第88回:国民の医療・保健への歯科界の貢献に期待する

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5月のDentWaveニュースを見ていると、「日本リウマチ学会:歯周病と関節リウマチの関係ついて興味深い研究発表」(2日)、それと「厚労省、医科・歯科連携促す 取り組む自治体に助成」(16日)という記事があり、これをみて1年以上前に書いたコラムと似たような趣旨のことを記す気になった。 歯周病と全身性疾患との関連性については、糖尿病がよく知られたところであるが、それ以外に心血管系疾患、呼吸器感染症、早産・低体重児出産、骨粗鬆症、メタボリックシンドロームなども挙げられている。さらに近年では、歯周病と関節リウマチ(rheumatoid arthritis、以下RAと略)には共通の原因となる病理的特徴があると考えられてその関連性も注目され、歯科も糖尿病だけでなく、RAの医療にも貢献できる可能性があることが示唆されており、歯科にも何らかの役割を期待したいのである。 日本リウマチ学会での京大病院・リウマチセンターからの発表は、診断未確定・無治療の関節痛患者を対象に、歯周病の合併がその後の治療などに及ぼす影響を調べたものであるが、「歯周病を有する患者は有さない患者と比べて関節炎の活動性が高く、後にRAと診断され、メトトレキサート治療を導入される可能性が高い」というのが要約である。これは症例研究の一例であるが、多数の症例研究を含め2012年6月までの19論文をまとめたシステマティックレビューがJournal of Dental Research 5月号に掲載されている。これは、abstractをもとに選んだ61論文から、全文および方法の妥当性を検討して厳選した19論文(症例研究16、実験的研究3; 定量的なメタ分析では12論文を採用)のレビューである。そのおよその内容は次のようである。歯周病とRAとの関連性は、歯の喪失、歯肉の付着喪失で強く、RA患者はそうした観点から見て有意に多く歯周病に罹患した。両疾患の関連性は、赤血球沈降速度、CRP(C反応性タンパク質)、IL(Interleukin)-1βでかなり認められた。抗CCP(環状シトルリン化ペプチド)抗体、リウマトイド因子、TNF (腫瘍壊死因子)などの炎症マーカーとの関連性は、明確ではないかあるいはなかった。歯周病のあるRA患者の血清中の歯周病原菌・P.gingivalis 抗体レベルの増加はある程度の関連性があった。歯周病を治療するとRAの臨床症状の改善に役立つということがある程度認められた。 もう一つの厚労省云々という記事はその情報源は5月14日の日経新聞電子版であるが、厚労省が歯科にどのようなこと想定しているのかと思ってそれを見ると、「病院での通常治療に歯周病などの歯科治療を組み合わせてがんや糖尿病の治療効果を高める「医科歯科連携」の普及に乗り出す。連携に取り組む地方自治体向けの助成制度をつくり、今年度から全国十数カ所でモデル事業を開始。数年で約100カ所へ広げる。薬の使用量や入院日数を減らし、医療費の抑制につなげる。・・(略)・・具体的には糖尿病の患者やがん治療で入院する患者に対し、歯科医師が口内を診察して歯周病などを治療する。病院には歯科が設けられていない場合が多く、外部の診療所と組織的に連携して歯科医を招く。」などと書いてある。 この構想では、医科が歯科に単に治療の協力を求めることのようであり、この程度のことであれば予算措置して大げさに手間ひまかけてするほどのことでもあるまい、というのが筆者の感想である。もう少し歯科の医科への積極的関与のある連携も想定されているのかと思っていたため、残念ながら大いなる期待はずれである。この構想で重要課題である"医療費の抑制につなげる"がどの程度達成できるか極めて疑問である。罹患後治療ではなく、予防的観点を重視することが、国民の保健、延いてはとくに高齢者の医療費抑制に必要であると思う。それには、医科と並んで医療の重要な人的資源である歯科を積極的に活用しないのは惜しいことである。 最近病院に行ったところ、待合室に糖尿病に関する各種の小冊子が置いてあり、その中に"糖尿病と歯周病をよく知ろう"という12頁のマンガの小冊子があった。その中に下図のようなシーンがある。例えばこのような形での歯科主体での医科歯科連携も厚労省は積極的に考えてほしいと思うし、実際にこのような取り組みをしている歯科医院もあるということである。じつは1年以上前の74回コラム「糖尿病対策と歯科への期待」で海外論文を紹介しつつ"歯科医院通院ついでに血糖値を測定してもらえるとしたら、それは患者にとってありがたいことであろう"などと書いたことがあり、このマンガを見て嬉しく思うとともに意を強くしたことである。74回コラムをぜひもう一度ご覧いただきたいと思う。 筆者の頭にある歯科での予防的役割というのは例えば次のようなものである。糖尿病ではマンガのようなことでこの場合には簡単ながらも測定が必要である。RAの場合には問診のみでよいと考えている。すなわち、RAの診断では左右の肩・肘・手・膝各1関節と手指10関節、合計28関節の圧痛関節数と腫脹関節数が最も基本的なデータの一つになっているようであるが、歯科ではこれら部位での疼痛の自覚症状を問診する程度でよいであろう。その結果次第では、歯周病の重症度により、患者がまだ医科でRAの受診していないようであれば医科での受診を勧め、それと並行して歯周病治療を進める。"歯周病を治療すればRAもよくなる、あるいはRAを治療すれば歯周病もよくなる"という観点から、診療者、患者ともに、医科でのRA、歯科での歯周病の治療の重要性を認識することが大切だと思う。 予防的という観点からRAと歯周病について記したが、さらに進んでRAの治療に歯科が積極的に関与できる可能性もあることを66回コラムで紹介した。内科医から紹介された関節痛(RA)などのある患者から金パラを除去すると、ほとんどの症例において痛みが消失あるいは軽減した話である。これは歯科金属補綴物に由来する医原病としてのRAの原因除去療法といえ、積極的な医科歯科連携により患者が救われるケースである。 (2013年6月3日)
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