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2013/10/24

第36回:シアトルにてInternational Association for Dental Research (IADR)が開かれる

第91回国際歯科大会(IADR)が平成25年3月20日から23日まで米国ワシントン州シアトルに開催された。当講座の鳥海助手と筆者がポスター発表の機会を得ることができたので参加した。

日本のA航空会社がシアトルまでの直行便を運航開始したので、従来と比較して乗り継ぎなしで行ける、と期待していたが、787機のトラブルにて、シアトルへの直行便は欠航となり、サンフランシスコ経由となった。A社からの欠航の案内も遅く、変更された便の席の余裕もなく、対応はとても良いと言えるものではなかった。
当日の成田出発が遅れたため、サンフランシスコにての入国は特別ルートにて入国することで、シアトルへの便には、間に合ったが、私のスーツケースが乗り遅れた。しかし、シアトルに到着した夜にスーツケースはホテルの部屋に届いた。ウイーンのようにはならなかった。

宿泊は学会会場から歩いて5分のクラウンプラザホテル。朝食メニューにJapanese Breakfastを見つけたので、早速、期待して注文したが。おすすめできるものではなかった。おそらく、人生の中で最も驚く、みそ汁とお米だった。しかし、店員に“Everything is good?”と尋ねられると、“good”と言ってしまった。やはり、次に注文する人のことを考えると“This is not real Miso soup”というべきだったのであろうか。今までに、だれも、Miso soupの味を指摘したことがないのだろう。メニューとして用意してあるのだから、ぜひとも次回までにその味を改善して頂きたいと切望する。

今回は東京理科大学・総合研究機構・辻 孝先生の講演を紹介する。Distinguished Lecture Seriesとして21日木曜日午前9時45分から45分間の講演。講演タイトルは「Tooth Regenerative Therapy as a Future Dental Treatment」である。今回は、歯の再生の話だと毛髪および唾液腺の再生の最新結果も含めて講演され、私の知りあいからも絶賛されるものだった。

病気や事故で失われた組織、臓器および器官の機能回復を目的として、細胞の再生や組織の修復の仕組みを利用した医療が「再生医療」である。従来の医療では、機能を喪失した臓器や器官を治すための治療として、人工材料や人工関節などの利用や、他人から提供された組織や臓器を用いた皮膚移植・骨髄移植および臓器移植などが行われてきた。再生医療は、それらに代わる次世代医療として、生体外で人工的に作製した組織や器官と置換することを目指している。

辻先生らのグループは、器官発生の生物システムと工学的な技術を用いて、単一化細胞から細胞操作により器官原基を再構築するための「器官原基法」と称して研究を続けている(Nature Methods 2007)。

下記は辻先生らのグループのホームページからの抜粋となる。

「すべての臓器や器官は、それらのタネにあたる「器官原基」から発生します。器官原基は胎児期に、それぞれの臓器や器官に対応して、決まった位置に決まった数だけつくられます。たとえば、髪の毛のタネである毛包原基は10万個、歯のタネである乳歯歯胚は20個、永久歯歯胚は32個、内臓であれば肺原基は1個 (左右で1個)、腎原基は2個といった状態です。ですから、臓器や器官が機能不全になったり喪失したりした場合、同じ臓器や器官を再びつくり出し、リカバーすることはできません。
こういった場合の治療法として、現在考えられるのは、免疫的な拒絶反応を起こさない他の人の臓器や器官の提供を受けて移植する臓器移植治療だけです。ドナー臓器の提供を待つ間は、機械的な人工臓器を装着して機能を補うことになります。そこで、体外で完成された臓器や器官をつくるのではなく、臓器や器官のもととなるタネ(器官原基)をつくり出す細胞操作技術の開発、およびタネ(器官原基)が正常な発生過程を再現して臓器や器官へと成長可能な技術の開発に取り組みました。

まず挑んだのは、「歯」の再生です。器官原基は、「上皮細胞」と「間葉細胞」という2種類の細胞から構成され、その相互作用によって複数種類の細胞が生み出されます。そしてそれぞれの臓器や器官に特有の形や機能を持つように成長します。

マウスの胎仔から歯のタネ(器官原基)を取り出して、上皮細胞と間葉細胞に分離。この2種類の細胞をコラーゲンゲルの中で、生体内と同 等の高密度で凝集させ、それぞれの凝集体が混ざり合わないよう区画化して接触させました。この方法で再構成した歯のタネは、正常な歯と同じように発生する ことができることを突き止め、この成果を2007年に世界的に著名な学術雑誌「Nature Methods」に発表しました。」

上記に説明されている研究は、イギリスやフランスのグループから発表された研究を完全な技術、言い換えると再生の成功率を100%にした技術の確立であり、大きく取り上げられた。

その後、同グループは、マウスの胎生期の歯胚から単離した細胞を組みなおして作った人工的歯胚(歯のタネ、器官原器と呼ばれている)を顎の骨に移植すると本来の歯と同様な歯周組織も発生(再生)すること、さらに、再生した歯の中には、神経組織も再生され、矯正的に歯を移動させることもできることを実験的に明らかにした。

この神経組織が繋がるということは驚く事実です。歯の神経組織は、歯の発生途中(鐘状期)に歯胚の外側に存在している神経組織が歯胚の中に入り込んで、歯の神経システムができることが知られている。再生した歯胚の中に、もともと神経組織が発生して、外の神経組織が連続したのか、歯を抜歯した後の歯槽に、歯胚を移植して、その歯胚の中に外にいた神経組織が入り込んでくるのかが、興味が持たれるところである。

