクラスプデンチャーについて考える(2014/03/07)第96回:知覚過敏抑制材料(2014/02/10)第95回:根管治療の新しい試み(2014/01/06)第94回:根尖性歯周炎の全身への影響と治療(2013/12/03)第93回:歯の保存かインプラントか(2013/11/14)第92回:歯耗(Tooth Wear)の発生状況とそのリスク因子(2013/10/24)第91回:予防指向の歯科医療(2013/10/24)第90回:初期う蝕の革命的処置法(2013/10/24)第89回:う蝕治療の再考を!(2013/10/24)第88回:国民の医療・保健への歯科界の貢献に期待する(2013/10/24)第87回:修復物のリペア(2013/10/24)第86回:英国版歯科疾患実態調査と歯周診査のありかた(2013/10/24)第85回:早急に"代用合金"から脱皮を!(2013/10/24)第84回:根管治療歯は時限爆弾?(2013/10/24)第83回:歯質接着システムは進化している?(2013/10/24)第82回:生活歯髄治療の成績(2013/10/24)第81回:薬事工業生産動態調査から見た歯科材料の動き(2013/10/24)第80回:平成23年歯科疾患実態調査について(2013/10/24)第79回:深在性う蝕の治療―窩底軟化象牙質をどうするか(2013/10/24)第78回:根管治療成績について考える(2013/10/24)第77回:歯みがき後のうがい ―フッ化物配合歯磨剤のう蝕予防効果を高めるには―(2013/10/24)第76回:成人のう蝕予防(2013/10/24)第75回:メタルボンドか、オールセラミッククラウンか(2013/10/24)第74回:糖尿病対策と歯科への期待(2013/10/24)第73回:インプラント義歯の保険導入(2013/10/24)第72回:不況は米国の歯科界にどのような影響を及ぼしているか(2013/10/24)第71回:う蝕乳臼歯処置の新たな選択肢(2013/10/24)第70回:根管治療の見直しと新しい試みを!(2013/10/24)第69回:垂直歯根破折の処置(2013/10/24)第68回:コンポジットレジンのリペア(2013/10/24)第67回:Siloraneモノマーをベースとする画期的コンポジットレジン(2013/10/24)第66回:歯科金属アレルギーと慢性疲労症候群(2013/10/24)第65回:根管の化学的清掃(2013/10/24)第64回:インプラントをめぐるせめぎあい(2013/10/24)第63回:メタボリックシンドロームと歯周病(2013/10/24)第62回:東日本大震災によせて(2013/10/24)第61回:象牙質知覚過敏の治療(2013/10/24)第60回:支台築造をめぐって(2013/10/24)第59回:短縮歯列(2013/10/24)第58回:インプラント歯科の教育をどうするか(2013/10/24)第57回:くさび状欠損の原因は歯のくいしばり?(2013/10/24)第56回:英国における最近の欠損補綴治療(2013/10/24)第55回:う蝕治療にどう対応するか?(2013/10/24)第54回:根管充填をめぐる話―日本歯内療法学会から(2013/10/24)第53回:う蝕が減るとどうなる?(2013/10/24)第52回:接着性レジンシーラーの前途はどうなる?(2013/10/24)第51回:ビスフェノールA(BPA)をめぐる最近の動き(2013/10/24)第50回:総義歯の将来(2013/10/24)第49回:インプラントブームについて考える(2013/10/24)第48回:ミニマルインターベンションに基づく修復(2013/10/24)第47回:金パラ(2013/10/24)第46回:東京デンタルショー2009(2013/10/24)第45回:歯と全身の病気の関係(2013/10/24)第44回:増原英一先生のご逝去を悼んで(2013/10/24)第43回:歯耗 -Tooth Wearー(2013/10/24)第42回:ジルコニアはフッ酸でエッチングできる?(2013/10/24)第41回:ポリフェノールと歯科における効用(2013/10/24)第40回:修復物からのフッ素放出の効果(2013/10/24)第39回:インパクトファクター(2013/10/24)第38回:英国の歯科治療(2013/10/24)第37回:ホルムクレゾールをめぐる論争(2013/10/24)第36回:ファイバーポストについて(2013/10/24)第35回:セルフエッチングシステムについて考える(2013/10/24)第34回:日本デンタルショー2008から(2013/10/24)第33回:義歯と義歯安定剤(2013/10/24)第32回:歯頸部欠損の修復(2013/10/24)第31回:セルフアドヒーシブ・ルーティングセメント(2013/10/24)第30回:接着ブリッジ(2013/10/24)第29回:日本歯科保存学会春季学術大会講演抄録集を見て(2013/10/24)第28回:日本歯科理工学会学術講演会から(2013/10/24)第27回:根管治療結果の大規模調査(2013/10/24)第26回:光重合について考える(2013/10/24)第25回:インプラントの普及とブリッジ(2013/10/24)第24回:アマルガムは何で代替されたか(2013/10/24)第23回:歯科におけるミニマル・インターベンション(2013/10/24)第22回:日本歯科保存学会講演抄録集を見て(2013/10/24)第21回:アマルガムはどうなっているか(2013/10/24)第20回:歯を失う原因(2013/10/24)第19回:5月の学会学術講演会の講演集から(2013/10/24)第18回:レジンの硬化や接着に好ましくない影響を及ぼすもの(2013/10/24)第17回:日本歯科保存学会に出席して(2013/10/24)第16回:むし歯予防週間によせて(2013/10/24)第15回:水酸化カルシウムとFC(続)(2013/10/24)第14回:水酸化カルシウムとFC(2013/10/24)第13回「納豆でダイエット」と食育(2013/10/24)第12回:デュアルキュア(2013/10/24)第11回:改正薬事法と歯科器材(2013/10/24)第10回:歯のホワイトニング(2013/10/24)第9回:最近のコンポジットレジン(2013/10/24)第8回:ファイバーポスト(2013/10/24)第7回:HEMAのはなし(2013/10/24)第6回:根管治療かインプラントか(2013/10/24)第5回:MT教授の特別講演(2013/10/24)第4回:金属アレルギーと歯科治療(2013/10/24)第3回:接着歯内療法(2013/10/24)第2回:合着と接着(2013/10/24)第1回:歯科における接着の話(2013/10/24)

新着ピックアップ


第112回歯科医師国家試験の総評と今後の展望

難易度高過ぎ!?現役歯科医師らが歯科医師国家試験に物申す

ガムを噛んで唾液を出すだけ!唾液検査用ガム

医療広告ガイドライン対策