また、面白い実験として、単離した歯胚の細胞を組みなおした人工歯胚を、歯を抜歯した後の歯槽に移植すると、歯肉を破って萌出してくることを観察している。そして、萌出した歯は、反対側の歯とかみ合せができて、食べ物をかみ砕くができる硬さになるという結果を2009年、米国科学アカデミー紀要(PNAS)誌に発表した。

講演では、辻先生の研究グループは歯と同じ外胚葉性器官である「毛包」にも着目し、毛包原基(毛のタネ)から、天然の毛と同等の毛ができることも発表した。
この研究の対象とする疾患は、男性型脱毛症のようだ。現在、日本において、1200万人以上の男性が男性型脱毛症であると言われ、円形脱毛や遺伝的素因による毛髪の形成不全など、多くの毛髪に関わる悩みを持つ男性は多いようである。

以下は、辻先生の研究グループのホームページの記述である。

「毛髪を作り出す器官である毛包は、男性ホルモンの影響で小さく変性したり、自己免疫や外傷により破壊されることで、脱毛症を引き起こすと考えられています。現在、多くの脱毛症は医療機関における内科的・外科的な治療が積極的に行われています。これまでに、男性ホルモンの影響を阻害する薬剤や、正常な毛包を切り取り脱毛部位に移植する自己植毛術が開発され一般的になりつつあります。しかし、これらの治療技術では、全ての症例に有効ではなく、また毛包の数を増加させることはできません。そのため毛髪の再生医療が期待されています。私たちは、患者さん自身の細胞を使って正常な毛包のもととなる「毛包原基」から毛包を再生する「毛髪再生医療」の基礎研究を進めています。髪の毛を生み出す器官である毛包は、他の器官と同様に胎児期に上皮細胞と間葉系細胞の相互作用により形成されます。他の器官は胎児期にしか形成されないのに対して、毛包は周期的なヘアサイクルにより毛包器官の再生を繰り返しています。
毛包には、毛包上部の皮脂腺付近に少し膨らんだ部分(バルジ領域)に毛包上皮幹細胞が存在し、毛乳頭には、真皮や皮下組織などに分化できる多分化能を持つ幹細胞と相互作用して、毛包再生によるヘアサイクルが起こると考えられています。また、毛髪の色を制御するメラノサイトの幹細胞も、バルジ領域付近に存在することが示されています。これらの複数の幹細胞は、三次元的に特定の場所(ニッチ)で維持され、生涯に渡って器官再生能を持ち続けると考えられています。

私たちが開発した「器官原器法」は、胎児期の歯や毛包原基細胞が自律的に器官発生を再現して機能的な器官の再生を可能とし、成体の毛包幹細胞から器官原器法により人工的に再生毛包原器を作製し、任意の皮膚内に移植して、皮膚表皮層やその他の組織と正常に連続した毛包を再生させる技術を開発しました。

この技術により、再生毛包は周辺組織と適切に接続すると共に、機能的な再生が可能であり、毛髪再生医療の実用化に向けて大きなブレークスルーを与えることができました。

今後、私たちは、ヒト自己幹細胞を用いて毛包原基を再生し、移植する医療技術を確立し、毛髪再生医療の実現に貢献したいと考えています。」

今回の研究成果で特筆すべきことは、歯を再生させる実験では、胎児の歯胚細胞のみしか歯の再生に成功していないが、毛髪再生の場合には、胎児毛原基だけでなく、成体毛包の毛包上皮系幹細胞と間葉系の毛乳頭細胞の幹細胞から毛が再生して萌出することを示したことである。その理由として、上皮と間葉の細胞群の中に、再生能力が高い幹細胞が成体に存在していることが考えられる。毛髪は常時、はえかわる、つまり、再生していると同じ現象が起きている。歯は一度しかはえかわらないので、歯と毛髪の大きく異なる点だ。

辻先生らの研究グループが開発した再生毛包では、移植した皮膚内において、再生した毛は自然に生える毛と同様の構造を持ち、はえかわりの周期も正常と同様であり、3か月間その周期が続いたようだ。一方で、歯では100%を謳っていたが、マウスの細胞で作製した再生毛包原基をマウス皮膚に移植した場合、約74%の確率で発毛するとのこと。毛髪が生えてくる密度(120本/cm2)も通常の発生で生えてくる密度と同等のようだ。

最後に「再生医療の初期は高額な医療とならざるを得ないが、確実な技術の下、自由診療で治療を提供することで普及させ、価格を下げることも可能なのでは、厚生労働省の承認を受け、市販されているジャパン・ティッシュ・エンジニアリングの培養皮膚製品の価格をもとに推測すると、 毛包原器の再生による脱毛症の治療も初めは1200万円前後の価格から始まるのかもしれない」とは、辻先生の推定である。

暑い夏も過ぎようとしている。歯科大学にいると夏はスポーツ・デンタルの季節である。デンタルの大会の前には、合宿を行う。先輩・後輩とのほんの数日であるが、泊まり込みで頑張る。大会を目前にして、緊張もするし、わくわくもする。この合宿にて、驚くほど力がつく。青春の合宿の記憶をいつも夏の季節になると思い出す。そんな環境で仕事ができたらな、と考える。

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